離乳食の開始は早くするか?遅くするか?
■ 2015年のレビューですが、その後食物アレルギーのスタディが続けざまに発表されました。
■ しかし、レビュー自体の完成度は高く、最近の研究の進展を概観することができるレビューです。
■ 離乳食をいつから開始するかに関し、推奨が大きく変化してきていることもあり、混乱が見られることになりました。
■ そこで、この優れたレビューの全文をフリーで読むことが出来ることもあり、少し突っ込んで読んだうえで、さらに最近の研究結果(2017/3/6まで)を含めまとめてみたいと思います。
* 2016/6/24に作成した記事を、2017/3/6 フォーマット修正に加え、参考文献や最近の報告も含めて管理人の考えにも言及しました。
* 2017/5/9 他の記事と同様、サーバー移行に伴い、リンクがきれてしまったので、再度修正しました。
【Key points】
✅最近の研究結果は、離乳食を遅らせることがアレルギーを予防しないことを示唆する。
✅ピーナッツの早期導入がピーナッツアレルギーを予防することを示唆する。
✅生後6か月までの完全母乳栄養は推奨されるが、食物アレルギーを予防する根拠はない。
このレビューは、離乳食開始時期を述べたものです。
■ このレビューは、MEDLINEで1990年以降の "food allergy" と "allergy prevention"の語句で検索した論文を評価したレビュー(システマティックレビューではない)です。
■ AAP(American Academy of Pediatrics;米国小児科学会)は、2000年にハイリスク児に対し、生後12ヵ月までの牛乳、24ヵ月までの鶏卵とナッツ、36ヵ月までの魚の回避を推奨した。しかし、この推奨はコンセンサスに基づいていました。
離乳食開始を遅らせるという2000年の推奨は、2008年に撤回されています。
■ 1600名以上の出生コホート研究で、小麦を生後6か月以降に遅らせると小麦アレルギーリスクが高くなる(2006年)。
■ ピーナッツが早期導入されるイスラエルのユダヤ人より、遅く導入するイギリス系ユダヤ人の方がピーナッツアレルギーが10倍多い(p<0.001)(2008年)。
■ 2500名以上の横断研究で、4-6か月に鶏卵を導入するより、生後10-12か月で調整オッズ比1.6[95%信頼区間 1.0-2.6]、12か月以降で調整オッズ比3.4[95%信頼区間 1.8-6.5]高くなる(2010年)。
■ 13000名の前向き研究で、生後105-194日に乳を開始した児に比べ、生後2週以内に開始をした群の方が乳アレルギーが少ない(p<0.001)(2010年)。
■ 2500名以上の出生コホートで、離乳食の導入の遅れは生後2歳でのEczemaとアトピーに関係する(2008年)。
■ 後ろ向きデータベースによる研究で、腸管の未成熟のために早産児では食物アレルギーのリスクが高いことは否定(2007年)。
■ これらの結果から、2000年の推奨は2008年に撤回された。
除去食推奨が撤回されたあと、このような報告がありました
■ LEAPスタディは、ピーナッツを生後4-10か月から5歳まで継続摂取することで、導入群3.2%、回避群17.2%とピーナッツアレルギーを80%減らすことを示した(p<0.001)。
ピーナッツを早期に摂取開始したほうがピーナッツアレルギーが減少する(LEAPスタディ)
■ EATスタディは、生後3か月にピーナッツ、ゴマ、小麦、魚、鶏卵、乳の早期の導入が、生後6か月以降に導入するより有益性があるかを研究中である。(管理者注;2016年に結果が報告された。)
生後6ヶ月より前からの早期離乳食開始は食物アレルギー予防となるかもしれない(EATスタディ)
■ HEAPスタディは生後4か月から週3回以上の早期導入が1歳に導入するより予防効果があるかを評価する予定である(管理者注;2016年に結果が報告され、”予防できない”という結果)。
卵早期摂取は、卵アレルギー予防に効果がない (HEAPスタディ): ランダム化比較試験
■ LEAPスタディの対象児が、その後持続的な予防効果があるかをLEAP-onスタディで評価される予定である。(注;2016年に結果が報告された。)
乳児期に早期導入して予防した食物耐性は、中断しても維持される(LEAP-ONスタディ)
■ AAAAI(米国免疫アレルギー学会)は、中等度から重度のアトピー性皮膚炎を持つ児に関して、アレルゲンを含む食物を開始する前に専門家に評価を受けることを勧めている。
■ LEAPスタディの著者はハイリスク児に対しては生後4-8か月時に皮膚プリックテストを受けることを勧めている(管理者注; ”きょうだいが食物アレルギーだからという理由ではハイリスクではなく、スクリーニング的な検査は勧められていない)。
食物アレルギーのある児の、きょうだいのスクリーニング検査は控えるべき: コホート研究
【不明な点】
✅ピーナッツ以外の早期導入に対し、アレルギーを予防する根拠はない。
(管理者注;その後のEATスタディ・PETITスタディの結果は卵も早期導入で予防できる可能性を示した)
✅導入した食物を「どれくらいの頻度で」「どれくらいの量」で摂取すれば良いかというデータはない。
✅早期の食物摂取が、永続的なものか短期的なものなのかを示す根拠もない。
(管理者注;LEAP-onスタディの結果は、5歳まで継続した場合は、1年間除去しても新しくピーナッツアレルギーの発症が少ないことを示している。)
離乳食は”早期に摂取することを推奨”に変わりつつあります。
■ 長々となりましたが、食物アレルギー予防の発展に極めて重要な論文がコンパクトにまとめられており、問題点も納得できる形に収束しています。
■ 今後、離乳食導入は早まることが予想され、最近のコホート試験の報告でも、海外の報告でも有意に早くなってきています。
離乳食開始時期は早くなってきているかもしれない: コホート研究
■ なお、「WHOが離乳食を6ヶ月以降から開始と言っている」という意見を耳にすることがあります。しかし、WHOの推奨は、アレルギー予防を目的としているわけではなく、”遅くとも”6ヶ月には始めましょうと提唱しているのであり、"6カ月以降に”と言っているわけではないことも以前ご紹介しました。
WHO(世界保健機構)はアレルギー予防のために生後6ヶ月以降に離乳食開始を推奨しているわけではない
■ このような結果を鑑みて、ピーナッツに関しては、むしろ”早期に摂取することを推奨”に変わりつつあります。
■ ただし、著者も述べていましたが、中等症以上のアトピー性皮膚炎児に関する評価は必要ではあり、また、どれくらいの量から始めるかなど、解決すべきことが山積している状況です。早期摂取を一般化する道のりは簡単ではないようです。
■ さらに2016/12に、皮膚の治療を十分した上で卵を少量で開始することで、大幅に卵アレルギーを予防できることが報告(PETITスタディ)され、食物アレルギーの予防の概念がさらに進みつつあります。
加熱卵を少量で早期開始すると、1歳時の卵アレルギーを予防できる(PETITスタディ): ランダム化比較試験
■ 今後の動向に注意していく必要があるでしょう。
今日のまとめ
✅離乳食開始を遅らせて食物アレルギーを予防するという方法は、根拠はないどころか、食物アレルギーを増やす可能性が高い。
✅しかし、ある程度証明されているのは卵とピーナッツのみで、どの食品を・いつから・どれくらいの量・いつまで摂取させるかどうかは、まだ明らかになっていない。
✅湿疹がある場合は改善させてから、最初は少量から始めたほうがいいようである。
保護者からの質問に自信を持って答える 小児食物アレルギーQ&A
* 2016/11/25 フォーマットを修正、2017/3/6 内容をアップデートしました。