アトピー性皮膚炎発症・増悪における「ダブルスイッチ」理論

新しいアトピー性皮膚炎の発症メカニズム概念である、「ダブルスイッチ数理モデル」をご紹介します。

■ アトピー性皮膚炎の発症メカニズムは、十分解明されたとは言えません。

■ 私は、学会での講演などでは、京都大学の樺島先生のグループからの論文をよく引用させていただいています。

アトピー性皮膚炎とバリア機能: レビュー

■ 少なくとも、バリア機能障害を改善させるための保湿剤の定期塗布により、アトピー性皮膚炎の発症を減らす可能性が指摘されており、皮膚バリア低下を示唆するTEWLがアトピー性皮膚炎発症を予測することも報告されています。

新生児期からの保湿剤定期塗布はアトピー性皮膚炎を予防する: ランダム化比較試験

生後2日、2ヶ月の経皮的水分蒸散量(TEWL)は、1歳でのアトピー性皮膚炎発症を予測する

生後6ヶ月の経皮的水分蒸散量(TEWL)は、2歳でのアトピー性皮膚炎発症を予測する: 前向きコホート試験

■ 一方で、好酸球数やTARC、TSLPもアトピー性皮膚炎発症を予測します。

表皮のTSLPはその後のアトピー性皮膚炎発症を予測する

生後4週の血中好酸球数はその後のアトピー性皮膚炎発症を予測する

■ つまり、炎症とバリアの両面から、発症・増悪を考えていくことになるわけですが、それを数学的モデルを用いて証明をしようとした研究結果をご紹介いたします。今後、この「ダブルスイッチ仮説」が主流となっていくかどうかはわかりませんが、「二重抗原曝露仮説」など、こういう仮説はトップジャーナルで提唱されると広まる印象がありますので、注意してみていくべきでしょう。

■ ただ、数学的モデルは私には難解で、今回はAbstract+Figureをご紹介することにいたします。なお、この論文は、すでに全文がフリーで確認できます。

 

PECO
今回はPECOはなし。

 

結局、何を知りたい?

 ✅数学的モデルを用いて、アトピー性皮膚炎の発症と増悪を説明しようとしている。

 

Dominguez-Huttinger E, et al. Mathematical modeling of atopic dermatitis reveals "double-switch" mechanisms underlying 4 common disease phenotypes. J Allergy Clin Immunol 2017; 139:1861-72.e7.

ダブルスイッチ数理モデルとは何か?

 

背景

■ 皮膚バリアは、生物学的、微生物による、身体的なおよび化学環境ストレッサーに対する曝露において、最初の防御境界として作用する。

■ 皮膚バリアの障害におけるダイナミックな相互作用、免疫応答の機能不全・環境ストレス要因は、アトピー性皮膚炎(AD)の発症における主な要因である。

■ システム生物学をモデル化したアプローチは、これまでの生物学的データの統合を通じて、これらの理解が難しいダイナミックな過程に、本質的な洞察を産む可能性がある。

目的

■ 我々は、皮膚バリア、環境ストレス、免疫調節不全にダイナミックな相互作用を示すアトピー性皮膚炎の病因に関するマルチ・スケール数学的モデルを開発した。そして、ADの発症、増悪、予防における整合的なメカニズムの理解を達成しようと試みた。

方法

■ アトピー性皮膚炎のフェノタイプは、大部分は無症候性で軽症であり、また重篤で治療抵抗性の発症様式まで存在する。我々はこれらのダイナミックな発症との増悪に対し、数学的に既知の遺伝子のおよび環境危険因子の相乗効果を調査した。

結果

■ 我々のモデル分析は、「ダブルスイッチ」を確認した。

■ アトピー性皮膚炎の病因を説明する鍵となるネットワーク・テーマとして、安定状態を有する二つのスイッチを確認した。

スイッチ①は可逆性の炎症発症の原因となり、スイッチ②は、最初のスイッチが持続するか頻度が高いかによって引き起こされる

■ そして、スイッチ②は、全身性のTh2感作の不可逆性の発症を惹起して、AD症状が増悪させる

 

結論

■ 二つのスイッチに対する我々の数学的分析は、遺伝的危険因子が全身Th2感作の引き金を引き、環境ストレッサーの閾値を減少させると予測した。

■ この分析は、軽症および可逆性のフェノタイプから重篤および困難な疾患に対し、一般によくある4つの臨床ADフェノタイプを予測・説明した。

■ アトピー性皮膚炎の発症に対するメカニズム解析により、皮膚保湿剤治療が、臨床的に予防的効果を示すことを確認した。

 

論文から引用 (Figure 4A)。

ダブルスイッチ状態によって述べられる4種類のADフェノタイプ。

 

論文から引用 (Figure 7)。

・ADの発症と増悪のためのダブルスイッチ・メカニズム。
・環境ストレス要因は、ADの紅斑を誘導する最初の可逆性のあるスイッチ①を起動する可能性がある。しかし、それは治療によって逆転する可能性がある。
・頻度が高いかもしくは持続性のADの紅斑は、第2の不可逆的なスイッチ②を起動させる可能性がある。そして、重篤なADを発症する。

 

論文から引用。まとめの図。

 

 

この”ダブルスイッチ”メカニズムは今後よく引用されるかも。

■ 最終的な結論は、アトピー性皮膚炎発症・増悪のメカニズムとしてすでにあるものかもしれませんし、私も講演ではこんな感じの話をすることがあります。

■ でも、数学的モデルを用いて、「イメージだけではない」のが新しいところでしょう。

■ 挙げられたFigureは、今後よく使われるものになるかもしれません。

 

今日のまとめ!

 ✅アトピー性皮膚炎の発症メカニズムを数学的モデルを用いて探索し、「ダブルスイッチ・メカニズム」が提唱された。

 

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