アトピー性皮膚炎の治療に関し、衣服に関するコメントをすることがあります。
■ 寒い季節になると、セーターなどで皮膚をかゆがるお子さんが出てきます。
■ とくにアトピー性皮膚炎は、アロネーシス・ハイパーネーシスという現象があり、刺激が軽微であってもより強い掻痒感を感じ、強い掻痒刺激はさらに痒くなるという現象により、痒みが増強することが知られています。
■ 羊毛などの外因性の接触性の要因により掻痒を誘発することがあるという報告があるのは、そのあたりも影響していそうです。
■ 本邦では綿の服を、と指導されることが多いのですが、海外では絹の服を、と指導されることが多いようです。
■ そこで、衣服によるアトピー性皮膚炎の治療効果をみた大規模ランダム化比較試験をご紹介します。
Thomas KS, et al. Randomised controlled trial of silk therapeutic garments for the management of atopic eczema in children: the CLOTHES trial. Health Technol Assess 2017; 21:1-260.
中等症または重症のAEに罹患している1〜15歳の小児300人を、標準的ケア群もしくは標準的ケア+特殊な絹性の服にランダム化し、6ヶ月間観察・比較した。
背景
■ アトピー性皮膚炎(Atopic eczema; AE)は、子どもやその家族のQoLに影響を与える、慢性のかゆみを伴う炎症性皮膚疾患である。
■ しかし、AE管理に関する特別な衣服の役割は不明である。
目的
■ 中等症から重症の症状のある児におけるAE管理のための絹の衣服の有効性と費用対効果を評価する。
試験デザイン
■ 6ヶ月間の並行群間観察者盲検、ランダム化対照比較試験を実施し、2ヶ月間の観察期間が続いた。
■ 繰り込まれた定性的研究により、AEに対する絹の衣服の使用に関して、試験参加者、医療者、ヘルスコミッショナーの信条について評価した。
セッティング
■ 二次医療と地域医療を行っている英国の5施設。
参加者
■ 中等症または重症のAEに罹患している1〜15歳の小児。
介入
■ 参加者は、標準的ケアまたは標準的ケア+抗菌保護されたセリシンを含まない絹[DermaSilk™](AlPreTec Srl、SanDonàdi Piave;イタリア)もしくはDreamSkin™(DreamSkin Health Ltd, Hatfield, 英国)から作られた100%絹製の服の使用にランダム化された。
■ 参加者一人につき3セットの衣服を供給し、最長6ヶ月間(日中・夜ともに)着用した。
■ 6ヵ月後に、標準ケア群は残りの2ヵ月の観察期間に使用するために衣服を受け取りました。
主要なアウトカムと測定
■ 主なアウトカム、すなわち 2、4、6ヶ月目に評価されたEczema Area and Severity Index (EASI) を用いたAE重症度は、群の割当を盲検化された看護師によって評価された。
■ EASIスコアは解析のために対数変換された。
■ 二次アウトカム、すなわち、 患者が報告した湿疹の症状(Patient Oriented Eczema Measure)、重症度の総合評価(Investigator Global Assessment)、小児の生活の質(Atopic Dermatitis Quality of Life, Child Health Utility - 9 Dimensions)、家族の生活の質(Dermatitis Family Impact Questionnaire)、主な介護者の生活の質(EuroQoL-5 Dimensions-3 Levels)も評価された。
■ 標準的な皮膚治療(例えば、皮膚保湿剤、ステロイド外用薬)の使用、そして費用対効果も評価された。
■ 衣服の忍容性と耐久性、衣服の着用に対するアドヒアランスは、親/介護者の自己申告によって評価された。
■ 安全性アウトカムは AEの皮膚感染症や入院回数で評価された。
結果
■ 計300人の小児がランダム化された(2013年11月26日から2015年5月5日まで)。
■ 女児42%、白人79%、平均年齢5歳だった。
■ 一次解析には、300人中282人(94%)が含まれた(各グループ 141人)。
■ 参加者の82%が少なくとも期間内の50%は衣服を着用していた。
■ 試験開始時の相乗平均EASIスコアは2、4、6ヶ月で、標準的ケアではそれぞれ8.4、6.6、6.0、5.4、絹の服では9.2、6.4、5.8、5.4だった。
■ 年齢と施設で調整された試験開始時のEASIスコア、すべての追跡調査におけるEASIスコアの平均に関し群間の差のエビデンスはなかった(幾何平均0.95; 95%信頼区間 0.85~1.07; p=0.43)。
■ この信頼区間は、最初のEASIスコアで-1.5から0.5の差に相当する。
■ 皮膚感染症は、標準ケア群および絹の服ケア群で、それぞれ141人中39人(28%)および142人中36人(25%)で発症した。
■ 中等症から重症の湿疹のある児に対する絹製品のQALY当たりの費用の増加は、基本ケースにおけるNHSの観点からは56,811ポンドだった。
■ 感度分析は、絹の衣服は現在認められているしきい値の範囲内では費用対効果が高くないという知見を支持した。
研究の限界
■ 治療の割り当てがわかっていたために、患者が報告するアウトカムの一部に関しては行動およびアウトカムの報告に影響を与えた可能性がある。
結論
■ 標準的なAEケアへの絹服の追加は、中等症もしくは重症のAEに罹患している小児において、AEの重症度を改善したり標準的なケアのみと比較して費用対効果が高いとは考えにくい。
■ この試験は、臨床上の考えを決定するためのエビデンスに追加される。
結局、何がわかった?
✅ 中等症以上の小児アトピー性皮膚炎児に対し、標準的なアトピー性皮膚炎の治療に絹服の追加しても、EASIスコアの平均に群間に有意差は認めなかった(幾何平均0.95; 95%信頼区間 0.85~1.07; p=0.43)。
絹の服は、一般的な服と比較して有効性を確認できなかった。
■ 本邦では、綿の服を勧めることが多いですが、この結果からは衣服による差はあまりなさそうだと予想できます。
■ しかし、羊毛の刺激で痒くなるという報告もあり(Bendsoe N,. Itching from wool fibres in atopic dermatitis. Contact Dermatitis 1987; 17:21-2.)、やはり皮膚に刺激がある衣服は避けた方が良いと言えそうです。
■ わたしは、「できれば綿の方がよりいいけど、刺激の少ない服がいいね」とお話ししています。
今日のまとめ!
✅ 絹の服を標準的なアトピー性皮膚炎の治療に導入しても、明らかな差はなさそうだ。ただし、刺激が多い衣服でも良いという意味ではない。