以下、論文紹介と解説です。

Kitazawa H, et al. Egg antigen was more abundant than mite antigen in children's bedding: Findings of the pilot study of the Japan Environment and Children's Study (JECS). Allergol Int 2019.[Epub ahead of print]

日本におけるコホート研究に参加した児94名のベッドシーツからハウスダストを採取し、卵蛋白質とハウスダスト抗原量を分析した。

背景

■ 鶏卵は日本では幼児期食物アレルギーの最も一般的な原因であり、ヨーロッパでも同様に主要な原因である。

■ 日本の出生コホート研究は、幼児期の湿疹が小児期の食物アレルギーのリスクを相当に増加させることを示し、食物抗原への皮膚への曝露がアレルギー感作の重要な経路であるという仮説を支持した。

■ このメカニズムを確認するためには、小児のおかれた環境の食物抗原の存在を証明することが必須である。

■ ピーナッツ摂取は、ハウスダスト中に検出されたピーナッツ蛋白質量と相関し、二次的なピーナッツアレルギーの発症の可能性と関係している。

■ ノルウェーの家庭のマットレスからも、卵や牛乳の抗原が検出され、最近の研究では家庭環境中の卵蛋白質量が卵の摂取量と有意に相関していることが示された。

■ Japan Environment and Children's Study(JECS)は、2011年8年に開始された大規模全国多施設出生コホート研究である。

■ JECSパイロット研究は、本研究の前に開始された。

■ 本研究は、JECSパイロット研究の参加者のベッドシーツからのダスト中に検出可能な卵蛋白質およびチリダニ抗原量を評価した。

 

方法

■ 2009年2月から2010年3月に、JECSパイロット研究に参加している地域におけるセンターにおいて、協力医療提供者とそのパートナーと外来で治療を受けている妊婦はパイロット研究の説明を受け、453人の妊婦(母親)が参加に同意した。

■ 参加した妊婦453名のうち、436名から生まれた児440名のうち94名が3歳時点でベッドシーツからダスト試料を採取する家庭訪問調査の研究に参加することに同意し、ダスト試料(n=94)に関し卵蛋白質とハウスダスト抗原を分析した。

■ 掃除機ノズル(ダイソンのハンディクリーナーDC34)に取り付けたダストフィルタを使用した。

■ ダスト試料からPBSで蛋白質を抽出し、ELISAキット(FASTKIT ELISA Version II; ニッポンハム食品; Osaka, Japan)により卵蛋白質(卵白アルブミン、オボトランスフェリン、オボムコイドを含む全卵蛋白質)量を測定した。

■ Dermatophagoides farinaeおよびD.pteronyssinus由来のチリダニ類(house dust mite; HDM)蛋白質をITEA Der f1/Der p1ELISAキット(ITEA, Tokyo, Japan)で測定した。

■ 鶏卵蛋白質とチリダニ蛋白質の定量値の上限は60μg/gとし、統計解析では60μg/g以上を60μg/gと定義した。

■ Dermatophagoides1(Der 1)はD.pteronyssinus(Der p1)とD.farinae(Der f1)の和とし、Der1の最大濃度を60μg/gに設定した。

■ これは、二つのパラメータのうちの一つが60μg/gを超えると、正確な値が二つのパラメータの和になるためすべての試料で確実に得られるわけではないからである。

■ 卵蛋白質とHDM抗原量を比較するためにノンパラメトリック統計解析を適用した。

■ 研究プロトコルは国立成育医療研究センター(承認番号1562)と各施設の倫理委員会により審査され、承認された。

■ 介護者全員から書面による同意を得た。

 

結果

小児94人のベッドシーツからダスト試料を採取し、88試料で卵蛋白質を測定された

■ 参加した児の特徴を表1に示すが、家庭環境については、52.3%が2階以上の一戸建て住宅(47.7%がアパートに住んでいた)で生活している。

■ 小児の4分の1には兄弟姉妹がおらず、8.2%が家でネコやイヌを飼っていた。

■ 卵蛋白質は全試料で検出され、卵蛋白質量の中央値は43.7μg/gダスト(範囲 0.9~60μg/g)だった。

Der p1、Der f1、Der1濃度の中央値は、それぞれ2.4μg/gダスト(範囲0.1~60μg/g)、1.4μg/gダスト(範囲0.1~60μg/g)、7.8μg/gダスト(範囲0.1~60μg/g)だった。

■ ダスト試料において、鶏卵、Der p1、Der f1、Der1の73%、98%、99%、97%が上限である60μg/g以上だった。

卵蛋白質量は、Der p1、Der f1、Der1量より有意に多かった(p<0.001; (p < 0.001, Wilcoxon順位和検定)

ハウスダスト中の卵蛋白量とダニ蛋白量の結果。卵蛋白量はダニ蛋白量より多い。

■ さらに、同じダスト試料のHDM量と比較して、80%のダスト試料において卵蛋白質はより濃度が高かった。

■ 具体的には、59%の試料がDer1よりも二倍以上高い量を示し、25%は十倍以上高い量を示し、7%は100倍以上高い量の卵蛋白質量が示唆された。

■ ダスト試料中の卵蛋白質の量と、表1に示した参加者の異なる背景因子に統計的関連性は見つからなかった。

 

考察

■ 家庭環境における食物抗原の検出は、食物アレルギーにおける皮膚感作経路を説明するために必須である。

■ ハウスダスト中の食物抗原検出に関する研究は少ないが、そのほとんどはピーナッツ抗原に関するものである。

■ 最近の研究では、卵を調理して摂取後の家庭内の様々な場所からのダスト試料中に卵タンパク質が存在することが示された。

■ 本研究では、小児のベッドシーツからの全てのダスト試料中に多量の卵蛋白質を見つけた。

■ 著者らの知る限り、これは日本の家庭環境における食品抗原の検出を報告する最初の研究である。

■ 卵を原材料とする食品の調理や摂取は、疑いなく卵蛋白質の供給源であるが家庭環境全体にどのように広がるかは不明である。

■ 調理中に卵蛋白質を含む蒸気が拡散することは、厨房に近い限られた場所での可能性の1つである。

■ しかし、児のベッドはキッチンと同じフロアにあるとは限らず、卵蛋白質の拡散のための別の経路が存在することが示唆される。

■ 家庭に住む人の皮膚、手、唾液はピーナッツ蛋白質分散の媒介物である可能性が報告されており、卵蛋白質は同様に家全体に広がる可能性がある。

■ この仮説を確認するにはさらなる研究が必要である。

■ 卵の蛋白質量の差はいくつかの要因に関連している可能性がある。

■ 著者らの試料は、掃除機を用いた一般的なプロトコルに従って収集されたが、試料採取条件は厳密には制御されなかった。

■ 参加者のライフスタイル、卵摂取の頻度とタイミングの違いも影響した。

 

結論

■ 結論として、卵蛋白質はHDM抗原より高濃度でコホート研究の参加者のベッドシーツから採取した全ての試料から検出された。

■ 鶏卵感作の環境条件を明らかにするためには、より正確な疫学的および生物学的調査と同様に家庭ダスト中の卵蛋白質の生物学的特性の更なる調査が必要である。

 

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日本の家庭のハウスダスト中のほとんどには卵蛋白質が含まれている。そして、卵蛋白量はチリダニ蛋白量よりも多い。

家庭内で食物を摂取すると拡散していくことは、これまでもいくつかの研究結果をご紹介してきました。

■ そして、日本でとても重要な環境抗原であるチリダニよりも、卵蛋白量の方がずっと多いことにはびっくりしました。

■ この卵蛋白質が、経皮感作を通して卵アレルギーの原因になっているかどうかはこれからの検討が必要ですが、可能性は十分あることがわかったということになります。

 

 

今日のまとめ!

 ✅ 日本の家庭のハウスダスト中のほとんどには、卵蛋白質が含まれており、その量はチリダニ蛋白量よりも多い。

 

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