以下、論文紹介と解説です。
Pearce N, et al. End of the New Zealand asthma mortality epidemic. Lancet 1995; 345:41-4.
1989年にフェノテロール(商品名ベロテック)が、ニュージーランドでの喘息死を増やす原因になったという報告がなされ、使用制限がかかった。
■ 1989年に、フェノテロールの吸入が1976年以降にニュージーランドでの喘息死の異常発生に関与しているとの症例対照研究が報告された。
■ ニュージーランド保健局は、フェノテロールの安全性について警告を発表し、その使用を制限した。
■ 付随した経時的なトレンドは、フェノテロールがニュージーランドにおける喘息死亡率の増加の主要因子であるという仮説と一致している。
■ これは、フェノテロールが1976年に導入されてから流行が始まり、ニュージーランドの死亡率は十数年にわたり世界で最も高いままだった。
■ 症例対照研究の発表後、死亡率は半減し、現在はさらに3年間低いままとなっている(1990-92年)。
■ 経時的なトレンドデータは、異常発生における吸入β作動薬の種類における影響を示唆していない。
■ すなわち、β刺激薬の販売と異常発生の開始に関連はなく、吸入β刺激薬の総販売量は、異常発生が終息した1989~90年に実際にはわずかに増加していた。
■ 経時的なトレンドデータもまた、吸入ステロイドの過少処方のために流行が起こったかもしれないという仮説と一致しない。
■ 同様に、経時的トレンドデータは、失業などの社会的要因の主要な役割を仮定した仮説に基づいている。
■ 喘息による死亡の経時的トレンドは多くの要因に影響されるため、経時的トレンドに関するデータは慎重に評価すべきである。
■ それにもかかわらず、ニュージーランドの経時的なトレンドは、フェノテロールがニュージーランド喘息死亡率の異常発生の主な原因であることと一致しており、他の示唆された原因とは一致していない。
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『ベロテック事件』は、現在の診療でも心に留めておく情報でしょう。
■ 私は、この事件はベロテックが槍玉にあがっていますが、短時間作用性β刺激薬(SABA)の濫用自体の問題だったろうと考えています。
■ ですので、SABAは、喘息の治療薬としてとても重要ですが、連用は推奨できず、連用しなければならない場合は慢性炎症を減らすための治療を強化する必要性があります。
■ これ以降に開発された『長時間』作用性β刺激薬(LABA)も、気管支喘息に対する単独使用は推奨されていません。
■ LABAに関しても、単独使用が死亡率を上げる可能性が指摘され、FDAより枠組み警告が出されていました(最近解除されました)。
■ 吸入ステロイド薬と併用すれば安全…ということに関しては議論の余地があると思いますが、どちらにせよ気管支拡張薬を連用するような状況の場合は、気道の慢性炎症の治療強化への配慮が必要と言えるでしょう。
■ ベロテック事件は、普段の診療に対する警告として、今後も覚えておく情報だと思っています。
今日のまとめ!
✅ 『ベロテック事件』に関する報告をご紹介した。