以下、論文紹介と解説です。
Wei M, et al. Novel Coronavirus Infection in Hospitalized Infants Under 1 Year of Age in China. Jama 2020. [Epub ahead of print]
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)に関し、2019年12月8日~2020年2月6日に1歳未満の乳児9人が特定された。
背景
■ 2019年12月8日以降、コロナウイルス2019(coronavirus disease 2019; COVID-19)の流行が急速に拡大した。
■ 2020年2月6日現在、中国では31211人のCOVID-19の確定症例と637人の死亡が報告されている。
■ 先行研究は、COVID-19が高齢の成人男性、特に慢性疾患をもっている男性に感染しやすいことを示唆している。
■ 小児への感染の報告は少ない。
■ そこで、中国における全ての乳児の感染例を特定し、人口統計学的、疫学的、臨床的特徴を記述する。
方法
■ この後ろ向き研究では、中国で2019年12月8日~2020年2月6日にCOVID-19感染と診断された全ての入院した乳児を特定した。
■ 中央政府によって毎日公表されるCOVID-19の新規感染者の概略数と地理的位置に関し、乳児(28日以上1歳未満)を特定するためにスクリーニングした。
■ その後、地域の保健部から匿名で発表された年齢、性別、地理的位置を含む人口統計学的情報を検索し、人口統計学的データ、家族集積性(乳児と同居しているCOVID-19へ感染している家族1人以上)、武漢との関連(感染アウトブレイク開始の2週間前までに、武漢に居住/武漢への訪問/武漢からの訪問者と接触)、臨床的特徴(入院時の症状、入院日、診断日)、治療(集中治療室・人工呼吸器)、予後(死亡を含む重篤な合併症)、退院日について、地域の病院や疾病管理予防センターに確認した。
■ 患者の家族に連絡して情報を確認する努力を行った。
■ 入院中に鼻咽頭スワブを採取した。
■ リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応試験を用いて、推奨されたプロトコルに従ってCOVID-19を検出した。
■ 感染は少なくとも検査陽性が2回結果として得られた場合として定義した。
■ 本研究は武漢大学保健科学部の施設内審査委員会により承認された。
■ 公衆衛生アウトブレイク調査の一環として、インフォームド・コンセントは免除された。
結果
■ 2019年12月8日~2020年2月6日に感染した乳児9人が特定された(表)。
論文から引用。COVID-19に感染した乳児9人の特徴のまとめ。
■ すべての患者は入院した。
■ 7例は女児だった。
■ 最年少は1カ月、最年長は11カ月だった。
■ 北京から2名、海南から2名、広東、安徽、上海、浙江、貴州から各1例の患者がいた。
■ 4人は発熱があると報告され、2人は軽度の上気道症状があり、1人は症状はなく(COVID-19へ感染した家族に曝露したたために所定のスクリーニングが実施されCOVID-19が陽性)、2人は症状に関する情報が得られなかった。
■ 入院から診断までの期間は1~3日だった。
■ 乳児9人全員の家族に少なくとも1人の感染者がおり、乳児への感染は家族の感染後に起こった。
■ 乳児7人は武漢に住んでいるか、武漢へ訪問した家族がいると報告され、1人は武漢との直接のつながりがなく、1人は入手できる情報がなかった。
■ 乳児9人のなかには誰も、集中治療や機械的人工換気を必要とするものや、重症の合併症を起こすものはいなかった。
考察
■ 本研究で使用したデータソースに基づくと、乳児9人がCOVID‐19に感染し、2019年12月から2020年2月6日に中国で入院した。
■ 報告された感染数から考えると、感染した乳児数は少なかった。
■ これは、感染に対する抵抗性というよりもむしろ、曝露のリスクが低い、もしくは軽症または無症候性のために特定が不完全であるためである。
■ しかし本研究では、乳児がCOVID-19に感染する可能性があることが示された。
■ COVID-19流行の初期段階には主に15歳以上の成人が含まれていた。
■ 家族集積性(家族の感染)は全ての感染乳児で認められた。
■ 感染した家族をもつ乳児はモニタリングまたは評価すべきであり、適時の診断を確実にするために家族集積性を報告すべきである。
■ 乳児9例中7例が女児だった。
■ 先行研究では、女性よりも男性の方が感染率が高いことが判明している。
■ 女児が男児よりもCOVID-19感染症にかかりやすいかどうかは、さらなる研究が必要である。
■ この研究は、サンプルサイズが小さいこと、入院した乳児のみであること、無症状の患者が含まれていないことにより制限されている。
■ 乳児に関連したCOVID-19の感染を、系統的かつ包括的に調査したものの、流行は急速に拡大しており、症例の同定は不完全である可能性がある。
■ 1歳未満の乳児はマスクを着用できないため、特別な予防対策が必要である。
■ 成人の介護者はマスクを着用し、乳児と密接に接触する前に手を洗い、乳児のおもちゃや食器を定期的に消毒すべきである。
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いまのところ、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)全体の感染者数に比較すると、乳児へのCOVID-19感染後の重症化は少ないと言えそうだ。
■ COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の全体像は、まだアウトブレイクが始まってから2ヶ月程度であり収束もしていませんので、まだ明らかになったとはいえません。
■ ただ現状までの報告からは、乳児期への感染は懸念はされるものの、重篤化が少ないということは言えそうです。
■ もちろん、この報告を持って『重篤化しない』とはいえません。
■ なお、現状のところ、『垂直感染』の可能性は低いということが2/12にLancetに報告されています(この場合、狭義的に経胎盤感染や経卵感染といった、胎内での感染を指します)。
■ 大事なことのひとつは、私自身が不確かな知識に翻弄されないようにきちんとした報告を読み、情報を集め、必要な対策を自分自身の診療している患者さんに過大な心配を反映したりしないことです。
■ 感染症専門医や呼吸器内科専門医の先生方から、丁寧な情報発信もありますし、このようなきちんと発表された情報を、丁寧に追っていきたいと思っています。
今日のまとめ!
✅ COVID-19(新型コロナウイルス感染症)全体の感染者数に比較すると、乳児への感染後の重症化は少ないと言えそうだが、今後の情報の集積は必要だろう。