以下、論文紹介と解説です。

Sakamoto H, Ishikane M, Ueda P. Seasonal Influenza Activity During the SARS-CoV-2 Outbreak in Japan. Jama 2020.

2019/2020シーズンの週ごとのインフルエンザ(981373例)の流行を過去5シーズン(8414693例)と比較した。

背景

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2; SARS-CoV-2)のアウトブレイクが始まって以降、日本では、マスクと手洗い、リモートワーク、大規模イベントのキャンセルなど、伝播を回避するための対策が広く推進されてきた。

■ これらの対策が効果的なのであれば、季節性インフルエンザなど他の感染症のまん延も減少させる可能性がある。

■ そこで、2019/2020シーズンの週ごとのインフルエンザの流行を過去5シーズンと比較した。

 

方法

■ 国立感染症研究所の2014~2020年のデータを使用した。

■ 国立感染症研究所は、病院と診療所(小児科60%、内科・一般内科40%)を含む約5000施設から、臨床症状や検査所見に基づいて医師により診断された季節性インフルエンザの症例数を毎週収集した。

■ 週次の報告をシーズンごとに分類した(その年の第40週から次の年の第11週まで[2019/2020シーズンでは2019年9月30日~2020年3月15日まで];これが2020年の入手可能な最新データであり11週以降は切り捨てられた)。

■ 各シーズンにおいて、施設あたりの報告症例の平均数に、2019年の国内の病院とクリニックへの外来訪問数を表す定数数(72201例)を乗じて算出したものを、全国的なインフルエンザ流行の標準推定値として毎週のインフルエンザの流行を評価した。

■ SARS-CoV-2の発生後のインフルエンザの流行の変化を、各週の変数による「difference-in-difference(差分の差)」回帰モデルを使用して推定した(すなわち、2019/2020年シーズンとアウトブレイク前の2014~2019年シーズンの週あたりのインフルエンザの流行の差の平均を表す変数(第1~11週)、アウトブレイク後の各週と2019/2020年シーズンの相互作用変数)。

■ 95%CIが0に重ならない場合、差は統計的に有意であるとした。

■ 2019/2020シーズンでは36週から7週まで、2014から2019シーズンでは36週から35週まで、施設の約10%は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)試験を用いた解析のためにインフルエンザ例のサブセットからの試料を提供した。

■ これらのデータを用いて、インフルエンザウイルスの主な亜型を評価し、χ2検定を用いて2019/2020シーズンと2014~2019シーズン(年齢別データが入手できなかった2015/2016年シーズンは含めず)における年齢群(年齢15歳未満、15~54歳、55歳以上)別の症例分布を比較した。

■ 統計解析には、Stataバージョン16.1を使用した。

■ 個人レベルのデータが使用されなかったため、治験審査委員会による審査は必要とされなかった。

 

結果

■ 解析はインフルエンザ8414693例(2019/2020シーズンは981373例)に基づいた。

■ すべての季節を通じて、インフルエンザ活動は年末に向かって増加した。

インフルエンザの流行は2014年~2019年シーズンでは4週から6週にピークに達したが、年初にはプラトーに達し、2019/2020シーズンでは5週以降減少した(図)。

論文から引用。2019/2020年シーズンは、インフルエンザの流行の山が低く、例年に比較して高くなる時期までに低くなっている。

■ 差分の差分法分析では、2019/2020シーズンのインフルエンザの流行は3週から7週で、2014~2019シーズンに対して有意に低かった(表)。

論文から引用。

■ PCR試験結果は51847試料で得られた。

■ インフルエンザウイルスの主な亜型を図に示す。

■ 2014~2019年シーズンのPCR確認症例数は、15歳未満で25 930例 (63.3%)、15~64歳で10 215例 (24.9%)、55歳以上で 4801 例(11.7%)だった。

■ そして2019/2020年シーズンでは、15歳未満で2267例(68.9%)、15~54歳で770例(23.4%)、55歳以上で254例(7.7%)であった。

■ 2019/2020シーズンの症例の割合が前のシーズンよりも低いのは、15歳以上が含まれていた(P <.001)。

 

討論

2020年の季節性インフルエンザの流行は、日本では前年より低かった

インフルエンザの流行は、気温または病原性によって影響を受けた可能性があるが(ただ、2019/2020年シーズンのインフルエンザの流行は世界の他の地域では中程度に深刻だった)、SARS-CoV-2アウトブレイクを抑制するために講じられた措置によって影響を受けた可能性もある

■ 学校の閉鎖や大規模なイベントの中止がインフルエンザのシーズンの終わりごろに実施された一方で、病気の伝染のリスクを減らすための対策についての認識は、年初から日本の国民の間で高まっていた。

■ 本研究の限界は、インフルエンザの流行に関する年齢別の週次データや診断手段に関する情報は利用可能ではないかもしれないことである。

■ SARS-CoV-2のアウトブレイクに関する懸念により、医療機関を受診しようとする症状のある患者やインフルエンザ検査に対する医師の考えが変化し、インフルエンザの検出率が変化した可能性もある。

 

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行動変容が、インフルエンザの流行を例年よりも抑えた可能性がある。

■ 行動変容が、インフルエンザの流行を抑えるかもしれないという結果でした。皆の行動変容(マスク、手洗い、リモートワーク、大規模イベントのキャンセルなど)が、有効である可能性があるといえるでしょう。

■ しかし、行動変容が必要ということを予想させる結果ではあるものの、流行がゼロになったわけではありません。

■ 麻疹のアウトブレイク時の対応として、『予防接種を軸としての行動変容や隔離』が重要という報告があります。

■ そう考えると、本当は新型コロナウイルスに対する拡大防止措置も予防接種を軸にするべきなのですが、その予防接種が現状では存在しないといことが大きな問題といえましょう。

■ 流行には、Basic reproduction number(基本再生算数;R0)、Critical vaccination level (ワクチンの接種レベル;Vc)、Vaccine effectiveness against transmission(ワクチンの効果;E)という要素が関係しています。

■ 新型コロナウイルスにはVcやEが期待できない上、新型コロナウイルスはR0がインフルエンザよりも高いと見積もられるからです(予防接種や集団免疫ができれば、R0は今後低くなる可能性はあります)。

■ 今後、流行の山が抑えられるのかは、余談が許さない状況だと思われます。

 

※頑張って書きました!

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今日のまとめ!

 ✅ 行動変容が、2019/2020年シーズンのインフルエンザの流行を例年よりも抑えた可能性がある。

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