以下、論文紹介と解説です。
Mehtar S, et al. Deliberate exposure of humans to chlorine-the aftermath of Ebola in West Africa. Antimicrobial Resistance & Infection Control 2016; 5:45.
医療従事者500人、エボラ生存者550人、隔離された無症候性エボラ接触者500人からなるボランティア1550人を対象に、希釈した塩素の散布によりなんらかの健康被害があったかを面接による横断的調査を実施した。
背景
■ 最近のエボラ感染症では、アフリカ諸国で医療従事者を含む環境や人への塩素散布が広く行われており、その臨床への悪影響が報告されている。
方法
■ 医療従事者( healthcare workers ; HCW)500人、エボラ生存者(Ebola survivors; EVD)550人、隔離された無症候性エボラ接触者(quarantined asymptomatic Ebola contacts;NEVD)500人からなるボランティア1550人を対象に、面接による横断的調査を実施した。
■ 人口統計学、塩素曝露の頻度、塩素曝露後の状態、特に目、呼吸器、皮膚の状態を記録した。
■ HCWがエボラ治療ユニット(Ebola Treatment Units ; ETU)で働いていた時間の長さ、個人用防護具の使用状況を記録した。
■ 参加者全員から口頭での同意を得、すべての回答は匿名のままとした。
■ 18歳未満の参加者については、保護者または保護者の許可と協力を求めた。
結果
■ HCWの500人中493人 、EVDの550人中550人、 NEVDの500人中 477人 に、0.5%の塩素を少なくとも 1 回散布した。
■ 1回の曝露でも、眼症状(3群とも)、呼吸器症状(HCWおよびEVD)の有意な増加が報告され(p < 0. 001)、複数回の曝露の後、呼吸器症状や皮膚症状が増加した。
■ HCWでは、複数回の曝露と単回の曝露の比較で、呼吸器症状(OR 32; 95% CI 22-49; p < 0.001)、眼症状(OR 30; 95% CI 21-43; p < 0.001)、皮膚症状(OR 22; 95% CI 15-32; p < 0.001)の増加と関連した。
■ 利用可能な個人用防護具は、塩素の悪影響を軽減も防止もしなかった。
結論
■ 既報の塩素への曝露は通常、偶発的なものである。
■ アウトブレイク対策としてのエビデンスがないにもかかわらず、エボラの流行期にはアフリカで塩素のスプレーへの意図的な曝露が広まり、その結果、人間への深刻な健康被害がもたらされた。
■ 私たちは、この慣行を禁止し、より安全な代替方法を使用することを強く推奨する。
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営業再開の気持ちはよく分かるものの、希釈塩素の散布はかえって、健康被害を起こす可能性がある。
■ 公共の場での希釈塩素の散布(空気清浄機などでも使用されているようです)に関して、なんとか営業再開につなげるためという気持ちはよくわかります。
■ しかし消毒薬の散布に関してはリスクがあるといえます。
■ (同じ塩素ではないにせよ)、2011年まで空気清浄機に消毒薬をいれることが韓国では実施されており、大きな健康被害と死亡事故まで起こしています(Am J Respir Crit Care Med. 2018;198(12):1583‐1586.)。
■ 塩素製剤は、あくまでクロスで拭いて除菌するためのものといえましょう。
今日のまとめ!
✅ 希釈塩素は、健康被害を起こしうる。