以下、論文紹介と解説です。
Lin B, et al. Breastfeeding and Atopic Dermatitis Risk: A Systematic Review and Meta-Analysis of Prospective Cohort Studies. Dermatology 2019:1-16.
母乳育児とアトピー性皮膚炎の発症を検討した計27件の研究に対し、メタアナリシスを実施した。
目的
■ アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis; AD)に対する母乳育児の影響は依然として議論の的である。
■ 母乳育児とADとの関連を明らかにするために、前向きコホート研究のメタアナリシスを実施した。
方法
■ PubMed、EMBASE、MEDLINE、コクランライブラリーの包括的な検索を実施した。
■ 事前に決められた基準を満たした研究を、2名が独立して評価した。
■ 交絡因子を調整しプールした相対リスク(relative risk; RR)とその95%信頼区間(95%CI)をランダム効果モデルにより算出した。
■ サブグループ解析・メタ回帰により異質性を探索した。
結果
■ 計27件の研究がメタアナリシスに含まれた。
■ ADに対する総合(total)母乳栄養と、完全(exclusive)母乳栄養の効果のプールされた推定値は、それぞれ1.01(95%CI 0.93-1.10)および0.99(95%CI 0.88-1.11)だった。
total breastfeeding と exclusive breastfeeding の違いに関して、よくわからなかったのでネットでお聞きすると、ケンブリッジ大の今村先生がお答えくださいました!
ここでは便宜的に上記のように訳しました。exclusive breastfeedingの方が、より『完全母乳より』と考えられましょう。期間に焦点を当てた表現と思いますよ
— 🍏今村文昭🔥 (@nutrepi) May 30, 2020
Exclusive breastfeeding duration= 6 monthsといえばその表現どおりであり、Total breastfeeding duration= 6 months といえば、Exclusive breastfeeding+Non-exclusive breastfeedingの期間という意で用いられているように思います🤱
■ 異質性は研究間で大きかった(総合(total)母乳栄養:p<0.01; I2=65.2%、完全(exclusive)母乳栄養:p<0.01; I2=72.3%)。
■ アレルギーの遺伝性のあるコホートでは、ADに対する母乳育児の予防効果について弱いエビデンスがあった(総合(total)母乳栄養:RR 0.85; 95%CI 0.74-0.98;完全(exclusive)母乳栄養:RR 0.83; 95%CI 0.70-0.97)。
■ アレルギーの遺伝性のないコホートでは、効果は完全(exclusive)母乳栄養に限定するとリスク側にシフトした(RR 1.19; 95%CI 1.02-1.40)が、総合(total)母乳栄養に限定すると影響なしになった(RR 1.11; 95%CI 0.94-1.31)。
結論
■ 関係なく、総合(total)母乳栄養または完全(exclusive)母乳栄養のパターンのADと母乳育児の間の関連はありません。
■ アレルギーの遺伝性のあるコホートにおいて、完全(exclusive)と総合(total)母乳栄養のAD予防効果については、いくらかのエビデンスがある。
■ アレルギーの遺伝性のないコホートでは、効果はリスク側にシフトする。
■ しかし、これらの所見は異質性が明らかであるため、注意して解釈すべきである。
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基本的に、完全母乳はアトピー性皮膚炎の予防にも発症にも増やさない。家族のアレルギー体質の状況に応じ、母乳がアトピー性皮膚炎の発症にも防御にも働く…のかもしれない。
■ この論文の全文にアプローチできなかったので、詳細は読めなかったのですが、『total and exclusive breastfeeding』の部分のtotalとexclusiveの違いがいまひとつわからずTwitterでお聞きしたところ、今村先生にお答えをいただくという機会を得ました。ありがとうございました。
■ 『完全母乳は全体としてはアトピー性皮膚炎の予防にも発症にも働かないようだ』、一方、『家族のアレルギー体質の状況に応じアトピー性皮膚炎の発症にも防御にも働く』から、報告によって差があるようだ…という内容です。
■ もちろん、母乳自体は全体としてはよいものだと考えていますので、この報告を読んで中止したりする必要性もありません。
■ 過去の論争にひとつの考え方・目安を示すひとつの理由になるとは思っています。
今日のまとめ!
✅ 母乳栄養はアトピー性皮膚炎の発症にも予防にも働かず、家族のアレルギー体質の状況に応じて母乳がアトピー性皮膚炎の発症にも防御にも働く…のかもしれない。