以下、論文紹介と解説です。

Matsumoto K, Saito H. Does asthma affect morbidity or severity of Covid-19? J Allergy Clin Immunol 2020.

『Th2サイトカイン』が高いと、新型コロナウイルス(SARS-Cov2)が人体に侵入するための受容体のひとつであるACE2を阻害し、重症化を防ぐのではないかと考えられている、その論考の後半。

■ 喘息児においては、ACE2が受容体であるSARS-CoVによる重症急性呼吸器症候群(severe acute respiratory syndrome; SARS)の発症率が低いことが示されている。

従来のコロナウイルスの多くで報告された受容体には、ACE2は含まれていない

■ 報告されている受容体は、HLAクラスI分子またはシアル酸、HCoV-OC43におけるカベオリン-1;HCoV-229EにおけるアミノペプチダーゼN(CD13);HCoV-EMCにおけるジペプチジルペプチダーゼ4(DPP4;CD26);HCoV-HKU1(詳細不明);HCoV-NL63が、ACE2である。

■ これらの観察結果は、上記の仮説を支持するものである。

■ しかし、この仮説にはいくつかの限界がある。

■ 疫学的データはすべてレトロスペクティブまたは横断的に得られたものであり、COVID-19患者、特に喘息を合併している患者においては、IFN産生やACE2の発現についての検討は行われていない。

■ また、喘息患者のフェノタイプ/エンドタイプ(理論的にはTh2高値群のみがACE2発現が低い喘息患者となる)、肺機能、喘息のコントロール状態、治療方法に関する詳細な情報は報告されていない

■ また、喘息患者におけるACE2発現低下が、実際にSARS-CoV-2感染を低下させるかどうかは不明である。

■ 特に、臨床検体を用いた最近の研究では、気管支上皮細胞、喀痰中の ACE2 mRNA 発現が喘息患者と対照群で有意差がなかったことが報告されている。

■ これらの知見は、前述の研究とは異なるものである。

■ 最後に、この論説では、医師が喘息患者のCOVID-19を過小評価してはならないことを強調したい。

患者の治療をステップダウンすることを支持したり、推奨するデータは現在のところない

■ 特に、最近承認された生物学的製剤であるDupilumab、すなわちIL-4と13の両方をブロックするIL-4受容体鎖抗体は、ACE2のダウンレギュレーションを目的として減量や中止はすべきではない。

■ 喘息がCOVID-19の罹患率や死亡率に影響するかどうかを判断するためには、さらに慎重な調査が必要であることは間違いない。

■ NIHから発表された最近のニュースによると、Human Epidemiology and Response to SARS-CoV-2(HEROS)という研究が参加者の登録を開始したとされている(http://www.nih.gov/news-events/news-releases/study-determine-incidence-novel-coronavi rus-infection-us-children-begins)。

■ この研究の目的は、米国の小児とその家族におけるSARS-CoV-2感染率を調べ、喘息などのアレルギー疾患を持つ児と持たない児でSARS-CoV-2の感染率が異なるかどうかを調査することである。

■ ACE2 の発現を低下させることで COVID-19 の発症や重症化を予防する介入研究は大きな関心を集めている。

■ しかし、現在入手可能なデータは、喘息患者の管理とCOVID-19と戦っているすべての医師に、ある程度の安心感を与えてくれるかもしれない。

 

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すべての喘息のタイプが新型コロナの感染の重篤化が低くなるわけではない。さらに、この理論は推論に過ぎないため、今後の検討を待つ必要性がある。

■ 喘息にはさまざまなフェノタイプがあり、小児では比較的Th2型が多く、成人では非Th2型が多くなります。

Wenzel SE. Nature medicine 2012; 18:716.から引用。

 

■ もしかすると、小児喘息のほうが重篤化がすくなくなるかもしれません。

■ しかし、まだまだこのテーマでの情報は不足しており、論説にあったHEROS試験の結果を待ちたいところです。

■ また、シクレソニド(商品名オルベスコ)が、むしろCOVID-19の重症化を抑えるのではないかという報告は、まだ十分なデータがありません。

in vitro(実験的な)データで示されているのみなのです(The inhaled corticosteroid ciclesonide blocks coronavirus RNA replication by targeting viral NSP15. bioRxiv 2020; preprint [10.1101/2020.03.11.987016].)。

■ ただし、吸入ステロイド薬を積極的に増やす理由も、そして減らす理由も、現状ではないと言えるでしょう。

■ 明らかな重症化が予想されるCOPDとは異なり、気管支喘息はそれほど悪化要因にはならないようだと念頭に置きつつ、慎重に今後の検討をまとうと思います。

 

 

今日のまとめ!

 ✅ Th2サイトカインが高いと、新型コロナウイルス(SARS-Cov2)が人体に侵入するための受容体のひとつであるACE2を阻害し、重症化を防ぐのではないかと考えられている。そしてその仮説を証明するための研究が進行中である。

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