以下、論文紹介と解説です。

O'Brien KM, et al. Association of Powder Use in the Genital Area With Risk of Ovarian Cancer. Jama 2020; 323:49-59.

米国における4つの大規模コホートからプールされた女性252745人に関し、ベビーパウダーの長期(20年以上)・頻回(1週間に1回以上)の使用が、卵巣がんの発症リスクに関連するかを検討した。

重要性

■ 性器域へのパウダーの使用と卵巣がんとの関係は確立されていない。

■ そして、症例対照研究で報告された正の関連は、コホート研究では確認されていなかった。

 

目的

■ 前向きの観察データを用いて、性器域へのパウダー使用と卵巣がんとの関連を推定する。

■ 研究デザイン、セッティング、参加者

■ データは、米国における4つの大規模コホートからプールされた。
すなわち、Nurses' Health Study(1976年登録;1982-2016年追跡調査;81869人)、Nurses' Health Study II(1989年登録;2013-2017年追跡調査;61261人)、Sister Study(2003-2009年登録;2003-2017年追跡調査; 40647人)、Women's Health Initiative Observational Study(1993-1998年登録;1993-2017年フォローアップ;73267人)である。

 

曝露

■ 性器域へのパウダー使用経験が、長期(20年以上)、頻回(1週間に1回以上)ある。

 

主なアウトカムと計測

■ 一次解析では、性器域へのパウダーの使用経験と自己申告による卵巣がんの発症との関連を検討した。

■ 共変量調整ハザード比(adjusted hazard ratios; HR)と95%CIはCox比例ハザードモデルを用いて推定した。

 

結果

■ プールされたデータには252745人の女性(試験開始時のの年齢中央値 57歳)が含まれ、38%が性器域でのパウダーの使用があったことを自己申告した。

10%が長期の使用を報告し、22%が頻繁な使用を報告した。

■ 中央値11.2年の追跡調査期間中(380万人年のリスク)に、2168人の女性が卵巣がんを発症した(58例/10万人年)。

卵巣がんの発症率は、常用者で61例/10万人年、非常用者で55例/10万人年だった(70歳時の推定リスク差 0.09%[95%CI -0.02%~0.19%];推定HRは1.08[95%CI 0.99~1.17])。

■ 頻繁な使用と一度も使用しない場合の推定されたHRは1.09(95%CI、0.97~1.23)、長期的な使用と一度も使用しない場合の推定HRは1.01(95%CI 0.82~1.25)だった。

■ サブグループ解析は10個の変数について実施された。

■ そして、不均一性に関する検定は、これらの比較のいずれにおいても統計的に有意ではなかった。

■ 生殖能力のある女性における性器域へのパウダーの使用経験と卵巣がんリスクとの関連の推定HRは1.13(95%CI 1.01~1.26)だったが、生殖能力のある女性とない女性を比較した場合の相互作用におけるP値は0.15だった。

 

結論と関連性

■ 米国の4つのコホートの女性からのデータをプールしたこの解析では、性器域へのパウダーの使用と卵巣がんの発生に統計学的に有意な関連は認められなかった。

■ しかし、リスクのわずかな増加を特定するための研究のパワー不足であった可能性がある。

 

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ベビーパウダー問題、今後の動向が注目されます。

■ 日本における『ベビーパウダー』は、和光堂が最初に販売を開始し、『シッカロール』という名前がついています。

■ そして、日本におけるベビーパウダーは、タルカムパウダーよりもコンスターチパウダーが使われることが多いようです(当然、今回のJ&Jのベビーパウダーの問題とは無関係でしょう)。

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■ しかし、一部にはコンスターチだけでなくタルクが含有されている商品もあります。

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■ そして訴訟のもとになったJ&Jのベビーパウダーは、原材料に『タルク』との記載があります。

■ この問題点は、タルクにアスベストが含有されているかどうかであり、現在のタルクパウダーはアスベストが検出限界以下なのだそうです。

 

■ さて、タルクと卵巣がんと本当に関係があるのかどうかを結論づけることは難しいですが、今回のメタアナリシスでは、そのリスクが否定された格好です。

タルクそのものではなく、混入していたアスベストに問題があったかもしれないながら、リスクは有意ではなかったとまとめられるでしょう。

■ しかし、2018年のBMJに、以下のような記述があります(Dyer O. Bmj 2018; 363:k5430.)

“from at least 1971 to the early 2000s, the company’s raw talc and finished powders sometimes tested positive for small amounts of asbestos, and that company executives, mine managers, scientists, doctors and lawyers fretted over the problem and how to address it while failing to disclose it to regulators or the public.”

(少なくとも1971年から2000年代初頭にかけて、ジョンソン&ジョンソンのタルクとパウダー製品には少量のアスベストが含まれることがあり、会社の幹部、鉱山の管理者、科学者、医師、弁護士は、規制当局や一般市民に公表しないまま、この問題とその対処法に頭を悩ませていた)

とあります。

■ これが本当の話ならば、『知っていながら放置していた』ことになるのがおおきな問題といえます。J&J社は最高裁判所に上訴する方針だと報じられています。

■ 今後の動向が注目されます。

 

 

今日のまとめ!

 ✅ ベビーパウダーの長期・頻回使用と、卵巣がんの発症リスクに有意な関連は認められなかったが、今後の動向は注目される。

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