以下、論文紹介と解説です。

Simms KT, et al. Impact of HPV vaccine hesitancy on cervical cancer in Japan: a modelling study. Lancet Public Health 2020; 5:e223-e34.

HPVワクチンの接種率が低下した日本において、1994年から2007年までに出生した群の子宮頸がん症例数と死亡数が今後どれくらいになるかの予測を行った。

背景

■ 日本では2010年に12~16歳女児を対象にヒトパピローマウイルス(human papillomavirus; HPV)ワクチン接種のための公費提供が開始され、3回接種の接種率は当初70%以上に達していた。

■ そして日本の予防接種計画に正式に盛り込まれてから2ヶ月後の2013年6月14日、有害事象(その後ワクチンとは無関係であることが判明)の報告を受け、HPVワクチンの積極的な推奨は中止されたが、これらはメディアで大きく取り上げられた。

ワクチン接種率はその後1%未満に低下し、現在に至るまで低率のままである。

■ そこで、このワクチン接種に対する躊躇による危機がどのような影響があるのか、また、接種率を回復させることができればどのような効果があるのかを定量化することを目的とし、検討した。

 

方法

■ このモデル化研究では、Policy1-Cervixモデル化プラットフォームを使用した。

■ HPVの有病率、スクリーニングの実施と範囲、子宮頸がんの罹患率と死亡率に関するデータを用いて、日本に対しモデリングした。

■ ワクチンへの躊躇という危機という状況において、1994年から2007年までに出生したコホートの生涯にわたる子宮頸がん症例数と死亡数の予測を評価した。

■ そして2020年以降の回復シナリオを評価したが、その中には、定期接種率が70%に回復し、接種を受けられなかったコホート(2020年の13~20歳)については50%のキャッチアップ接種を行うというシナリオも含まれた。

■ また、これまでのワクチン危機の影響を推定するために、2013年以降に12歳児で70%の接種率が維持されていたという、事実ではないシナリオもモデル化した。

 

調査結果

2013年以降の接種率が約70%を維持ししていたと仮定した場合と比較すると、2013年から2019年にかけてのワクチン危機は、1994年から2007年までに生まれた群における子宮頸がんの発症を24600~27300人増やし、5000~5700人が死亡すると予測された。

■ しかし、2020年に接種率を回復させれば(接種できなかった群へのキャッチアップワクチン接種を含めると)、これらの症例のうち14800~16200例の発症と3000~3400例の死亡を防ぐことが可能である。

■ 2020年にカバー率が回復しなければ、2020年だけでも12歳の個人の生涯にさらに3400~3800人の症例と700~800人の死亡が発生することになる。

■ このまま予防接種に対する危機が続くと、今後50年間(2020年~69年)に子宮頸がんによる予防可能な死亡は9300~10800人の発生することになると予想される。

 

解釈

■ これまでのHPVワクチン危機により、日本では約5000人の子宮頸がんによる死亡者が出ていると推定される。

■ ワクチンの接種率を迅速に回復させることができれば、これらの死亡者の多くを防ぐことが可能である。

 

資金提供

■ National Health and Medical Research Council Australia Centre of Research Excellence in Cervical Cancer Control、日本学術振興会。

 

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HPVワクチンに関しては様々な報告が増え、効果がほぼ確定した。今後その効果を科学的に補強する報告が増えてくると思われる。

■ HPVワクチンに関しては、日本だけでなくデンマークをはじめ一部の国では混乱があったようですが、すでに収束し日本が取り残されている状況です。

■ 今後は、HPVワクチンの有効性を明らかにした報告はさらに増えていき、その際に、日本が対照群(ワクチンをしていない群)として取り上げられることになるでしょう。それで本当にいいのかは忸怩たる思いがあります。

 

■ これから、より効果の望める9価ワクチンが使われてくることになります。

■ 当ブログでは、今後増えてくる研究結果に関して、注目すべき報告をときおり置いていきたいと思います。

■ この予想される未来が、少しずつでも変わってくることを願っています。

 

■ HPVワクチンに関しては、下記のサイトがもっともわかりやすくまとまっていると思います。ご参考ください。

■ なお、この研究は公費が使われており、企業のバイアスはないと考えてよいと思います。

 

 

今日のまとめ!

 ✅ HPVワクチンの接種率の低下により、1994年から2007年までに生まれた群における子宮頸がんの発症を24600~27300人増やし、5000~5700人が死亡することになると予測されている。

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