以下、論文紹介と解説です。

Tezuka J, et al. Possible association between early formula and reduced risk of cow’s milk allergy: the Japan Environment and Children’s Study. Clinical & Experimental Allergy; Online ahead of print.

Japan Environment and Children’s Study(エコチル研究)に参加した約10万組の母児を対照に、生後 0~3 か月、3~6 か月、6~12 か月の粉ミルクの摂取状況が、1歳時点での乳アレルギーと関連しているかを検討した。

背景

■ ピーナッツと卵の蛋白質を早期・定期的に摂取することでアレルギーに対する発症予防効果があるというエビデンスがあるにもかかわらず、牛乳(cow’s milk; CM)蛋白質に曝露する最適なタイミングは不明である。

 

目的

■ 生後 1歳までの CMベースの粉ミルク摂取が CM アレルギー(CM allergy; CMA)リスクの低下とどのような関連があるのかを明らかにすることを目的とした。

 

方法

■ 10万組以上の母児を対象とした全国出生コホートである Japan Environment and Children’s Study(JECS)のデータセットを使用した。

■ CMAは、評価時点で CM製品を摂取していない児が、CM 製品に対するアレルギー反応に、医師の診断を受けた食物アレルギーを組み合わせたものと定義した。

■ 各曝露について、粉ミルクを開始した時期、すなわち生後 0~3 か月、3~6 か月、6~12 か月の摂取状況により確認した。

 

結果

■ CMAの有病率は生後 6 ヵ月および 12 ヵ月でそれぞれ 0.23%および 1.03%だった。

■ 多変量回帰分析により、生後 3ヵ月以内に定期的な粉ミルクを摂取開始することは、生後12 ヵ月時の CMAのリスク低下と関連していることが明らかになった。

生後 3~6 ヵ月の定期的な摂取は 生後12 ヵ月の CMA の減少と強く関連していた(調整後相対リスク[95%信頼区間] 0.22 [0.12-0.35])が、生後0~3ヵ月では関連は認められなかった(1.07 [0.90-1.27])

 

結論と臨床的妥当性

■ 生後3ヵ月以上での粉ミルクの定期的な摂取は、生後12ヵ月でのCMAの低下と関連しており、ごく初期のCM曝露がCMAに及ぼす影響は、曝露が短期間であれば消失する可能性があることを示唆している。

■ しかし、現時点では、この観察研究の結果を粉ミルクの推奨に用いるべきではなく、この関連性を確認するためにはランダム化比較試験が必要である。

 

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粉ミルクの早期開始が、乳アレルギーの予防に働くことはかなりはっきりしてきたといえます。

■ この抄録の最後にある、『この観察研究の結果を粉ミルクの推奨に用いるべきではなく、この関連性を確認するためにはランダム化比較試験が必要である』にある『ランダム化比較試験』が、最近発表された『SPADE試験』といえましょう。

 

■ 一方で、生後3日以内の粉ミルク摂取が乳アレルギーを増やす可能性が指摘されています。

■ 生後3日以内の粉ミルクを補充することに関しては、個人的にはまだ追試やデータの蓄積が必要だと思っています。その状況に応じ、今後そのプラクティスを変更するかどうかを検討する必要と考えています。

 

■ 一方で、思った以上にしられていませんが、生後数日間はつよい脱水症状を起こしやすい時期です。

■ 母乳栄養のお子さんに出生時に高ナトリウム血症をともなう強い脱水症状が高頻度で起こっていることが、たとえばピッツバーグ小児病院における5年間の後ろ向き研究などであきらかになっています(Pediatrics 2005; 116:e343-e7.)。黄疸・無呼吸・徐脈などを一般的に起こします。

■ そして、高ナトリウム血症をともなう強い脱水症状は、その後の中枢神経系へのリスクと、発達への問題が指摘されています(Breastfeeding Medicine 2017; 12:163-8.)。

■ 母乳栄養を否定するものではまったくありませんが、母乳栄養にこだわるあまりに利点だけでなくリスクも生じるかもしれないという考え方もあってしかるべきと考えます(Flaherman V, Von Kohorn I. Interventions Intended to Support Breastfeeding: Updated Assessment of Benefits and Harms. Jama 2016; 316:1685-7.)

 

■ 前提条件として、母乳栄養は重要なものだと私も考えています。母乳栄養の利点は多くあることはまちがいないのです。

■ しかし、その完全母乳栄養にも問題を起こす可能性をあることも忘れてはいけないと思います。

■ 新生児期、そしてその後の診療もしている小児科医としては、バランスよく考えていきたいと考えています。

 

今日のまとめ!

 ✅ 生後3ヶ月以内から粉ミルクを開始して続けると、生後12ヶ月時点での乳アレルギーの発症リスクが低下するようだ。

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