以下、論文紹介と解説です。
Cohen S, et al. Sleep habits and susceptibility to the common cold. Arch Intern Med 2009; 169:62-7.
健康な成人ボランティア( 21~55歳)計153人に対し、14日間の睡眠時間・質を評価した上でライノウイルスを曝露して風邪症状の発症と関連するかを検討した。
背景
■ 睡眠の質は、風邪に対する免疫、ひいては風邪の引きやすさに対する重要な予測因子であると考えられている。
■ そこで、ウイルスに曝露される前の数週間の睡眠時間と効率が風邪の引きやすさと関連しているかどうかを検討した。
方法
■ 計153人の健康な成人ボランティア( 21~55歳)がこの研究に参加した。
■ 14日間連続して、前日の夜の睡眠時間と睡眠効率(実際にベッドで眠っていた時間の割合)、休息を感じたかどうかを報告した。
■ 14日間のベースラインから、各睡眠変数の平均スコアが算出された。
■ その後、参加者は隔離されてライノウイルスを含む点鼻を投与され、曝露の前日と曝露後5日間、臨床的な風邪(客観的な症状があるという感染)の発症をモニターされた。
ベースライン期間
適格性スクリーニング(ウイルス曝露の5~10週間前)
- 健康診断
- 血液サンプルにおけるウイルスに対する抗体
- 人口統計
- 身長と体重
- 社会的地位
14 日間毎日のインタビュー(ウイルス感染の20~23日前から開始)
- 睡眠
- ポジティブな感情
- 健康習慣
ベースライン検査当日0日目(ウイルス曝露前)
- 心理学的なアンケート
- 試験開始時のウイルス培養のための鼻腔洗浄
- 試験開始時の呼吸器疾患の徴候と症状
ウイルス曝露
試験開始0日目(ウイルス曝露終了日)
- ウイルスへの曝露
曝露後のフォローアップ
検査 1-5日目
- ウイルス培養のための鼻腔洗浄
- 呼吸器系の病気の徴候と症状
ウイルス曝露後28日目
- 血液サンプルからウイルスに対する抗体の有無を確認
結果
■ 平均睡眠時間には、次のような段階的な関連があった。
■ 睡眠時間が 7 時間未満の参加者は、8 時間以上の参加者と比較して 2.94 倍(95%信頼区間 [CI] 1.18-7.30)風邪を引く可能性が高かった。
■ 睡眠効率との関連性は、睡眠効率が92%未満の参加者は、睡眠効率が98%以上の参加者に比較して5.50倍(95%CI 2.08-14.48)の確率で風邪をひく可能性が高くなった。
■ これらの関係は、ライノウイルス負荷前のウイルス特異的抗体価、人口統計、季節、体重、社会経済状況、心理的変数、健康習慣の違いでは説明できなかった。
■ 休息していると感じた日の割合は風邪とは関連していなかった。
結論
■ ライノウイルスに曝露される前の数週間における睡眠効率の低下と睡眠時間の短さは、病気に対する抵抗力の低下と関連していた。
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睡眠時間・効率(実際にねている時間)は、風邪の引きやすさにおおきな関連がある。
■ 睡眠時間に関する研究は、前向きコホート研究の結果が多いです(J Sleep Res 1994;3 (2) 111- 120、Health Psychol 2008;27 (2) 268- 274)が、それを、介入試験で証明したと言えましょう。
■ 逆に、長時間の睡眠時間がかえって死亡率をあげるかもという報告もありますが、睡眠時間が長いこと自体がうつ病の症状に過ぎないという考えもあるようです。この研究は、事前に精神的な状況も確認しているので、その問題はクリアできているといえます。
■ 睡眠不足になると感染症にかかりやすくなる理由としては、感染症に反応して放出される炎症性サイトカイン、ヒスタミン、その他の症状メディエーターの調節に影響を与えるというメカニズムが考えられています(Arch Intern Med 2006;166 (16) 1756- 1762)。
今日のまとめ!
✅ 7時間未満の睡眠は、8時間以上に比較して風邪に3倍程度かかりやすくし、実際に寝ている率が92%未満だと、98%以上に比較して5倍風邪にかかりやすくなるようだ。