以下、論文紹介と解説です。

Hülpüsch C, et al. Skin pH–dependent Staphylococcus aureus abundance as predictor for increasing atopic dermatitis severity. Allergy 2020; 75:2888-98.

pHの異なる保湿剤(エモリエント剤)を、アトピー性皮膚炎患者6人と健常対照者6人に、ダブルブラインドで1日2回8週間塗布し、黄色ブドウ球菌やpHを測定した。

背景

■ アトピー性湿疹(アトピー性皮膚炎、atopic dermatitis[AD])は、特に紅斑時の黄色ブドウ球菌の負荷が高く、皮膚pHの上昇に伴う皮膚バリアの破壊と皮膚微生物群の異常が特徴である。

■ 黄色ブドウ球菌は中性pHで最も増殖するため、パイロット研究でこれらの因子とADの重症度の縦断的な相互作用を調査した。

 

方法

■ 保湿剤(エモリエント剤)(pH8.5もしくはpH5.5)を、AD患者6人と健常(healthy;HE)対照者6人に、ダブルブラインドで1日2回8週間塗布した。

■ 毎週、マイクロバイオーム解析(ディープシークエンシング)のために皮膚スワブを採取してADの重症度を評価し、皮膚生理検査(pH; 角質水分量、経表水分蒸散量)を測定した。

 

結果

■ 生理学的、微生物学的、臨床的な結果は、塗布したエモリエント剤のpHとは強くは関連していなかった。

論文より引用。保湿剤の塗布はpHには十分関連しなかった。

■ HEでは縦断的に安定したマイクロバイオームであったのに対し、ADでは8週間でS aureusの頻度が有意に増加した。

■ S. aureusが高くなる頻度は皮膚pH5.7~6.2と関連していた。

試験開始時の黄色ブドウ球菌検出頻度は、8週間後の黄色ブドウ球菌の増加とADの重症度(EASIと局所SCORAD)の両方を予測した。

論文より引用。試験開始時の皮膚黄色ブドウ球菌量は、8週間後の重症度に関連した。

 

結論

■ 皮膚のpHは内在的な要因によって厳密にコントロールされており、黄色ブドウ球菌の増加を制限している。

■ 試験開始時の黄色ブドウ球菌の高発現は、研究期間中のAD重症度の増加を予測する。

■ このことは、皮膚pHに関する持続的な介入の重要性と可能性を強調し、疾患の悪化因子を理解するために、皮膚pHと皮膚の黄色ブドウ球菌の増加を関連付ける大規模な研究の必要性を促している。

 

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黄色ブドウ球菌の影響は、かなり強い。しかし、いわゆるブリーチ浴は有効ではない。結局は皮膚の炎症をおさめていく必要がありそうだ。

■ 検討された例数は少ないですが、かなりはっきりと黄色ブドウ球菌の影響が示唆されました。

■ では、いわゆる『消毒』をすると有効でしょうか?

■ 希釈塩素浴(ブリーチ浴)の有効性が一時報告されていましたが、最近の研究結果では不十分であるとしているものが多く(Sawada Y, Tong Y, Barangi M, et al. Dilute bleach baths used for treatment of atopic dermatitis are not antimicrobial in vitro. J Allergy Clin Immunol. 2019; 143(5): 1946‐ 1948.)、メタアナリシスでも否定されています。

■ 一方で治療初期の洗浄と抗炎症薬は、アトピー性皮膚炎の改善に有効であることがわかっています。

 

■ 保湿剤が黄色ブドウ球菌の抑制に有効であることは別の研究で報告されていますが、一方で炎症があると保湿剤だけでは効果は不十分であると言うことでしょう。

炎症を軽減しつつ、黄色ブドウ球菌にも配慮する…そんな戦略が見え隠れします

 

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今日のまとめ!

 ✅ アトピー性皮膚炎の改善の阻害因子として、黄色ブドウ球菌は大きな役割を持っているといえそうだ。

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