以下、論文紹介と解説です。
Shin M, et al. The influence of the presence of wheat flour on the antigenic activities of egg white proteins. Allergy Asthma Immunol Res 2013; 5:42-7.
卵白と小麦粉の混合物を10分間捏ねた後、180℃で10分もしくは30分間加熱して焼成し、生卵白や小麦と混合せずに加熱した卵白とのアレルゲン性を比較した。
目的
■ 卵アレルゲンであるオボムコイドは、加熱に強く、加熱後も可溶性を維持することが知られている。
■ しかし、最近の研究では、卵白(egg white; EW)と小麦粉を混合した場合、加熱によりオボムコイドの抗原性が低下する可能性があることが明らかになった。
■ 本研究では、小麦粉がEWを加熱した場合のEW蛋白質の抗原性に及ぼす影響と、加熱処理時間の影響について検討した。
方法
■ EWと小麦粉の混合物を10分間捏ねた後、180℃で10分もしくは30分間加熱して焼成した。
■ また、小麦粉を含まないEWも180℃で10分間もしくは30分間加熱した。
■ ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(sodium dodecyl sulfate polyacrylamide gel electrophoresis; SDS-PAGE)により蛋白質を分離し、卵アレルギー患者5人の血清を用いてIgEイムノブロットを行った。
■ さまざまなEWサンプル中のオボムコイドの抗原性に関し、ELISA法により測定した。
結果
■ 1) SDS-PAGE:EWと小麦粉の混合物を30分焼成した場合の37-50 kDバンド(オボムコイドとオボアルブミンの重なったバンド)の輝度は、混合した10分焼成物、加熱したEW、生のEWに比べて有意に低下した。
■ 2) IgEイムノブロット:EW と小麦粉の混合物を 30 分間焼成した場合37~50 kDのIgE反応性は顕著に低下した。
■ 3)阻害ELISA法:30分間焼成したEWと小麦の混合物は、オボムコイドの抗原性が有意に低下したが,加熱EWでは低下しなかった。
論文から引用。小麦と練り合わせて30分焼成すると、大幅にアレルゲン性が低下する。10分ではそこまでではない。
結論
■ 本研究では、EWを小麦粉で焼成することにより、オボムコイドの抗原性が低下することを示した。
■ EWと小麦粉を混合して焼成した混合物のオボムコイド抗原性の低下は、加熱処理の時間に依存しており、オボムコイド抗原性の低下を達成するためには加熱時間を長くする必要があることが示唆された。
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小麦と卵の混合物を焼成すると、アレルゲン性が大幅に低下する。
■ このことは、小麦と混合して焼成した、パンやクッキーは摂取できても、同じ蛋白量だとしても、炒り卵やゆで卵が食べられないケースがある説明になります。
■ 小麦と卵をねって加熱した際にアレルゲン性が下がる理由に関し、伊藤先生の著書のなかではシステイン結合を切るからと考察されていますが、この論文では『十分わかっていない』と書かれています。
■ 卵のアレルゲン性に関しては、伊藤先生の著書を読み込むとすごく臨床に使える知識に昇華するのですが、論文が少ないことがなにかの総説を書くときに困ってしまう点でもあります(伊藤先生の著作が珠玉であることを損なうものではありませんが)。
■ ですので、こういった論文もストックしておきたいところです。
今日のまとめ!
✅ 小麦と卵を混合して焼成すると、オボムコイドのアレルゲン性も大きく低下する。