以下、論文紹介と解説です。
Kitamura K, et al. Efficacy, safety, and parental anxiety in a randomized trial of two dietary instruction methods for children with suspected hen's egg allergy. Allergology International 2021; 70:114-20.
ゆで卵白2gの食物経口負荷試験が陰性で卵白IgE陽性とオボムコイド特異的IgE抗体価 <3.5 kUA/Lだった卵アレルギー児 55人を、5~8週間ごとに5g、10g、20gと病院で増量した群(SOFT群)、1週間ごとに自宅で約20%増量する群(家庭増量群)にランダム化し、6ヶ月後の有効性・安全性を比較した。
背景
■ 卵アレルギーが疑われる児の食生活への鶏卵の導入方法については、ほとんど報告されていない。
■ そこで、卵を導入するための2種類の食事指導法について、その有効性、安全性、親の不安を比較した。
方法
■ 対象者は、卵白IgE陽性とオボムコイド特異的IgE抗体価 <3.5 kUA/Lの1~4歳の児だった。
■ 参加者は、卵を摂取したころがないか、卵に対する即時性アレルギーはあるもののアナフィラキシーではないアレルギー反応の既往歴があるかのいずれかだった。
1)卵に対するアナフィラキシー歴
2)登録時に2g以上のゆで卵白を食べている
3)1歳前に血液検査を行っている
4)アトピー性皮膚炎や喘息のコントロールが不十分な合併症、その他の重篤な疾患の合併症
でした。
すなわち、『かなり軽症である』もしくは『皮膚や喘息の状態が安定している方』です。
■ 試験開始時にゆで卵白2gの食物経口負荷試験(oral food challenge; OFC)で陰性であった場合、参加者はstep-up OFC testing(SOFT)またはhome incrementing(家庭増量) 群にランダム化された。
論文から引用。2群の増量イメージ。
すなわち、週4回未満は許可されていません(食べていない場合は増量不可)。SOFT群は、ゆで卵白5、10、20gの単回投与の食物負荷試験を実施されました(それぞれ受診2回目、3回目、4回目)、無症状または軽微な症状でOFCにパスすると、負荷量を継続して摂取しました。在宅増量群は、指示された量の摂取できた場合は、1週間ごとに自宅で約20%増量しました。
具体的には、2~5gの間は週に0.5g、5~10gの間は週に1g、10~20gの間は週に2gずつ増量し、摂取頻度が週に4回以下の場合は増量せずに同量を継続しました。
■ プライマリアウトカムは、開始から6カ月後にゆで卵白20gを摂取できた参加者の率とした。
■ 本試験は、大学病院医療情報ネットワーク臨床試験登録(UMIN000024192)に登録されている。
結果
■ 2016年9月から2018年8月までに、55人の参加者を、SOFT群 33人(60%)と家庭増量群 22人(40%)にランダム化そ、51人を解析した。
■ 4人は追跡調査で脱落したため除外した。
■ SOFT群 32人中31人(96.9%)、家庭増量群19人中12人(63.2%)が主要評価項目を達成した(p=0.003)。
■ いずれの群も、重篤な副作用は観察されなかった。
■ 親の不安は両群とも治療中に有意に改善した。
結論
■ 卵アレルギーが疑われる児への卵導入の食事指導としては、家庭での増量よりもSOFT法の方が効果的だった。
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非常に興味深い結果で、実施可能性もある。ただし、注意点もさまざま指摘できるかもしれない。
■ 非常にユニークで興味深い結果です。
■ たとえば、クリニックで実施するには、受診ごとに負荷を繰り返す方法は、実施しやすい方法といえるかもしれません。
■ ただし、考察にも述べられていますが、家庭で増量した群のほうが軽微な症状が多かった理由は、病院での判断では『これは症状とはいえない』とされても、家庭では『症状かも』とされている可能性があるといえるかもしれません。
■ たとえば、在宅増量群の軽微な症状45回のうち、参加者2名がそれぞれ27回、10回の口周囲の発赤を報告していたのだそうです。
■ また、この研究は、オボムコイド特異的IgE抗体価が低い参加者を対象にされているので、重症の卵白アレルギー児では、結果が異なる可能性もあります(これも論文に述べられています)。
■ 心配な点として、病院で負荷試験を行うことになるので、『病院にコストがかかる』という問題点は無視できません。
■ 保険適応なりを考えなければ、ただ『病院でふやす方が良い』としてしまうと、ただでさえ負荷試験のために負荷が集中している病院やクリニックがさらに苦しくなる可能性もあります。
■ 安全性や実施可能性を考えながら、患者さんごとにあった方法を、さらに検討していく必要があるでしょう。
今日のまとめ!
✅ 家庭で1週間ごとに20%ずつ増量するより、病院に受診ごとに増量して維持していった方が、軽症卵アレルギーの治療としては有効かもしれない。