以下、論文紹介と解説です。
Kothari A, Locke A, Eiwegger T. Emollients for the prevention of atopic dermatitis. Allergy 2020.[Epub ahead of print] PMID: 33147358.
BEEP試験やPreventADALL試験の概観と、失敗した理由に関して考察した。
背景
■ アトピー性皮膚炎/湿疹(Atopic dermatitis/Eczema; AD)は、小児において最大30%が罹患する最もよくみられる慢性炎症性皮膚疾患である。
■ 湿疹は、典型的には乳幼児期に発症し、そう痒、ドライスキン、湿疹性の皮膚炎/皮膚刺激を特徴とし、いわゆるアトピーマーチの初期症状となることが多い。
■ このように、環境因子や遺伝的素因による皮膚バリア機能の低下と皮膚の炎症は、AD、ひいては食物に対する感作、食物アレルギー(food allergy; FA)、アレルギー疾患の併発疾患の進行と関連している。
フィラグリンと皮膚バリア障害
■ ADにおけるバリア機能の重要性は、フィラグリン(filaggrin; FLG)によって裏付けられている。
■ FLG遺伝子変異は、ADのリスクを高める。
■ FLG遺伝子変異とFAとの関連性については、疫学的データに矛盾があるため、議論の余地がある。
■ しかし、皮膚バリア機能障害は、潜在的にTh2型の皮膚炎症を促進し、FLGの発現を低下させることにも関係している可能性がある。
皮膚バリア傷害とTh2炎症
■ 食物の同時摂取と比較した環境曝露を考慮した、皮膚バリア機能障害と食物除去の間の点を結びつけることによって、二重抗原曝露仮説が構築された。
■ この仮説はLEAP試験の結果からも強く支持されている。
■ この仮説は、離乳食の開始を遅らせつつ皮膚がアレルゲンに曝露され、同時に皮膚の炎症を伴うバリア機能の低下が起こると、FAに対する感受性が高まることを示唆している。
■ このような炎症のある皮膚に対するアレルゲン曝露は、Th2型炎症を促進すると考えられている。
■ バリア機能低下のサロゲートマーカーである経表皮水分蒸散量(transepidermal water loss; TEWL)の増加は、ADの発症に先行している。
■ TEWLは出生時に最も低く、最初の2カ月間で増加し、6カ月でプラトーになることから、この時期は予防的介入の機会のウインドウであると考えられる。
エモリエントによる大規模介入研究
■ パラフィン系エモリエントを用いたパイロット試験では、AD発症のリスクが50%減少することが示唆されている(対照群43%、エモリエント使用群22%)。
■ 軟膏塗布はAD治療の中心的な治療コンセプトであるが、軟膏塗布によるADや潜在的なアレルギー疾患の発症に対する予防効果は、大規模な前向き介入研究によっては確立されていない。
■ そこで、ADの一次予防におけるエモリエントの可能性を評価するために、前向き非盲検介入ランダム化比較試験が2試験実施された。
■ これら2つの試験、BEEP(Barrier Enhancement for Eczema Prevention)およびPreventADALL(Preventing Atopic Dermatitis and Allergies)試験はの方法を図示した(図1)。
総説から引用。
■ どちらの試験も、親が治療をコントロールできるような実生活に近い環境を作ることを試みている。
BEEP試験の概観
■ BEEP試験では、ハイリスク乳児1394人(医師が診断したアレルギー疾患を持つ第一親等者)が登録され、生後3週間以内にパラフィン系エモリエント剤を毎日使用するか、通常のスキンケア方法を生後12カ月まで実施した。
■ アドヒアランス良好を、顔と頸部、腕と脚、体幹のうち少なくとも2つの部位に週3~4日以上実施することと定義され、生後3カ月で88%、生後6カ月で82%、生後12カ月で74%のアドヒアランスが得られた。
■ PreventADALL試験では、一般乳幼児2397人を対象に、2種類の介入方法が評価された。
■ すなわち、顔面への毎日のワセリン系エモリエント剤の使用と入浴剤の使用(8カ月間の介入を最低週4日)と、食物導入プロトコル、両者の組み合わせ、スキンケア方法(対照)を比較した。
■ 離乳食導入は、生後3カ月にピーナッツバター、その後、牛乳、小麦粥、スクランブルエッグを毎週順次導入した。
■ PreventADALLのプライマリアウトカムは、生後12カ月でのADと3歳での食物アレルギー(未報告)だった。
■ BEEP試験では、2歳時のAD発症は同程度だった(25%対23%; n.s.)。
PreventADALL試験の概観
■ PreventADALL試験では、軟膏塗布によるAD予防が無効だったと報告されている(1歳時に対照群8%、エモリエント群11%、早期アレルゲン補完食群9%、複合的な介入5%)。
■ この研究は、ADの発症予防のために早期に離乳食をを同時に導入することの価値という要素が追加した。
■ 注目すべきは、エモリエントと早期の離乳食開始を組み合わせた介入は、湿疹の有病率を低下させる傾向があったことである(8%対5%)。
。
■ この知見は、臨床的に意味のあるものとはみなされず、治療を受けた14例中1例のADが予防されたと定義された(△7%)。
BEEP試験とPreventADALL試験の問題点
■ この結果は、アレルギー疾患の分野における予防的アプローチに関し、答えよりも多くの疑問を提起し、ADの複雑な性質を例証している。
■ この2つの研究はいずれも、重要な要素である「炎症」を取り上げていない。
■ バリア機能障害に対処する際には、炎症を起こさないこと、または抑制することが重要であると考えられている。
■ もう一つの重要な検討事項は、すべてのエモリエントが同じではないということである。
■ ワセリン系によるアプローチは、セラミド系のアプローチに比べてTEWLの低減効果が低いことが実証されている。
■ バリア機能に影響を与えるためには、軟膏を1日に数回、週に5日以上塗布する必要があるかもしれない。
■ さらに、コンプライアンスの低さは、介入の副作用や安全性によるものではなかった。
今後の研究手法
■ これらの限界は、今後の進行中の研究(PEBBLES(NCT03409367)、CASCADE(NCT03409367)、PACI(UMIN-CTR:UMIN000028043)で対処されることが期待されている。
■ 先行研究では、軟膏(タンパク質ではなく脂質を主成分とするピーナッツオイル由来の軟膏)が、アレルギーを引き起こす可能性があるとされている
■ エモリエントの存在は、皮膚バリアを保護する代わりに、アレルゲンを含む特定の物質を上皮細胞層に取り込みやすくする可能性がある
■ この2つの研究では、さまざまな製剤がさまざまな免疫系への作用を引き起こす可能性があるため、これがどの程度役割を果たしたかは不明である。
■ 乳児期に皮膚や粘膜表面のバリア機能や炎症を理解することは、新しい予防的介入を設計する上で重要であり、今回の2つの研究は、代わりのアプローチを設計する上で重要なネガティブデータを追加した。
■ したがって、ADの一次予防としてワセリン系エモリエント剤やエモリエント剤全般を使用することは、さらなるエビデンスが得られるまで支持されない。
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エモリエント(ワセリンベース)や部分のみの塗布、塗布回数が少ないなどの問題点を改善した上で、アトピー性皮膚炎の発症予防に働くかを見ていく必要がありそう。
■ 保湿剤によるアトピー性皮膚炎の発症予防に関しては、個人的な考えとしては『条件がある』と考えています。
■ すなわち、『モイスチャライザーを1日複数回、全身にしっかりした量を塗布する』ということです。
■ PEBLESSスタディ(フェーズ3)の研究結果がポジティブな結果になるのではないかなあと思っています。
■ そして、早期に抗炎症薬で介入するPACIスタディも650人が走りきったと報じられましたので、その結果も期待しています。
今日のまとめ!
✅ 保湿剤によるアトピー性皮膚炎の発症予防に関しては、条件をみたす必要性があるのかもしれない。