以下、論文紹介と解説です。

Greinacher A, et al. Thrombotic Thrombocytopenia after ChAdOx1 nCov-19 Vaccination. N Engl J Med. 2021 Apr 9. doi: 10.1056/NEJMoa2104840. Epub ahead of print. PMID: 33835769.

アデノウイルスベクターを利用した新型コロナワクチンに、血栓症や血小板減少症をきたした症例が認められ、その11人の臨床的・検査上の特徴を評価した。

背景

■ 重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のスパイク蛋白抗原をコードする組換えアデノウイルスベクター(ChAdOx1 nCov-19,AstraZeneca社)によるワクチン接種後に、通常でみられない血栓症や血小板減少症を発症した症例がいくつか認められた。

■ この通常でない血液凝固障害の発症機序について、さらなるデータが必要とされていた。

 

方法

■ ドイツとオーストリアにおいてChAdOx1 nCov-19のワクチン接種後に血栓症もしくは血小板減少症を発症した11人の臨床的および検査上の特徴を評価した。

■ 血小板第4因子(PF4)-ヘパリン抗体を検出するための標準的なELISA法と、血小板活性化抗体を検出するための改良型(PF4強化型)血小板活性化試験を様々な反応条件下で行った。

■ この検査には,ワクチンに関連した血栓症を調べるために血液を採取した患者の検体が含まれており、スクリーニング用のPF4-ヘパリン免疫測定法で28例が陽性となった。

 

結果

初診患者11人のうち、女性は9人で、年齢中央値は36歳(範囲 22~49歳)だった。

■ ワクチン接種の5~16日後から,1人を除く患者に1つ以上の血栓イベントが発生し、重大な頭蓋内出血が認められた。

■ 1つ以上の血栓症を呈した患者のうち,9人が脳静脈血栓症,3人が脾静脈血栓症、3人が肺塞栓症、4人がその他の血栓症であり、このうち6人が死亡した.

■ 5人が播種性血管内凝固症候群に罹患した。

■ 症状が出る前にヘパリンを投与されていた患者はいなかった。

PF4-ヘパリン抗体が陽性であった28人の患者全員が,ヘパリンとは独立したPF4の存在下での血小板活性化分析で陽性だった

■ 血小板活性化は、高濃度のヘパリン、Fc受容体遮断モノクローナル抗体、免疫グロブリン(10mg/ml)によって抑制された。

■ 2人は、PF4またはPF4-ヘパリン親和性精製抗体を用いた追加試験により、PF4依存性に血小板活性化された。

 

結論

■ ChAdOx1 nCov-19によるワクチン接種は、PF4に対する血小板活性化抗体を介する免疫性血小板減少症をまれに発症させる可能性がある。

■ そしてこれは、臨床的には自己免疫性ヘパリン誘発性血小板減少症に類似している。

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アストラゼネカ社のワクチンがリスクが極めて高い…ではなく、『より安全なワクチンを選択するための体制構築』という流れの一貫だろうと思われる。

■ ヘパリン起因性血小板減少症は、ヘパリンそのものが原因ではなく血小板因子第4因子に対する抗体が本態であるというのが正しいとされています(日本輸血細胞治療学会誌 2012; 58:201.)。

■ この機序が正しいのならば、ウイルスベクターを使用したヤンセン社製のワクチンも、ごく稀に血栓をおこす可能性があり、一方で、mRNAを使用したワクチンでは、この機序ははたらかないため血栓症のリスクとは直接の関係はないということになります。

 

■ 今回の報道や決定をみて思うのは、アストラゼネカ社のワクチンがきわめてリスクが高いというわけではなく『安全性がより高いものを選択する』という方針となったといえるでしょう。

■ 英国ではすでに、18歳未満の治験を一時中止となっています。

 

■ 一方で、アストラゼネカ社のワクチンは、日本で製造する予定で1.2億回分の供給が行われる予定でした。

アストラゼネカ、コロナワクチン1.2億回分供給で日本と最終合意

■ mRNAワクチンが潤沢にあるというならばそちらを優先したいところですが、新型コロナウイルス感染症自体で約15%が血栓症を発症している現状からは、きわめて稀なワクチンによる血栓症によってアストラゼネカ社のワクチンを接種しないというのはリスクマネジメントとしては議論の余地はあるかもしれません。

■ 今後の動向を注視したいと思います。

 

今日のまとめ!

 ✅ ウイルスベクターワクチンであるアストラゼネカ社のワクチンは、血栓症を起こす可能性が稀ながらあり、その機序の一端が解明されつつある。

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