以下、論文紹介と解説です。

Food anaphylaxis in the United Kingdom: analysis of national data, 1998-2018. Bmj 2021; 372:n733.

英国(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)における、過去20年間のアナフィラキシーの原因や傾向を調査した。

目的

■ 過去20年間にわたる、英国における食物アナフィラキシーによる入院の時間的傾向を述べる。

 

試験デザイン

■ 1998~2018年の国別データの解析。

 

セッティング

■ アナフィラキシーによる入院と死亡に関するデータ、アドレナリン自己注射器の処方データ。

 

参加者

■ 英国の人口全体と分権国家(イングランド、スコットランド、ウェールズ、北アイルランド)。

 

主要評価項目

■ 食物もしくは非食物を原因とするアナフィラキシーによる入院の時間的傾向、年齢、性別の分布、これらの入院率と死亡率(入院数に占める死亡者数の割合)の比較。

 

結果

■ 1998年から2018年に、101891人がアナフィラキシーのために入院した。

■ これらの入院のうち、30700人(30.1%)が食物によるものとしてコード化された。

食物アナフィラキシーによる入院は、人口10万人あたり年間1.23人から4.04人に増加し(1998年から2018年まで)、年間5.7%(95%信頼区間5.5%~5.9%; P<0.001)の増加となった。

論文から引用。1998年から2018年までの人口10万人当たりの入院患者数の年齢別時間推移。
上段:「アレルギー」に関連した入院、2段目:すべてのアナフィラキシーによる入院、3段目:食物以外のアナフィラキシーによる入院、4段目:食物によるアナフィラキシー

Fig 1

 

アナフィラキシーの性差。
NICE(National Institute for Health and Care Excellence)における小児アナフィラキシーの夜間入院推奨ガイダンスは2011年に導入された。

 

アナフィラキシーの年齢と性差。

Fig 3

 

入院患者数の増加が最も大きかったのは15歳未満の小児であり、人口10万人あたり年間2.1人から9.2人に増加した(年間増加率6.6%; 95%信頼区間 6.3%~7.0%)

■ 比較すると、15~59歳では年間5.9%(5.6%~6.2%)、60歳以上では2.1%(1.8%~3.1%)の増加だった。

■ 食物によるアナフィラキシーが原因と考えられる死亡例は152件だった。

■ 死亡率は、確認された致死的な食物アナフィラキシーでは0.7%から0.19%(率比 0.931; 95%信頼区間 0.904~0.959; P<0.001)となり、疑いのある致死的な食物アナフィラキシーでは0.30%(率比 0.970; 0.945~0.996; P=0.024)に低下した。

上段:人口10万人当たりの食物アナフィラキシーによる死亡者数(1998-2018年)。
下段:食物アナフィラキシーの症例全体の死亡率(1998-2018年)。

Fig 4

死亡例の少なくとも46%(187例中86例; 1992~98年の35例も含む)がピーナッツもしくはナッツ類が引き金となっていた。

 

食物による致死的な食物アナフィラキシーの相対的な割合の変化(1992年~2018年)。

Fig 7

学童期の子どもの死亡原因の66件中17件(26%)は牛乳によるものだった

小児(16歳未満)と成人における致死的な食物アナフィラキシーのトリガーとなった食物(1992年~2018年)

Fig 6

■ 同時期に、アドレナリン自己注射器の処方は336%増加した(推定率比1.113; 95%信頼区間1.112~1.113; 1年あたり11%の増加)。

1998年から2018年までの英国に居住するひとへのアドレナリン自動注射器の処方量。データは処方箋の発行数(デバイスの数ではない)。

Fig 8

 

結論

■ 食物アナフィラキシーの入院患者数は1998年から2018年にかけて増加しているが、症例ごとの致死率は低下している。

■ 学童期の児では、牛乳は現在、致死的なアナフィラキシーの最も一般的な単一原因となっている。

 

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アナフィラキシーは増加しているが、死亡数自体は増えていないようだ。しかし、乳アレルギーは相対的に原因として大きくクローズアップされており、年長児の乳アレルギーのリスクが高まっている。

■ 過去20年にわたり、アナフィラキシーによる入院は増加し続けているものの、死亡率がていかすることにより死亡数自体はは増加していないことが示されています。

■ この際、アナフィラキシーの診断基準が変更になったことによりアナフィラキシーが増えたというエビデンスはなかったと考察されています。

 

■ 10歳代は致死的なアナフィラキシー反応のリスクが最も高いと考えられていますが、この報告によると、致死率は成人期半ばになっても高いままであるとも言えます。

■ ピーナッツやナッツ類よる死亡は減少していることに関しては、食品業者がナッツアレルギーに対する認識を高めたためと考察されています。

 

■ 一方で、牛乳による死亡例が増加していることが判明しました。

■ 確かに、乳アレルギーの多くは重篤ではなく、大多数は乳幼児期にアレルギーが寛解します。

■ しかし、牛乳アレルギーが年長児まで持続すると、アナフィラキシーや生命を脅かす反応の大きな原因となるということです。

 

■ このあたりは、食物アレルギーを多く診療しているアレルギー専門医にとっては肌で感じていることでしょう。

 

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今日のまとめ!

 ✅ 英国におけるアナフィラキシーは増加しており、学童期における致死的なアナフィラキシーの原因として、乳がクローズアップされるようになった。

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