以下、論文紹介と解説です。

Shemer A, et al. Association of COVID-19 Vaccination and Facial Nerve Palsy: A Case-Control Study. JAMA Otolaryngol Head Neck Surg 2021.

イスラエル中央部の三次医療機関の救急部において、ワクチン接種者と非接種者における顔面神経麻痺のリスクを比較した。

重要性

■ 末梢性顔面神経(ベル)麻痺は、BNT162b2(ファイザー・バイオンテック社)COVID-19ワクチンの可能性のある副作用として報告・示唆されている。

■ イスラエルは現在、国民一人当たりのワクチン接種率でトップの国であり、BNT162b2ワクチンのみを使用している。

■ そしてイスラエルの全住民は国のデジタル健康登録システムに登録することが義務付けられている。

■ これらの要因により、有害事象の早期解析が可能である。

 

目的

■ BNT162b2ワクチンが急性発症の末梢性顔面神経麻痺のリスクの増加と関連しているかどうかを検討する。

 

研究デザイン、セッティング、参加者

■ この症例対照研究は、2021年1月1日から2月28日まで、イスラエル中央部の三次医療機関の救急部で実施された。

■ 顔面神経麻痺のために入院した患者と、その他の理由で入院した対照患者を、年齢、性別、入院日でマッチさせた。

 

曝露

■ BNT162b2ワクチンの最近の接種。

 

主な結果と測定

■ 急性発症の末梢性顔面神経麻痺患者における、BNT162b2ワクチンへの最近の接種に対する調整済みオッズ比。

■ ベル麻痺患者がBNT162b2ワクチンを接種した割合を群間で比較し、ワクチンへの曝露に関する生のオッズ比と調整済みオッズ比を算出した。

■ また、過去数年間の顔面神経麻痺患者全体の数との二次比較を行った。

 

結果

■ 調査期間中に顔面神経麻痺で入院した患者は37人で、そのうち22人(59.5%)が男性であり、平均(SD)年齢は50.9(20.2)歳でだった。

■ 最近ワクチンを接種した患者(21人[56.7%])では、ワクチン接種から麻痺発生までの平均(SD)時間は,1回目の接種から9.3(4.2[範囲 3~14])日、2回目の接種から14.0(12.6[範囲 1~23])日だった.

年齢、性別、入院日が同一の74人のマッチさせた対照群(2:1の比率)では、最近ワクチンを接種した者44人(59.5%)と同程度だった

曝露の調整オッズ比は0.84(95%CI 0.37-1.90,P=0.67)だった

論文から引用。ワクチン接種群と未接種群で、顔面神経麻痺の頻度はかわらない。

■ さらに、過去数年間と同時期の顔面神経麻痺の入院数(2015~2020年)を分析したところ、比較的安定した傾向だった(平均値[SD] 26.8[5.8]; 中央値 27.5[範囲 17~35])。

論文から引用。2015年~2020年にかけての顔面神経麻痺と頻度は年度により多少の差はあるものの、安定している。

 

結論と関連性

■ 今回の症例対照研究では、BNT162b2ワクチンの最近の接種と顔面神経麻痺のリスクに関連性は認められなかった。

 

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新型コロナワクチンで、顔面神経麻痺が増えるとはいえないようだ。

■ 今回の新型コロナワクチンはきわめて大規模におこなわれているため、まれな有害事象や副反応に関しても積極的に拾い上げて検討されていると感じます。

 

■ たとえば、心筋炎に関してもそうです。まれながら、心筋炎に関してはリスクが高くなるであろうことがわかっています( Larson KF, Ammirati E, Adler ED, Cooper LT, Hong KN, Saponara G, et al. Myocarditis after BNT162b2 and mRNA-1273 Vaccination. Circulation 2021.)。

■ もちろん、ワクチンよりも実際に罹患した方がリスクはおおきいことは明らかですし、心筋炎をおそれてワクチンを避ける理由にはならないでしょう。

 

■ そして、今回の懸念材料である顔面神経麻痺に関しては、症例対照研究では否定されました

■ このような懸念に対して、ひとつひとつ科学的な証明を積み重ねることはとても大事だろうと思います。

 

■ このような『偶然なのか、関連があるのか』にかんしては、有害事象と副反応を区別しなければなりません。

■ 最近、エモリー大学の紙谷先生が、すごくわかりやすい講演をしてくださっているので是非。

 

■ 現状でいえることは、mRNAワクチンに関しては、デメリットがメリットを上回るような研究結果は今のところないということです。

■ 接種率があがることで、よりもとの生活に戻っていくことを願っています。

 

今日のまとめ!

 ✅ 新型コロナワクチン(ビオンテック社のmRNAワクチン)で、顔面神経麻痺が増えることはないと示唆される。

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