以下、論文紹介と解説です。
Diaz GA, et al. Myocarditis and Pericarditis After Vaccination for COVID-19. JAMA 2021.
米国プロビデンスの医療システムに登録された、新型コロナのワクチン接種が記録されたいる患者、州の登録に記録された患者をすべて特定したうえで、心筋炎・心膜炎の発症リスクを調査し、その特徴を確認した。
背景
■ SARS-CoV-2ワクチン接種後に心筋炎を発症した症例がまれに報告されている。
■ そこで、ワクチン接種後に心筋炎または心膜炎を発症した症例を確認するために、ワクチン接種者のカルテを概観した。
方法
■プロビデンスの医療システムに属し、同じ電子医療記録(EMR)を使用している、ワシントン州,オレゴン州,モンタナ州,カリフォルニア州ロサンゼルスの40病院を対象とした.
(Wikipedia)
■ 2021年5月25日までに、システム内で実施されたCOVID-19ワクチン接種が記録された患者、もしくは州の登録に記録された患者をすべて特定した。
■ ワクチン接種を受けた患者で、その後、心筋炎、心筋症、心膜炎の診断を受けて救急部もしくは入院した患者をEMRから確認した(除外基準と定義については、補足のeTables 1および2を参照)。
■ 2019年1月~2021年1月(ワクチン前期間)と2021年2月~5月(ワクチン期間)の病院における初回診断(2018年1月~2019年1月に診断を受けた患者を除く)の月次率を比較した。
■ 1標本割合の95%信頼区間の算出にはWilson法を用いた。
■ 期間中の発生率の変化と発生率の95%信頼区間は、ポアソン分布を仮定した正確率比検定を用いて評価し、両側P<0.05で統計的有意性を定義した。
■ 統計ソフトはRバージョン2021(R Foundation)を使用した。
■ プロビデンスの機関審査委員会は,インフォームド・コンセントを放棄し本研究を承認した。
結果
■ COVID-19ワクチンを1回以上接種した2000287人のうち、58.9%が女性であり、年齢中央値は57歳(四分位範囲[IQR] 40~70歳)、76.5%が(ワクチンを)1回以上接種しており、52.6%がBNT162b2ワクチン(Pfizer/BioNTech社)、44.1%がmRNA-1273ワクチン(Moderna社)、3.1%がAd26.COV2.Sワクチン(Janssen/Johnson & Johnson社)を接種していた。
■ ワクチンに関連した心筋炎は20名(10万人あたり1.0[95%CI 0.61-1.54])、心膜炎は37名(10万人あたり1.8[95%CI 1.30-2.55])だった。
■ 心筋炎はワクチン接種後、中央値で3.5日(IQR 3.0~10.8日)後に発生した(mRNA-1273ワクチン11例[55%]、BNT162b2ワクチン 9例[45%]).
■ 15人(75%; 95%CI 53%~89%)が男性であり、年齢の中央値は36歳(IQR 26~48歳)だった。
■ 1回目のワクチン接種後に4名(20%; 95%CI 8%~42%)が症状を発症し、2回目のワクチン接種後に16名(80%; 95%CI 58%~92%)が症状を発症した。
■ そして19人(95%; 95%CI 76%~99%)が入院した。
■ 全員が中央値2日(IQR 2~3日)で退院した。
■ 再入院や死亡はなかった。
■ 心筋炎発症後に2回目のワクチン接種を受けた患者が2名いたが、いずれも症状は増悪しなかった.
■ 最後のフォローアップ調査(発症後中央値 23.5日[IQR 4.8~41.3日])では、13例(65%; 95%CI 43%~82%)が症状が軽快し、7例(35%; 95%CI 18%~57%)が改善していた.
■ 心膜炎は、1回目の接種後に15例(40.5%; 95%CI 26%~57%)、2回目の接種後に22例(59.5%l 95%CI 44%~74%)に発症した(mRNA-1273ワクチン 12例[32%]、BNT162b2ワクチン 23例[62%]、Ad26.COV2.Sワクチン 2例[5%]).
■ 発症の中央値は、直近のワクチン接種から20日後(IQR 6.0~41.0日)だった。
■ 27名(73%; 95%CI 57%~85%)が男性で、年齢の中央値は59歳(IQR 46~69歳)だった。
■ 13人(35%; 95%CI 22%~51%)が入院したが、集中治療を受けた者はいなかった。
■ 入院期間の中央値は1日(IQR 1~2日)だった。
■ 心膜炎の患者7人は、2回目のワクチン接種を受け、死亡した患者はいなかった。
■ 入手可能な最終のフォローアップ調査(中央値 28日; IQR 7~53日)では、7人(19%; 95%CI 9~34%)が症状が軽快し、23人(62%; 95%CI 46~76%)が改善していた.
■ ワクチン前の期間における心筋炎または心膜炎の月あたりの例数は16.9(95%CI 15.3~18.6)であったのに対し、ワクチン期間中は27.3(95%CI,22.4~32.9)だった(P<0.001)(図)。
論文から引用。
■ また、同期間における心膜炎の平均症例数は、それぞれ49.1(95%CI、46.4~51.9)、78.8(95%CI、70.3~87.9)だった(P < 0.001)。
考察
■ COVID-19ワクチン接種後、心筋炎と心膜炎という2つの異なるself-limitedな症候群が観察された。
■ 心筋炎は若年層で急速に発症し、主に2回目の接種後に発症した。
■ 心膜炎は、高齢者では1回目か2回目の接種後に発症した。
■ 心筋炎に関連するワクチンは、mRNAワクチンを含めていくつかあり、米国疾病管理予防センターは最近、COVID-19 mRNAワクチンと心筋炎との関連性の可能性を報告しており、主に2回目の接種後数日以内に若い男性に発症し、その発生率は100万人あたり約4.8例であった。
■ この研究では、発生率は高いものの、同様のパターンを示しており、ワクチンの有害事象の過少報告が示唆される。
■ また、高齢者では心筋炎よりも心膜炎の方が多いと考えられる。
■ 本研究の限界は、外部の医療機関で見落とされた症例、心筋炎や心膜炎の診断漏れ(発生率を過小評価することになる)、EMRのワクチン接種情報の不正確さなどがある。
■ 時間的な関連性は因果関係を証明するものではないが、ワクチン接種から心筋炎発症までの期間が短いことや、調査対象病院における心筋炎や心膜炎の発生率が高いことから、関連性の可能性が示唆される。
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新型コロナのワクチンと、心筋炎・心膜炎のリスク増加は関連性が示唆されている。ただし、そのリスクは新型コロナの罹患そのものによる心筋炎・心膜炎の発症リスクよりもずっと低いと想定される。
■ ここで大事なのは、新型コロナワクチン接種後の心筋炎・心膜炎という有害事象は、稀な有害事象であることです。
■ 先行して報告された12~39歳の2回目のmRNAワクチン100万回接種あたり約12.6件(Circulation 2021; 144:471-84.)となっています。
■そして新型コロナに罹患した場合のほうが、はるかに高率に心筋炎・心膜炎を発症する可能性があります。
■新型コロナに感染した既往のある米国のプロスポーツ選手789名に、検査で検出可能な炎症性心疾患の有病率を評価したところ、3.8%にスクリーニング検査で異常が認められ、最終的に5名(0.6%)に、心臓MRI画像に炎症性心疾患を示唆する所見があり(心筋炎 3名、心膜炎 2名)、プレーが制限されています。
■この差を直接比較することは困難ですが、まともに新型コロナに感染した場合のリスクは、ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎の発生リスクの1000倍程度ではないかと推測できます。
■ そして、大規模に接種がすすんでいるワクチンでもあり、個々の有害事象がワクチンに関連しているかどうかが詳細に検討され、懸念のある有害事象がピックアップされているということです。
■ たとえば一部でいわれている顔面神経麻痺(ベル麻痺を含む)に関しては、ワクチンとの関連性が薄いことが報告されています。
■そして、この報告では、ワクチン接種後の心筋炎・心膜炎の症状は軽く、短期間の入院で軽快・改善していることは指摘できるでしょう。
■一方で、とくに2回目接種後1週間以内にの若い世代の男性でこの心筋炎・心膜炎がおこりやすいことを考えると、接種後1週間程度は激しい運動を控えるなどもひとつの対策なのかもしれません。
今日のまとめ!
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