以下、論文紹介と解説です。

Golan Y, et al. Evaluation of Messenger RNA From COVID-19 BTN162b2 and mRNA-1273 Vaccines in Human Milk. JAMA Pediatrics 2021.

mRNAワクチンを接種したあとの母乳育児中の母親(平均37.8歳)7人の母乳から、mRNAが検出されるかを検討した。

背景

■ COVID-19に対するメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、最近、緊急使用許可を得て承認された。

■ しかし、第3相臨床試験から除外された妊娠中または授乳中の人におけるワクチンの安全性に関するデータは不十分であり、母親のワクチン接種が母乳を変化させるのではないかという懸念から、多くの母親がワクチン接種を拒否したり、(一時的または恒久的に)授乳を中止することを決心している。

■ 世界保健機関は、授乳中にワクチンを接種することを推奨しており、ワクチン投与後に授乳を中止することも推奨していない。

■ Academy of Breastfeeding Medicineは、ワクチンのナノ粒子やmRNAが乳房組織に入り込んだり、母乳に移行したりするリスクはほとんどないとしている。

■ その結果、理論的には乳児の免疫反応の呼び水になり、小児期の免疫が変化する可能性がある。

■ しかし、直接的なデータはない。

■ この知識のギャップを解消するために、ワクチン接種後のヒトの乳汁中にワクチン関連のmRNAが検出されるかどうかを調べるために乳汁サンプルを分析した。

 

方法

■ カリフォルニア大学サンフランシスコ校の機関審査委員会が本研究を承認した。

■ 2020年12月から2021年2月までのCOVID-19 Vaccine in Pregnancy and Lactation(COVIPAL)コホート研究において、すべての研究ボランティアから書面によるインフォームドコンセントを得た。

■ 臨床データはアンケートにより収集した。

■ 自己採取した母乳サンプルは、実験室に到着するまで氷または即時冷凍(自宅)で保管した。

■ 母乳サンプルは、ワクチン接種前と、ワクチン接種後48時間までの様々な時点で採取した。

■ 乳成分からRNeasy Mini Kit(Qiagen)を用いてすべてのRNAを分離した。

■ COVID-19 mRNAワクチンに使用されているmRNAを標的としたRT-PCRを行った。

■ BNT162b2(ファイザー社)とmRNA-1273(モデルナ社)ワクチンをそれぞれワクチン接種前の母乳サンプルに同じ方法で処理し、この検査系の陽性コントロールとして使用した。

■ そしてワクチン接種前の母乳サンプルを陰性コントロールとして使用した。

■ 標準曲線から、本法の検出下限値は、BNT162bとmRNA-1273ワクチンでそれぞれ0.195 pgと1.5 pgであることがわかった。

■ ワクチンの取り込みとmRNAの含有量は母乳の分画によって異なる可能性があるため、すべての乳サンプルについて上清成分と脂肪を別々に分析した。

■ 乳の細胞性物質が十分にあった2つのサンプルは別々に分析した。

■ ワクチン接種した母乳サンプルを1回凍結融解させても、新鮮なサンプルと比較しmRNAの検出に影響はなかった。

■ 陽性コントロールでは、乳の上清成分よりも脂肪成分の方がmRNA-1273量が高かった。

■ 解析には,QuantStudio Software version 1.7.1 (Applied Biosystems) と Prism version 9.1.0 (GraphPad) を使用した。

 

結果

■ 本研究には、母乳育児中の母親(平均[SD]年齢 37.8 [5.8]歳)7人がボランティアとして参加した(表)。

論文から引用。

■ 子どもの年齢は1カ月から3歳だった。

■ ワクチン接種後の母乳サンプルは,BNT162b2ワクチン(5人)またはmRNA-1273ワクチン(2人)を投与してから4~48時間後に採取した。

1人から複数の時点(4~48時間)を含むワクチン接種24時間後に採取した母乳13のサンプルを分析したところ、いずれのサンプルからも、母乳のどの分画からもワクチンに由来するmRNAは検出されなかった(図)。

論文から引用。

 

考察

■ 授乳中の母親7人からワクチン接種後4~48時間後に採取した母乳13サンプルからは、ワクチンに関連するmRNAは検出されなかった。

■ これらの結果は、ワクチン関連のmRNAが乳児に移行しないこと、COVID-19 mRNAベースのワクチンを接種した授乳中の人は授乳を中止すべきではないという現在の推奨を強化するための重要な初期のエビデンスとなる。

■ さらに、本試験法の検出限界以下のmRNAは、乳児の胃腸で分解されるため、乳児の曝露量はさらに減少すると考えられる。

■ 本研究の限界は、サンプルサイズが小さいことと、mRNA-1273ワクチンを接種した被験者が少ないことである。

■ また、母乳の保存状態がmRNAの安定性に影響を与える可能性がある。

■ これらのワクチンが授乳期に及ぼす影響をより正確に推定するためには、より多くの集団から得られた臨床データが必要である。

 

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母乳に分泌される、新型コロナに対する抗体と、mRNAそのものを区別して考える必要性があり、また、その量は『ng』のオーダであることを想像すると良いでしょう。

■ この検討では、mRNAワクチンを接種した母親の母乳中にワクチン由来のmRNAは検出されなかったという結果でした。

■ さらに最近おこなわれた検討では、ごく一部の母乳から、ごくごくわずか検出された(最大2ng/ml)という結果があります(Low JM, Gu Y, Ng MSF, Amin Z, Lee LY, Ng YPM, et al. Codominant IgG and IgA expression with minimal vaccine mRNA in milk of BNT162b2 vaccinees. npj Vaccines 2021; 6:1-8.)。

 

■ 基本的に検出はされないといえますし、『わずか』というのは、ng(ナノグラム)単位です。

■ イメージがつきにくいかもしれませんが、1g(グラム)=1000mg(ミリグラム)=1000,000μg(マイクログラム)=1000,000,000ng(ナノグラム)です。

■ そして、1円玉が1gで、1リットルパックの水で1000gで、車1台が1000,000gで、車1000台で1000,000,000gです。

 

 

■ それくらいの差があると言えます。

 

■ そして今回の研究結果からも指摘されるように、『検出限界以下のmRNAは、乳児の胃腸で分解される』とあるように、mRNA自体のリスクも低いうえに、こんなに微量で何かが起こることは思えませんよね。

■ それよりも、お母さん自身をウイルスから守り、母乳から新型コロナから赤ちゃんを守る抗体をプレゼントしたほうがよりメリットが大きいでしょう。

 

今日のまとめ!

 ✅ 授乳中の母親がmRNAワクチンを接種すると新型コロナに対する抗体は分泌され、赤ちゃんを守る可能性がある。一方、mRNA自体は基本的に検出はされず、可能性としてごく一部の母乳にきわめてわずかな量が検出されるが、量が少なく害はあるとは考えにくい。

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