以下、論文紹介と解説です。

Somekh I, et al. Characteristics of SARS-CoV-2 Infections in Israeli Children During the Circulation of Different SARS-CoV-2 Variants. JAMA Network Open 2021; 4:e2124343-e.

イスラエルに置いて、2020年8月1日から10月2日にSARS-CoV-2PCR検査陽性となった0歳から9歳の子ども21615人(男児50.9%)と、2020年12月3日から2021年2月3日に陽性となった0歳から9歳の子ども50811人(男児51.5%)のデータを解析し、アルファ株の拡大前後での子どもにおける感染拡大への影響を検討した。

はじめに

■ 2020年12月以降、イスラエルではSARS-CoV-2 B.1.1.7亜種が広がっており、2021年1~2月には急速に優勢な循環株となり、症例の80%以上で分離された。

参考。感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株について (第9報)

B.1.1.7はアルファ株。

■ 本研究の目的は、さまざまなSARS-CoV-2変異種が循環していた2つの期間において、0~9歳の小児におけるSARS-CoV-2の広がりの特徴を比較することである。

■ 以前のSARS-CoV-2変異株(主にGHおよびGR亜型)が流通していた2020年8月から10月と、イスラエルでB.1.1.7亜種が増えてからの2020年12月から2021年2月で調査された。

 

方法

■ 本コホート研究は、STROBE(Strengthening the Reporting of Observational Studies in Epidemiology)報告ガイドラインに従った。

■ イスラエル保健省が発表した「Clinical Trials in Humans」の規定により、本研究は機関審査委員会の承認が免除され一般に公開されている非識別データを使用しているため、インフォームドコンセントは必要ないと考えられた。

■ 0~9歳の小児については,実施したSARS-CoV-2のPCR検査、陽性検体率、COVID-19発生率、入院数に関する全国の日報データを保健省から入手した。

■ 週ごとの発生率は検査実施数で調整した(別紙eAppendix)。

■ SARS-CoV-2感染者の調査と接触者の追跡は、保健省によって行われた(eAppendix in the Supplement)。

■ ワクチン接種キャンペーンのデータを含む、調査期間中の非薬理学的介入についても、補足のeAppendixに詳細が記載されている。

■ 2020年8月1日から10月2日、2020年12月3日から2021年2月3日のにおいて、以下の結果を分析・比較した。
(1)調整後の発症率の曲線をプロットし、その線形回帰の傾きを比較した。さらに、ポアソン回帰を用いて2つの期間の違いを比較した。
(2)SARS-CoV-2感染率と入院率も調査した。
統計解析には両側χ2検定およびt検定を使用し、P < 0.05を統計的に有意とした。

■ 統計解析は、SPSS Statistics version 25.0(IBM Corp)を用いて、2021年3月から6月まで実施した。

 

結果

2020年8月1日から10月2日にSARS-CoV-2PCR検査陽性となった0歳から9歳の子ども21615人(男児50.9%)と、2020年12月3日から2021年2月3日に陽性となった0歳から9歳の子ども50811人(男児51.5%)のデータを解析した

2021年12月~2月の0~9歳児の週ごとに調整した罹患率曲線の傾き(84.4;95%CI 71.1~97.7)は、2020年8月~10月のそれ(39.1;95%CI 23.9~54.3)よりも有意に高かった。

■ 週ごとに調整された罹患率の最高値と最低値の率比は、2020年12月~2021年2月(6.75[95%CI 6.3~7.2])の方が、2020年8月~10月(3.62[95%CI 3.4~3.8])よりも高かった(図)。

それぞれの期間における週ごとに調整された罹患率(0-9歳児におけるSARS-CoV-2新症例/100,000人)。
点を結ぶ線は線形回帰曲線。
週あたりに調整された罹患率の最高値と最低値の比は、2020年8月~10月の3.62(95%CI, 3.4~3.8)に比べ、2020年12月~2021年2月の6.75(95%CI, 6.3~7.2)の方が高かった。

■ 同様に、この2つの期間の差は、ポアソン回帰分析の結果、統計的に有意だった(P < 0.001)。

■ 接触者追跡を分析した結果、2020年2月から11月に、追跡された二次症例の7.5%(156 521人中11 770人)が0歳から9歳の子どもに関連していたことが判明した。

■ この率は、2020年12月から2021年4月に15.7%(313,871人中49,257人)へと有意に増加した(率比[RR]2.24;95%CI 2.20~2.29;P<0.001)

■ 2020年8月から10月に、SARS-CoV-2と診断された0~9歳の26 689人のうち、261件の入院があった(0.98%)のに対し,12月から2021年2月に新たに発症した72796人のうち、379件の入院があった(0.52%)。

入院率は後者の期間で有意に低かった(RR, 0.53; 95% CI 0.46-0.63; P < 0.001)

■ 入院総数のうち、好ましくない転帰(重篤な状態および死亡)となった入院患者の割合は、2つの期間で差はなかった(前期6.5% [17 of 261] vs 後期 6.9% [26 of 379]; RR 0.99; 95% CI 0.96- 1.04)。

 

考察

■ これらの結果は、イスラエルでB.1.1.7亜型が流通していた時期に、小児でSARS-CoV-2がより効果的かつ急速に広がったことを示している。

■ イスラエルでB.1.1.7が流行していた時期に、0~9歳の小児から他の接触者への感染率が2倍になった。

■ しかし、小児の入院率は低下していた。

■ この結果は、B.1.1.7株の伝染力が強くなるものの、必ずしも重症化しないことを報告した成人の研究からも支持されている。

■ 2020年12月から2021年2月に小児で広まったB.1.1.7亜型は、GH亜型やGR亜型が広まった時期よりも有意に高い値を維持していた。

■ 2020年12月から2021年2月に、大人が集団でワクチンを接種することで、小児への感染が間接的に緩和される効果が期待されていたにもかかわらず、より高い感染率が観察された。

■ これらの結果は、この変種の感染率が小児で高いことを示しており、COVID-19ワクチンを小児にも接種できるようにすることの重要性を強調している。

■ ロックダウンや学校閉鎖などの非薬理学的措置は、どちらの期間にも用いられていたため、感染率の違いを説明することはできなかった。

■ これらの知見は、さまざまな地域の保健当局がこの発生を予測し、学校と家庭の両方で小児の感染拡大を抑えるための対策を実施すべきであることを示唆している。

■ 本研究の主な限界は、その観察的デザインにある。

■ 今回の研究では、検体の特定において塩基配列を決定していないため、(B.1.1.7株以外の)他の要因が今回の結果に影響を与えている可能性がある。

 

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現状では、学校の再開に関してどちらが正しいと一律に決めることは困難と思われる。

■ ざっくり考えると、(本当は今知りたいのはデルタ株ですが)アルファ株は子どもでもより拡大しやすく、しかし一方で重篤化する率がふえたわけではないとまとめられます。

■ しかし、感染拡大をすれば、重篤化率がひくくとも、重篤化する数はふえます。

 

■ この報告はアルファ株ですが、現状はデルタ株の拡大です。生活をどこまで緩和するかは大きなテーマです。

■ しかし、このようなどちらが正しいと決められない問題に関しては、その状況に応じて変化させていく、適宜対応するしかないのではと思われます。

 

■ 個人的には、メンタルヘルスや学業への影響も考えると、ある程度の学校・園の再開は考慮したほうがよいのでは…という考えです。

■ そのうえで、感染が拡大した地域や園・学校では一時的な閉鎖を考慮する…しかないのではないかと思います。

■ とくに学校閉鎖に関しては、家庭の収入の多寡により影響が差が出てくる、つまり社会的な差別につながる可能性も指摘されていますから。

■ しかし、新型コロナは子どもから大人への感染もありますし、一律に決めることも困難な問題でもあります。

■ この研究の著者は、ワクチンに関し、子どもに関しても接種をすすめていくほうが良いのではとされています。

■ この点に関してもさらに検討しながら、成人のワクチンをすすめていくことを優先するという方針自体は、くずすことなく進めていくしかないように思います。

 

今日のまとめ!

 ✅ デルタ株は子どもでも従来株よりも拡大しやすい。しかし一方で重篤化する率がふえるわけではない。

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