以下、論文紹介と解説です。
Ong SWX, et al. Clinical and virological features of SARS-CoV-2 variants of concern: a retrospective cohort study comparing B.1.1.7 (Alpha), B.1.315 (Beta), and B.1.617.2 (Delta). Clinical Infectious Diseases 2021.
シンガポールにおいて、2020年1月から4月に入院した患者と2021年1月1日から5月22日まで(デルタ株優位)のデータを比較し、VOC(Variant of Concern; 懸念される変異株)の重症化率を比較した。
背景
■ SARS-CoV-2のVOC(variant of concern)が病気の重症度に与える影響は不明である。
■ 本研究では、2020年初頭にB.1.1.7、B.1.351、B.1.617.2に感染した患者と、野生型株に感染した患者の転帰を比較したレトロスペクティブな研究を行った。
B.1.351(ベータ)
B.1.617.2(デルタ)
方法
■ 保健省から2021年1月1日から5月22日までの全国サーベイランスデータを入手し、VOCに関連した転帰を検討した。
■ そして、2020年12月20日から2021年5月12日に当センターに入院したVOC感染症患者全員の詳細な患者レベルのデータを分析した。
■ 臨床転帰は、2020年1月~4月に入院した患者846人と比較した。
結果
■ 調査期間中のシンガポールの患者829人が、これら3種類のVOCに感染していた。
■ 年齢と性別により調整後、B.1.617.2は、酸素必要量、ICU入室、死亡の率が高かった(調整オッズ比(aOR)4.90[95%CI 1.43-30.78])。
■ これらの患者のうち157人が当センターに入院した。
■ 年齢、性別、併存疾患、ワクチン接種により調整後、B.1.617.2による肺炎の調整オッズ比(aOR)は、野生型と比較して1.88[95%CI 0.95-3.76]だった。
論文から引用。
論文から引用。
Table2の一部を翻訳。
■ これらの差は、B.1.1.7とB.1.351では見られなかった。
■ ワクチン接種の有無は重症度の低下と関連していた。
論文から引用。ワクチンの有効性は85%。
■ B.1.617.2はPCRのCt値が有意に低く、Ct値≦30の期間が長かった(期間中央値はB.1.617.2で18日、野生型で13日)。
結論
■ B.1.617.2では重症度が上昇するサインが見受けられた。
■ B.1.617.2はCt値が低く、ウイルスの排出期間が長いことから、感染性が高まるメカニズムである可能性がある。
■ これらの知見は、予防接種の迅速な実施を促すものである。
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デルタ株は、他のVOCに比べ、重症化率が高くウイルス排出期間も長い。しかし、ワクチンは重症化の予防に効果がある。
■ アルファ株・ベータ株に比較して、デルタ株の悪化率が高く、ウイルス排出期間がながいという結果です。
■ しかし、ワクチンの有効性は明らかと言えます。
■ 後ろ向き研究ですので、バイアスがある可能性はありますが、翻訳した表からも読み取れるようにVOCの段階では治療プロトコルが改善されて全体的な重症化が減っている様に見えます(野生株→アルファ・ベータ)。
■ それでも、デルタ株の悪化率の上昇はとどめにくいといえるでしょう。
■ シンガポールは2021年1月にワクチン接種プログラムが開始され、この研究期間終了時には26%となっていたようです。
■ いまでは、世界でももっとも接種率がたかい地域となり、現在は80%を超えています。
■ たしかに、最近は感染者数が増えていますので、それだけデルタ株の感染性が高いといえますが、死亡数はふえていません。
■ やはりワクチン接種の効果はあると考えられます。
今日のまとめ!
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