以下、論文紹介と解説です。

Bahl A, et al. Vaccination reduces need for emergency care in breakthrough COVID-19 infections: A multicenter cohort study. The Lancet Regional Health – Americas.

ミシガン州の 8病院で救急医療部に受診し入院を必要とした 新型コロナ 感染症の成人患者について、ワクチン未接種(unvaccinated; UV)、不完全ワクチン接種(partially vaccinated; PV)、完全ワクチン接種(fully vaccinated; FV)を比較した。

背景

■ 最近、SARS-CoV-2ワクチンの感染予防効果が明らかになってきたが、特にウイルスの変異株が多い地域におけるブレイクスルー感染時の救急治療や入院の必要性に対するワクチンの影響は不明である。

■ そこで、COVID-19のブレイクスルー感染において、ワクチン接種が病院受診を減少させるかどうかを明らかにすることを目的とし検討した。

 

方法

■ この観察的コホート分析では、ミシガン州の 8病院で救急医療(emergency care; EC)/入院を必要とした SARS-CoV-2 感染症の成人患者について、ワクチン未接種(unvaccinated; UV)、不完全ワクチン接種(partially vaccinated; PV)、完全ワクチン接種(fully vaccinated; FV)を比較した。

管理人注
UVは、SARS-CoV-2検査陽性で、SARS-CoV-2に対する予防接種の記録がないか、症状発生後に1回目のワクチン接種を受けた者と定義。
PVは、SARS-CoV-2検査が陽性で、mRNAワクチン(Pfizer、Moderna)のいずれかを1回接種後、もしくはmRNAワクチン(Pfizer、Moderna)のいずれかを2回目に接種してから14日以内、あるいはウイルスベクターワクチン(Johnson & Johnson)を1回接種してから14日以内に症状が現れた人と定義。
FV対象者は、SARS-CoV-2検査が陽性であり、発症が、どちらかのmRNAワクチンの2回目の投与から14日以上経過しているか、ウイルスベクターワクチン(Johnson & Johnson)の1回目の投与から14日以上経過している場合と定義。

■ 人口統計学的変数と臨床的変数は電子カルテから入手した。

■ ワクチン接種のデータは,Michigan Care Improvement RegistryとCenters for Disease Control vaccine trackerから入手した。

■ 主要評価項目は、COVID-19 と診断された患者の救急医療・入院の発生率とした。

■ 副次的評価項目は、重度疾患複合転帰(ICU、人工呼吸、院内死亡)とした。

 

結果

■ 2020年12月15日から2021年4月30日に、11,834件の救急外来(EC)への受診が含まれていた(UV 10,880件(91.9%)PV 825件(7%)、FV129件(1.1%))。

■ 平均年齢は53.0±18.2歳であり、52.8%が女性だった。

■ ミシガン州のSARS-CoV-2ワクチン接種集団を考慮し、COVID-19に関連するED受診/入院率は、負の二項分布でFVとUVでは96%低かった(乗算効果 0.04; 95%CI 0.03~0.06; p<0.001)

COVID-19によるEC受診率のピークは、UV、PV、FV群でそれぞれ10万人あたり22.61、12.88、1.29回だった。

論文から引用。上から、ワクチン未接種、ワクチン不完全接種、ワクチン完全接種。

Figure 2

■ 傾向スコアマッチングによる重み付け分析では、FVはUVに比べて併存疾患のリスクが低かったが、統計的には有意ではなかった(HR 0.84; 95%CI 0.52~1.38)。

 

解釈

■ COVID-19が原因で緊急治療/入院が必要になることは、完全にワクチン接種を受けた患者では極めて稀なイベントである。

■ ワクチン接種が地域的に増加するにつれ、完全にワクチンを接種した人のEC受診は低く抑えられており、ワクチンを接種していない人よりもはるかに少ない頻度となる。

■ 病院での治療が必要な場合、重要な意味のある合併症を持つ高齢者は、ワクチン接種の有無にかかわらず、重篤な転帰のリスクが高くなる。

 

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ワクチン接種は、救急外来の受診や入院率を大幅に低下させる。一方で、高齢で併存疾患がある場合は、その効果が下がる。

■ まず事前の注意点は、この研究がおこなわれたミシガン州において、研究期間中に優位だった株はアルファ株です。

■ そのうえで、完全にワクチンを接種した群(2回接種群が中心)では,死亡8件、気管内挿管6件あり、それらはすべて65歳以上の患者で発生しており若年者では発生しませんでした。

■ そしてワクチン未接種群では、21歳の方が死亡し、19歳の方が人工呼吸を必要としました。

■ さらに、年齢が高くなるほど、慢性疾患がワクチン接種を受けても重大な結果に結びつく要因となったということになります。

■ 今後は、ブースター接種が注目されてくるでしょうけれども、現状を考えると、個人的には『ワクチンの効果があるうちに接種をしっかり行っていって、感染の山を小さくする』ことを目標にして、徐々に感染の大波を小さくしていって軟着陸することを目指すしかないだろうと思っています。

 

今日のまとめ!

 ✅ ワクチンの効果は明らかであるが、併存疾患がある場合はワクチン接種後でも注意を要すると言える。

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