以下、論文紹介と解説です。

Techasatian L, Kiatchoosakun P. Effects of an emollient application on newborn skin from birth for prevention of atopic dermatitis: a randomized controlled study in Thai neonates. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology; n/a.

熱帯地域であるタイにおいて、生後3週間以内からの新生児154人を5種類から選択した保湿剤を定期塗布する群と対照群にランダム化し、生後6ヶ月までのアトピー性皮膚炎の累積発症率を比較した。

背景

■ ハイリスクの新生児が乳児期にエモリエント剤を日常的に使用して皮膚バリアを強化することで、アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis; AD)を予防できる可能性がある。

■ しかし、熱帯気候の国ではこのテーマに関する研究は行われていない。

■ 新生児のアトピー性皮膚炎予防のためのエモリエント剤の使用は、気候の影響を受ける可能性があり、また有害な皮膚炎が発生する可能性もある。

 

目的

■ 熱帯気候の国において、乳児期にエモリエント剤を使用することでハイリスク新生児のADを予防できるという仮説を検証し、この集団で起こりうるその他の有害な皮疹を評価する。

 

方法

■ 本研究は、3次医療機関で6ヵ月間行われたランダム化比較試験である。

■ 対象となる新生児は、エモリエント剤とスキンケアのアドバイスを受ける群(エモリエント群)と、スキンケアのアドバイスのみを受ける群(対照群)にランダム化された。

管理人注
エモリエント群は、以下の5種類のエモリエント剤から選択可能だった。
そして、期間中に変更も可能とされている。
(A)Ezerra®ローション(HOE Pharmaceuticals Sdn.Bhd., Selangor, Malaysia)
(B)Eucerin® Omega Plus Extra Soothing(Beiersdorf Co., Ltd., Bangkok, Thailand)
(C)Eucerin® Omega Soothingローション(Beiersdorf Co, Ltd., Bangkok, Thailand)
(D)フィジオジェル® A.I.リストアリングリピッドバーム(Stiefel Co., Ltd., Bangkok, Thailand)
(E)LyL® ハイドレーティングモイスチャライザー(Cosmaprof Co., Ltd., Bangkok, Thailand)

■ 介入は生後3週間以内に開始された。

 

結果

エモリエント剤使用群では、6ヵ月後のADの累積発生率が有意に低下した(相対リスク; 0.39; 95%CI 0.24-0.64;P<0.001)

管理人注
6ヵ月後のAD累積発生率は、エモリエント群で有意に減少(対照群54.17% vs. エモリエント群21.62%)。

■ エモリエント剤使用群は、対照群と比較して、ADの発症開始時期が遅く、ADの重症度も低かった(P < 0.001)。

エモリエント剤塗布のアドヒアランスに関し、中程度のアドヒアランスよりも低いアドヒアランスのほうが、AD患者数が少ないことと関連していた(P = 0.008)

■ 汗疹などのエモリエント剤に関連する可能性のある皮疹もしくは膿痂疹などの皮膚感染が疑われる症状は、エモリエント剤群でより多く見られた。

■ 受動喫煙への曝露は,妊娠中や児の出生後のいずれにおいても,非喫煙への曝露に比べてADの発症に有意な差を示した(P < 0.001)。

 

結論

■ 本研究は、熱帯気候において、ハイリスク新生児の皮膚にエモリエント剤を「毎日」ではなく「必要に応じて」(環境要因、皮膚の乾燥度に応じて)塗布することで、ADの予防に大きな効果が得られることを示唆している。

 

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熱帯地域であるタイでは、保湿剤の定期塗布によりアトピー性皮膚炎の発症リスクを有意に低下させた。しかし、『適宜』のほうが有効だったという結果でもあった。

■ BEEP試験やPreventADALL試験などの結果から、保湿剤の定期塗布がアトピー性皮膚炎の発症予防につながらない、むしろ膿痂疹などのリスクを増やすかもしれないという報告があります。

■ 個人的には、モイスチャライザー(保湿成分が含まれた保湿剤)を全身に塗布することで、皮膚バリア機能が低い児のアトピー性皮膚炎の発症を予防することが(全員ではないにせよ)できるのではないかと考えています。

■ が、その『条件』を今後検討していく必要性があるのだろうと思います。

■ 一方で、気候の影響は大きいことも確かで、皮膚バリア機能の低さにつながるフィラグリン遺伝子異常があっても、石垣島ではアトピー性皮膚炎の発症リスクにつながらないという報告もあります。

■ そして、この熱帯であるタイでおこなわれた研究では、保湿剤の塗布はアトピー性皮膚炎の発症を有意にさげるものの、『毎日はいらないかも』という結果になっています。

■ 興味深いのは、『介入する保湿剤を適宜変更できる』という点です。気候に応じ変えていくというのは理にかなっています。

■ ともあれ、保湿剤によるアトピー性皮膚炎の発症予防に関しては、条件をさがす必要があるのでは…ということにはかわりありません。

■ さらに今後でてくるであろう、CASCADE試験(Trials 2020; 21:243.)、やPEBBLESS試験(BMJ open 2019; 9:e024594.)の結果もまちたいところです。

 

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今日のまとめ!

 ✅ 熱帯地域であるタイからの報告では、保湿剤の定期塗布によりアトピー性皮膚炎の発症リスクを有意に低下させた。

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