以下、論文紹介と解説です。

Orenstein WA, Garon JR. Hardly harmless: The dangerous tradition of'pox parties'. Infectious Diseases in Children 2016; 29:8.

水痘のリスクと、帯状疱疹、ワクチンの効果を述べた総論。

水痘パーティーとは?

■ 水疱瘡(通称:水ぼうそう)は、以前は子どもにとって無害な通過儀礼の一つと考えられていた。

■ 有効なワクチンが開発される以前、「水ぼうそうパーティー」を開く親もいた。

■ 子どもが幼いうちに水疱瘡にかかることで、思春期や大人になってから水疱瘡にかかった場合、より深刻な病気から子供を守ることができると考えたのだ。

■ そして最近では、無害だと思われる病気にわざわざ子供をさらす方が、ワクチンを接種するよりも安全で効果的だという考えから、反ワクチン活動家などが中心となり、この習慣が復活している。

 

水痘(水ぼうそう)のリスク

■ 水疱瘡は、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)によって引き起こされる、感染力の強い病気である。

■ 水痘ウイルスは、咳やくしゃみで空気中に拡散したり、水疱に付着したウイルス粒子を触ったり吸い込んだりすることで感染する。

■ VZVは、この病気にかかったことがない人やワクチンを受けたことがない人に感染する可能性がある。

■ この病気は、高熱、倦怠感、頭痛、食欲不振に始まり、5~10日かけて進行し、顔、胸、背中から発疹が体全体に広がっていく。

■ 発疹はかゆみを伴い、液体を含んだ水疱となり、約1週間かけてかさぶたへと変化する。

■ 水疱瘡は一般的に子どもの比較的軽い病気と考えられているが、年齢に関係なく重篤な合併症を引き起こす可能性がある。

■ 1995年に水痘ワクチンが認可されるまでは、水痘は非常に一般的な病気であり、米国では毎年400万人の患者がいると推定されていた。

 

水痘は重篤化する場合がある

■ この期間中に、約10,600人が入院し、年間100~150人が水疱瘡で死亡していた。

■ 重篤な合併症として、肺炎、脱水症状、出血性疾患、脳炎などがある。

■ また、水疱が感染すると、骨、関節、血液への感染症やA群溶血性レンサ球菌の感染症が起こり、死に至ることもある。

■ 合併症の危険性があるのは、乳幼児、妊婦、HIV/AIDS、癌、移植、免疫抑制剤を服用している人など、免疫システムが弱っている人である。

 

水痘は、のちのち帯状疱疹をおこすことがある

■ VZVによって引き起こされる病気は水疱瘡だけではない。

水疱瘡にかかったことのある人の中にウイルスが潜伏していて、何年も経ってから再び現れ、帯状疱疹を引き起こすことがある

■ 帯状疱疹は、痛みを伴う発疹であり、高齢者や免疫力が低下した人に多く発症し、長期にわたる合併症を引き起こすことがある。

■ これらの合併症には、帯状疱疹後神経痛、視力低下、神経学的問題、皮膚の感染、脳炎、死が含まれる。

■ VZVへの最初の感染が乳幼児期に起こった場合、後年になってから帯状疱疹にかかるリスクが高まる。

 

水痘ワクチンは有効

■ 水疱瘡のワクチンである水痘ワクチンは非常に有効である。

水痘ワクチンの定期2回接種は、水痘の予防に98%、重症型の水痘の予防にはほぼ100%の効果がある。

■ 他の生ワクチンと同様に、水痘ワクチンは長期間にわたって免疫を維持する。

■ 研究によると、予防効果はワクチン接種後8~10年、あるいはそれ以上持続する。

■ ワクチンを接種した人がまれにこの病気に感染したとしても、症状は通常、持続時間が短く、水疱の数も少なく、発熱もほとんどなく、軽度である。

■ 実際、水痘ワクチンは、後年の帯状疱疹のリスクを低減することができる。

■ 全体的に見て、水痘ワクチンの利点はそのリスクを大きく上回っている。

 

意図的に水痘に子どもをさらすことの不利益はすくなくない

■ 特に子どもの病気は比較的害の少ないと思われがちですが、あらゆる天然の病気にも重篤な合併症のリスクが伴う。

■ 持続性と有効性の高い水痘ワクチンが認可される前は、水痘のために世界中で毎年数万人の入院と数百人の死亡が発生していた。

■ 免疫学の進歩によりワクチンが開発されたことで、極めて一般的な病気がほぼ完全に予防できるようになった。

■ 親は子供のために最善の行動をとることを心がけているだろう。

■ ワクチンを接種することは、病気から個人を守るだけでなく、ワクチンを接種していない人や、年齢、病気、その他の禁忌によりワクチンを接種できない人を守る貴重な手段となる。

■ 意図的に子どもを病気にさらすことは、子どもや周囲の人に重篤な合併症や死をもたらすリスクを負うことになる。

■ このようなリスクを冒す価値はないだろう。

 

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水痘の合併症は無視できない。ワクチンにより子どもたちの水痘が減っている一方で、成人の帯状疱疹が増えている。

■ 一般的に、水痘の合併症は麻しんほどには多くはありませんが、合併症はすくなからずあります。

■ そして麻しんでSSPEがあるように、水痘も帯状疱疹という大きくなった『あとからのリスク』を負い続けなければならなくなります。

■ そして水痘の予防接種が難しい方がいらっしゃいます。

■ たとえば、妊婦さんであったりとか、免疫抑制薬を使用していたりする方々です。

■ 妊婦さんで水痘に罹患すると、子どもに悪影響があることがあり、しかも生ワクチンである水痘ワクチンは妊娠中は接種できないのです。

■ そのような方々を守るという視点も重要です。

 

■ そして最近問題となっているのは、水痘の流行が減ってきたことから、ナチュラルブースター効果(周囲で感染症が流行することで抗体がさらに上昇する)が減少し、成人の帯状疱疹が増えてきていることです。

■ いってみれば、予防接種をしていなかった方の体を犠牲にして、成人の抗体にブースター効果をもたらし、帯状疱疹を防いでいたのです。

■ そもそもが、帯状疱疹は50歳以上、特に70歳代で発症率が高くなり、80歳までに3人に1人が経験するという報告もあります( Cohen JI. Clinical practice: Herpes zoster. N Engl J Med 2013; 369:255-63.)

■ 水痘はこどもの疾患だと軽く見ていると、実は水痘の後遺症に苦しむのは成人の可能性があるのですね。

■ さらにいえば、お年寄りだけでなく、20~49歳の帯状疱疹罹患率が、2014年の定期接種後に大きく上昇してきていることも報告されています(Toyama N, Shiraki K. Universal varicella vaccination increased the incidence of herpes zoster in the child-rearing generation as its short-term effect. J Dermatol Sci 2018; 92:89-96.)

 

■ しかし、当然のことながら、成人の帯状疱疹をへらすために子どもたちが犠牲になる必要はないでしょう。

■ そして、50歳以上の成人に対して、水痘帯状疱疹ワクチンを追加接種することで帯状疱疹のリスクを減らすことが推奨されるようになりました。

 

■ 水痘に罹患することは、ワクチン接種よりはるかに大きなリスクを子どもたちに負わせることになります。

■ そしてナチュラルブースター効果が減ってきている以上、成人への追加接種を考慮し、成人も犠牲にならないようにしていきたいものです。

 

今日のまとめ!

 ✅ 『水ぼうそうパーティー』は割にあわないもので、ワクチンで社会全体を守るほうが理にかなっているといえる。

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