以下、論文紹介と解説です。

Zhong Y, Samuel M, van Bever H, Tham EH. Emollients in infancy to prevent atopic dermatitis: A systematic review and meta-analysis. Allergy; n/a.

アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの予防のために乳児期の早期(6週間以内)に保湿剤を定期塗布開始する10研究に対し、メタアナリシスを実施した。

背景

■ アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis; AD)や食物アレルギー(food allergy; FA)の予防戦略として、予防的にエモリエント塗布を評価した研究がいくつかある。

■ そこで、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの予防のために、乳児期の最初の6週間に開始する予防的エモリエント塗布の有効性と安全性に関するエビデンスをまとめることを目的とした。

 

方法

■ MEDLINE、Embase、CINAHL、BIOSIS、Cochrane Libraryデータベースを用いて、2000年1月から2020年7月に発表された、生後6週間以内に開始された予防的エモリエント塗布に関し、生後24か月以内のAD発症に対する効果を、無治療と比較して評価したランダム化対照試験を系統的に検索した。

■ バイアスリスクとエビデンスの確実性は、それぞれCochrane CollaborationのツールとGRADEプロセスを用いて評価した。

 

結果

■ 同定された1486件の論文のうち、10研究が包含基準を満たしていた。

乳児にエモリエントを塗布しても、対照群に比べてADの発症を有意に抑えることはできなかった(リスク比(RR)0.84; 95%信頼区間(CI)0.64~1.10)

■ しかし、ハイリスク群(8試験)では、予防的エモリエントの有意な効果(RR 0.75; 95%CI 0.62~1.11)が認められた

■ また、エモリエントをAD評価時点まで継続して使用した研究(6試験)では、有意な有益性(RR 0.59; 95%CI 0.43~0.81)が認められたが、AD評価前に治療を中止した場合は認められなかった。

■ また、FAに対する予防効果は認められなかった。

(A) アトピー性皮膚炎の予防に対するエモリエント塗布の効果(ITT解析のベストケース・シナリオに基づく)-全集団
(B) アトピー性皮膚炎の予防に対するエモリエント塗布の効果(ITT解析によるベストケース・シナリオに基づく)-ハイリスク集団のみ
(C)アトピー性皮膚炎予防のための予防的エモリエント塗布の効果(ITT解析のベストケースシナリオに基づく)-エモリエント剤の塗布期間と評価期間に基づく
(D) あらゆる食品(卵、牛乳、ピーナッツ)に対する食物に対する感作の予防に対する予防的エモリエント塗布の効果。

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結論

■ 乳幼児期に開始したエモリエントの予防的塗布は、特にハイリスク群に継続的に使用した場合、ADを予防する可能性がある。

■ エモリエント塗布はADを予防するのではなく、発症を遅らせる可能性があるという仮説を立てた。

 

グラフィカルアブストラクト。

乳児期の生後6週間から予防的にエモリエント剤を塗布すると、アトピー性皮膚炎ハイリスク群では、ADの発症が抑制されたが、一般集団では抑制されなかった。
また、エモリエント定期塗布をAD評価時点まで継続して使用した場合には有意な効果が認められたが、治療を中断した場合には効果が認められなかった。
乳児期の予防的エモリエント定期塗布は、ADの発症を予防するのではなく、ADの症状を遅らせる可能性がある。
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保湿剤の定期塗布によるアトピー性皮膚炎の発症予防には、条件があるように思われる。

■ 日常診療としては、保湿剤の定期塗布のアトピー性皮膚炎帽の有効性は感じるのですが、この方法には条件があるように感じています。

 

■ 個人的に考えているのは、『モイスチャライザーを、全身、しっかりした量を塗っているかどうか』といったものです。

■ そして、皮膚バリア機能に問題のない群では、バリア機能を補強するという保湿剤の定期塗布の有効性が低くなることも予想されます。

■ 最近、熱帯地域であるタイからは、保湿剤の定期塗布でアトピー性皮膚炎の発症予防にはつながるものの、『そこまで塗らなくても予防に有効に働いた』という結果もあり、気候なども考慮しなければならないのかもしれません。

■ また、食物アレルギーの発症予防に関しては、保湿剤だけでなく湿疹への早期介入が必要となるように思います。

 

■ 何度か言及していますが、個人的にはPEBBLES(NCT03409367)、CASCADE(NCT03409367)、PACI(UMIN-CTR-UMIN000028043)などの試験の結果を待つ必要があるといえます。

今日のまとめ!

 ✅ 乳児に保湿剤を定期塗布をしても、アトピー性皮膚炎の発症予防にならないという報告もあるが、ハイリスク群には有効などの結果が示されている。

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