以下、論文紹介と解説です。

Goldberg Y, et al. Waning Immunity after the BNT162b2 Vaccine in Israel. New England Journal of Medicine 2021.

2021年7月11日から31日までにイスラエルの国家データベースから収集した新型コロナ感染や重症者の発生率を、年齢層や考えられる交絡因子の調整を行って比較した。

背景

■ 2020年12月、イスラエルはBNT162b2ワクチンを接種することで、新型コロナウイルス(coronavirus disease 2019; Covid-19)に対する集団予防接種キャンペーンを開始し、その結果、流行が急激に抑制された。

■ その後、SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 )の感染者がほとんどいない時期があったが、2021年6月中旬にCovid-19の流行が再燃した。

論文から引用。2021年5月までに、イスラエルの感染者数は1日数十件に減少し、そのほとんどがワクチン未接種者や海外からの帰国者によるものだった。しかし,2021年6月に増加し始め、ワクチン接種者でも感染が報告が増えた。

■ 再燃の理由として考えられるのは、デルタ株(B.1.617.2)に対するワクチンの効果が低下したことである。

■ しかし、イスラエルにおけるデルタ株に対するワクチンの免疫力低下の程度は不明だった。

 

方法

■ 2021年6月以前に完全なワクチン接種(2回接種)を受けていたイスラエルの全住民を対象に、2021年7月11日から31日までにイスラエルの国家データベースから収集した感染確認や重症化に関するデータを使用した。

■ ポアソン回帰モデルを用いて、さまざまな期間にワクチンを接種した人の、SARS-CoV-2感染や重症Covid-19の発生率を、年齢層による層別と、考えられる交絡因子の調整を行って比較した。

 

結果

60歳以上の人では、7月11日から31日までにおける感染率は、最初に対象となった2021年1月に完全なワクチン接種を受けた人の方が、2か月後の3月に完全なワクチン接種を受けた人よりも高かった(率比 1.6;95%信頼区間[CI]1.3~2.0)

■ 40歳から59歳の人では、最初の対象者となった2月に完全にワクチンを接種した人の感染率は、2ヶ月後の4月と比較して1.7(95%CI 1.4~2.1)だった。

■ 16歳から39歳の人では、最初の対象者となった3月に完全にワクチンを接種した人と、2ヶ月後の5月に接種した人の感染率の比は1.6(95%CI、1.3~2.0)だった。

最初に対象となった月に完全にワクチンを接種した人と、3月に完全にワクチンを接種した人との重症化率比は、60歳以上で1.8(95%CI 1.1~2.9)、40~59歳では2.2(95%CI 0.6~7.7)だった

論文から引用。2回ワクチン接種を受けた時期と、感染・重症化リスク。

■ 一方、検討数が少ないため、16歳から39歳までの人の率は算出できなかった。

 

結論

■ 以上の結果から、SARS-CoV-2のデルタ株に対する免疫は、2 回目のワクチン接種から数ヵ月後に、全年齢層で低下したことが示された。

 

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ワクチンの意味がないわけではなく、時間が経過すると感染力が強いデルタ株に対しては警戒しなければならないことを考慮した対応が必要ということでしょう。

■ ファイザー社ワクチンの有効性が96%(2回目の接種後7日から2ヶ月未満)から、時間がたってくると84%(2回目の接種後4ヶ月から7ヶ月)に低下することが示されており、これは防御力が4分の1に低下すると考えることができるといえます(Thomas SJ, Moreira ED Jr, Kitchin N, et al. Safety and efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine through 6 months. N Engl J Med. DOI: 10.1056/NEJMoa2110345.)

■ ここ数ヶ月でワクチン接種率が大幅に上がったからこそ、現在の日本の感染者数の減少がもたらされているともいえますが、ここから次の方策を考える時期になっているとも考えられるでしょう。

■ 流行がデルタ株でなければ、まだこれまでの接種回数で乗り越えられたかもしれませんが、有効なワクチンをもってしてもなお、アウトブレイクをする可能性がある相手であるともいえます。

 

■ 近く、3回目の接種が今後はじまりますが、この効果に関しても今後、報告が増えることが期待されます(New England Journal of Medicine 2021; 385:1244-6.)。

■ 経済活動の再開も考慮しつつ、アウトブレイクをする前により感染拡大を防ぎながらワクチン接種という武器を活用していくことが望まれます。

 

今日のまとめ!

 ✅ mRNAワクチンの効果は、経時的に減弱する。効果は残存するものの、デルタ株に対してはアウトブレイクする可能性が高まってくる。

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