以下、論文紹介と解説です。

Witberg G, Barda N, Hoss S, Richter I, Wiessman M, Aviv Y, et al. Myocarditis after Covid-19 Vaccination in a Large Health Care Organization. New England Journal of Medicine 2021; 385:2132-9.

イスラエル最大の医療機関の医療データベースから、ファイザー社のmRNAワクチン接種後の心筋炎の発生を検討した。

背景

■ 心筋炎の発症と新型コロナウイルス(coronavirus disease 2019; Covid-19)に対するメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンの接種との関連性が示唆された報告があるが、ワクチン接種後の心筋炎の頻度や重症度については十分検討されていない。

 

方法

■ イスラエル最大の医療機関(health care organization; HCO)であるClalit Health Services社のデータベースを検索し、BNT162b2 mRNAワクチン(Pfizer-BioNTech社)を1回以上接種した患者の心筋炎の診断で検索した。

■ 心筋炎の診断は、Centers for Disease Control and Preventionが使用する症例定義を用いて、心臓専門医が判定した。

■ 患者の電子カルテから、症状、臨床経過、転帰を抽出した。

■ ワクチンの初回接種から42日後までの心筋炎の発生率について、Kaplan-Meier解析を行った。

 

結果

■ ワクチンを接種した250万人以上の16歳以上のHCO会員のうち、54例が心筋炎の基準を満たした。

少なくとも1回のワクチン接種を受けた、心筋炎の100,000人あたりの推定発症率は2.13例(95%信頼区間[CI]1.56~2.70)だった

心筋炎の発生率が最も高かったのは、16歳から29歳までの男性患者だった(10万人あたり10.69例; 95%CI 6.93~14.46)

■ 心筋炎の76%は軽症、22%は中等症とされ、1例は心原性ショックを伴っていた。

■ 心筋炎発症後、中央値で83日の経過観察を行った結果、1人が再入院、1人が退院後に原因不明で死亡した。

■ 入院時の心エコー検査で左心室機能障害が認められた14人のうち、10人は退院時にもその機能障害が残っていた。

■ これらの患者のうち、5人はその後の検査で心機能は正常だった。

 

結論

■ BNT162b2 mRNAワクチンを少なくとも1回接種したイスラエルの大規模医療機関の患者において、心筋炎の推定発生率は10万人あたり2.13例であり,16歳から29歳の男性患者が最も高かった.

■ 心筋炎のほとんどの症例は、重症度が軽症または中等症だった。

 

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mRNAワクチンにより心筋炎の発症リスクが上昇するが、その大多数は軽症。そして新型コロナへの感染そのものが心筋障害のリスクを高めることもわかっており、冷静に判断することが必要と思われる。

■ もちろん、mRNAワクチンによって心筋炎のリスクがあがり、そのリスクは若い男性に多いということです。

■ 日本からの検討では、ファイザー社ワクチンよりもモデルナ社ワクチンの方が、特に若い男性に心筋炎のリスクが高いとされています。

新型コロナワクチンQ&A(厚労省)より引用。

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■ 一方で、すでに多くの方が知っていることかもしれませんが、モデルナ社のワクチンの方がファイザー社のワクチンよりもアルファ株への長期効果に優れているようだと昨日(2021年12月1日)のNEJMに発表されています( Dickerman BA, Gerlovin H, Madenci AL, Kurgansky KE, Ferolito BR, Figueroa Muñiz MJ, et al. Comparative Effectiveness of BNT162b2 and mRNA-1273 Vaccines in U.S. Veterans. New England Journal of Medicine 2021.)ので、このあたりの選択は悩ましいですね…

論文より引用。

 

■ それはさておき、ワクチンのリスクを強く見積もり、新型コロナにかかることを選ぶのは得策とは言えないでしょう。

 

■ それは、『新型コロナの感染そのもの』でも、心筋炎や心膜炎を起こす可能性があるからです。

■ 新型コロナに感染した米国のプロスポーツ選手789人に対し(若い男性が多いと言えます)、心臓に炎症を起こす病気の頻度が調べられました。

■ すると、30名(3.8%)にスクリーニング検査で異常が認められ、最終的に、心筋炎や心膜炎が5人(0.6%)に見つかり、その後のプレーが制限されたと報告されています(Martinez MW, et al. JAMA Cardiol 2021; 6:745-52.)

■ 個人的には、接種後1-2週間程度、強い運動は避けるなどを考慮してもいいのではと考えていますが、このあたりはコンセンサスの醸成が必要なように思われます。

 

今日のまとめ!

 ✅ ファイザー社mRNAワクチンは心筋炎の発生を増やす可能性があり、若い男性に多い。

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