以下、論文紹介と解説です。

Paller AS, et al. No evidence of increased cancer incidence in children using topical tacrolimus for atopic dermatitis. Journal of the American Academy of Dermatology 2020; 83:375-81.

6週間以上タクロリムス外用薬を使用したアトピー性皮膚炎の小児7954人を10年間フォローアップし、悪性腫瘍の発生率を年齢・性でマッチした集団と比較した。

背景

■ カルシニューリン阻害剤外用薬の長期的な安全性についてはよくわかっていない。

■ APPLES(A Prospective Pediatric Longitudinal Evaluation to Assess the Long-Term Safety of Tacrolimus Ointment for the Treatment of Atopic Dermatitis; NCT00475605)では、アトピー性皮膚炎の小児集団におけるリンパ腫やその他の癌の発生率を調査した。

 

目的

■ 6週間以上タクロリムス外用薬を使用したアトピー性皮膚炎の小児において、10年間に発生した悪性腫瘍を定量化する。

 

方法

■ 癌の発生イベントの標準化罹患率を、全国の癌登録から得られた性、年齢、人種をマッチさせた対照データと比較して分析した。

 

結果

■ 9カ国314施設で適格患者7954人が登録された。

44,629人・年に、確認された6件のがんが発生した(標準化罹患率 1.01; 95%信頼区間 0.37-2.20)。

 

論文より引用。6例の詳細。

Alveolar rhabdomyosarcoma 肺胞横紋筋肉腫
Carcinoid tumor of the appendix 虫垂のカルチノイド腫瘍
Chronic myeloid leukemia 慢性骨髄性白血病
Malignant paraganglioma 悪性傍神経節腫
Spinal cord neoplasm 脊髄新生物
Spitzoid melanoma 扁平上皮型黒色腫

 

論文から引用。全がんの標準化罹患率。

■ リンパ腫は発生しなかった。

 

制限

■ 観察的前向きコホート研究デザインである。

 

結論

■ 癌の発生率は、マッチした背景から予想された通りだった。

管理人注
アトピー性皮膚炎治療に対し、タクロリムス軟膏を使用した小児のその後10年間のがん発生率は、年齢と性別をマッチさせた対照集団と同程度だった、と書かれています。

 

■ この知見は、アトピー性皮膚炎の小児においてタクロリムス外用薬が長期的ながんリスクを増加させるという仮説を支持しない。

 

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悪性腫瘍との関連を説明する必要性がなくなり、さらにエビデンスをもってお答えが可能になったといえる。

■ タクロリムス(プロトピック)軟膏で治療を受けた小児アトピー性皮膚炎患者約8000人ののコホートを対象とした前向き研究で、皮膚悪性腫瘍が1例観察され、リンパ腫は1例も観察されなかったという結果でした。

■ そして、年齢・性でマッチングした集団と比較して、差はないということになります。

 

■ 長期間コホートの問題点ではありますが、フォローアップ率が高くないことが気にはなります。

■ しかし悪性腫瘍の発生率のリスクがタクロリムス群で高いという仮説を満たすためには、観察できなかったがんイベントが対照の発生率の2.7倍以上の割合で発生しなければ有意にならないと試算され、やはり考えにくいと推論されています。

 

■ そして20年越しの添付文書改訂により『がんとの関連を説明する必要性』がなくなり、また、患者さんに尋ねられてもお答えが楽になった、節目となった年となったといえるでしょう。

 

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今日のまとめ!

 ✅ タクロリムス(プロトピック)軟膏で治療を受けた小児アトピー性皮膚炎患者約8000人ののコホートを対象とした10年間の前向き研究で、悪性腫瘍の発生率は、年齢・性でマッチングした集団と比較し差はなかった。

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