以下、論文紹介と解説です。
Tomsitz D, Biedermann T, Brockow K. Sublingual immunotherapy reduces reaction threshold in three patients with wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis. Allergy 2021; 76:3804-6.
小麦依存性運動誘発アナフィラキシーと診断され、グルテンに陽性反応を示した女性の患者3人に対し、グルテン舌下免疫療法を36ヶ月間実施し、閾値を比較した。
背景
■ 小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(Wheat-dependent exercise-induced anaphylaxis; WDEIA)は、小麦製品の摂取と、運動、アセチルサリチル酸、アルコールなどの補因子の組み合わせによって引き起こされる、まれなIgE介在性の全身性過敏症反応である。
■ 診断は、適切な患者の病歴、皮膚プリックテスト(SPT)、特異的IgE、好塩基球活性化試験(BAT)によって検出される、小麦やグルテンのタンパク質に対する感作と関連している。
■ グルテンと補因子を用いた経口負荷試験(oral challenge test; OCT)により診断を確認することで、患者の個別の閾値を決定することができる。
■ グルテンを大量に使用し負荷すると、補因子がなくても反応が誘発されることが示されている。
■ 治療の推奨事項は、グルテンを完全に避けることから、小麦の摂取を補因子から一時的に切り離すことまで多岐にわたっている。
■ グルテン除去は、反応閾値の低下と関連している。
■ そして現在、免疫療法(immunotherapy; IT)のような根治的な治療法は開発されていない。
■ そこで、舌下グルテンIT(sublingual gluten IT; SLIT)を3年間にわたり実施したWDEIA患者の3人について報告する。
方法
■ この臨床研究は,倫理委員会で承認された。
■ この探索的研究では、小麦製品と補因子の組み合わせに数回の反応歴があり、グルテンに陽性反応を示した女性の患者3人がWDEIAと診断され、さらにSLITに対するインフォームドコンセントを得た。
■ 小麦グルテンと小麦タンパク質加水分解物(Solpro 508)を用いた滴定SPTを実施した。
■ 小麦、グルテン、ω5グリアジン、α/β/γ-グリアジンに対する特異的IgE抗体価を測定した。
■ BATは、滴定濃度の小麦グルテンと小麦タンパク質加水分解物で実施した。
■ 各患者の個々の閾値は、反応が誘発されるまでグルテンと追加の補因子を用いてOCTにより決定された。
■ 免疫療法は、水を加えてペースト状にした1mgのグルテン粉(Kroner, Ibbenbeuren, Germany)を毎日舌下に滴下することで行った。
■ 2分後にグルテンを噛んで飲み込まれた。
■ すべての患者は、小麦の摂取4時間後まで補因子を避けるように助言されたが、正式な制限はなかった。
■ SPTを6、12、18、24、36ヶ月間投与後、特異的IgEとBATの測定を繰り返した。
論文より引用。図1。
■ OCTは12ヶ月、24ヶ月、36ヶ月後に繰り返し行われた(概要は図1参照)。
■ すべての患者はSLITを定期的に実施した。
結果
■ 患者1と2には副作用はなかったが,患者3では使用時の50%で舌下に刺激感があった。
■ SPTには、経時的な変化は見られなかった。
■ 患者2では,ω5グリアジン特異的IgE抗体価が16.6 kU/Lから10.6 kU/Lに,α/β/γ-グリアジンに対するIgE値が2.42 kU/Lから0.35 kU/Lに低下した。
■ 患者3のIgE抗体価は全く変化せず、患者1では全く検出されなかった。
■ BATは、患者1ではグルテンとSolpro 508による好塩基球活性化の継続的な低下を示し、患者2と3では波状の経過を示した。
■ すべての患者の閾値はSLIT中に上昇した。
■ 患者1では、グルテン70gから補因子を含むグルテン120gに、患者2では、グルテン20gから補因子を含むグルテン40gに、患者3では、グルテン5gから補因子を含むグルテン80gに増加した(表1)。
論文より引用。
■ 特筆すべきは、治療中に小麦製品を摂取し続けたにもかかわらず、アナフィラキシーを発症した患者はいなかったことである。
■ 治療開始から6ヵ月後と9ヵ月後に、患者2はパンケーキを食べた後に、患者3はスパゲッティを食べた後に蕁麻疹を発症したが、いずれもその後に軽い運動をしていた。
■ その後、それ以上の全身性反応は生じなかった。
考察・結論
■ この最初の研究結果は、グルテンを用いたSLITが、補因子の有無にかかわらず、グルテン耐性の反応閾値を増加させることを示している。
■ SPT、特異的IgE、BATは予測パラメータにならないようであり、OCTは閾値決定のゴールドスタンダードになる。
■ これらの結果は、食生活が小麦摂取の耐性に与える影響を評価したデンマークの研究であり、グルテン製品を完全に避けない食生活が反応閾値の上昇に関連すると報告されていることと一致している。
■ ただし、このパイロット研究で得られた結果を確認するには、より多くの集団を対象としたさらなる研究が必要である。
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運動をしないことがわかっていれば、小麦依存性運動誘発アナフィラキシーであっても摂取を積極的にしておいたほうが予後が改善する可能性がある。
■ 小麦依存性運動誘発アナフィラキシーの患者さんに対し、小麦摂取後の運動を控えるという指導のみだと、『小麦を食べない』という食生活になってしまう場合があります。
■ そうすると、小麦製品を摂取するのみで症状が誘発される方がでてくるため、個人的には『運動をしない場合はむしろ積極的に摂取するように』と指導しています。
■ すると、再度負荷試験をおこなうと陰性になる方が多いように思います。
■ その臨床経験を反映するような研究結果といえるかもしれません。
■ もちろん、このことをはっきりさせるためにはランダム化比較試験が必要になってくるでしょう。
今日のまとめ!
✅ 小麦依存性運動誘発アナフィラキシーに対する舌下免疫療法の効果が、少数例の前後比較試験で報告された。
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