以下、論文紹介と解説です。

Arrais M, et al. Helminth infections and allergic diseases: systematic review and meta-analysis of the global literature. J Allergy Clin Immunol 2021.PMID: 34968529

蠕虫感染症と喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー体質との関連を報告した観察研究 80研究(参加者99967人)を対象に、寄生虫感染とアレルギーの関連を検討した。

はじめに

■ アレルギー疾患の発症における蠕虫感染の役割については、多くの研究がなされている。

■ しかし、これまでの研究で得られた知見は一貫していない。

■ また、これらの研究に関する既存のシステマティックレビューは古いものである。

■ そこで、蠕虫感染とアレルギー疾患の発症や転帰との関連性に関する世界的な文献のシステマティックレビューを行った。

 

方法

■ Cochrane Library、MEDLINE、EMBASE、ISI Web of Science、PubMed、Global Index Medicus、Scielo、KoreaMed、Google Scholar、Lilacsで2020年1月までに発表された研究を検索した。

■ 蠕虫感染と喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー体質との関連を報告した小児や成人の観察的疫学研究(コホート研究,症例対照研究,横断研究)を対象とした。

■ ランダム効果メタアナリシスを行い、効果推定値をまとめた

 

結果

■ 80研究(参加者99967人)を得た。

■ メタアナリシスでは、蠕虫感染とアレルギー疾患に全体的な関連性は観察されなかった。

■ しかし、回虫(A. lumbricoides)感染は、小児の気管過敏のリスク増加と関連し(RR 1.41; 95%CI 1.17-1.70; I2=50, p for I2=0.09)、蠕虫感染した成人のアレルギー体質のリスク増加と関連していた(RR 1.37; 95%CI:1.18-1.61; ; I2=52, p for I2=0.02)というエビデンスがあった。

■ また、蠕虫感染とアレルギー疾患の臨床転帰との関連を扱った研究は見られなかった。

■ 基礎となるエビデンスの全体的な強さは低~中程度だった。

 

結論

■ 蠕虫感染症は、小児の気管過敏症や成人のアレルギー体質のリスクを高める可能性がある。

■ 優れたデザインの縦断的コホートは、慢性蠕虫感染症とアレルギー疾患の潜在的な因果関係を明らかにするのに役立つかもしれない。

 

寄生虫感染は、アレルギーを改善させるとは言えず、むしろ害に働く可能性もある。

■ マウスに対する研究ですが、卵白に感作させる前、もしくは後に寄生虫に感染させてIgEを産生させ、卵白に対するアレルギーを起こすかどうかをみた研究では、無効であったと報告されています(Jarrett E, Mackenzie S, Bennich H. Parasite-induced ‘nonspecific’IgE does not protect against allergic reactions. Nature 1980; 283:302-3.)。

■ そして、蠕虫感染症とアレルギーの関係に関する観察研究のシステマティックレビューは、2006年までに発表された30研究を対象としたシステマティックレビュー、2009年までに発表された21件の観察研究を対象としたシステマティックレビュー、2017年のシステマティックレビューなどに過ぎませんでした。

■ これらからは、むしろToxocara spp(回虫)感染と喘息のリスク増加に関連するという結果になっていました。

■ 今回のメタアナリシスからも、回虫への感染は気管過敏性の上昇(喘息に関連)、アレルギー体質のリスクをあげるのではないかと結論されています。

■ なお、妊娠中に母親の寄生虫を駆除すると、児のアレルギー疾患を発症させやすくするかどうかを確認したランダム化比較試験では、そのリスクを上昇させないという結果になっています。

■ 現状では、寄生虫に感染しているからと言って、アレルギー症状が軽くなるようなことはないようです。ただし、まだ検討は必要ですし、本来は介入研究を要するテーマです。

■ とはいえ…寄生虫を人為的に感染させるのは倫理的には許されないでしょうね…

 

なお、冒頭にあげた『感染症大全』はなかなかおもしろく、疥癬の項目なんて白眉ですので是非。

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今日のまとめ!

 ✅ 蠕虫感染は、成人のアレルギー体質のリスクを上げたり、子どもの気道過敏性を上げる可能性がある。

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