以下、論文紹介と解説です。

Nishimura T, Fukazawa M, Fukuoka K, Okasora T, Yamada S, Kyo S, et al. Early introduction of very small amounts of multiple foods to infants: A randomized trial. Allergology International 2022.

日本国内の14の小児科クリニックに受診したアトピー性皮膚炎の生後3-4ヶ月の乳児163人を、微量の6種類のアレルゲン食品(乾燥卵白、粉ミルク、小麦、大豆、そば、ピーナッツ)を摂取する群とプラセボ群にランダム化して12週間それぞれ摂取し、食物アレルギーの発症リスクを評価した。

背景

■ 複数の食品をごく少量ずつ同時に投与することで、複数の食物アレルギーを安全に予防できるかどうかを検討した。

 

方法

■ 日本国内の14のプライマリケア小児科クリニックからアトピー性皮膚炎の生後3-4ヶ月の乳児がこの無作為プラセボ対照試験に登録された。

■ 乳児には、卵、牛乳、小麦、大豆、そば、ピーナッツを含む混合アレルゲン食品粉末(MP)、またはプラセボ粉末(PP)が投与された。

管理人注
6種類のアレルゲン食品(乾燥卵白、粉ミルク、小麦、大豆、そば、ピーナッツ)を少量含むMPと3種類の腸内細菌製剤(ビオフェルミン®(Streptococcus faecalis, Bacillus subtilis)、ミヤBM®(Clostridium butyricum)、ラックB顆粒®(Bifidobacterium))が使用された。MP-1、MP-2、MP-3は、各アレルゲン食品をそれぞれ2.5 mg、7.5 mg、20 mg含有した。
プラセボ群は、PP-1、PP-2、PP-3は、腸内細菌製剤のみ(増量)だった。
試験開始前に湿疹治療を開始。
0週:主治医の監視のもと、MP-1/PP-1を児に投与し、30分間観察した。
その後2週間は自宅でMP-1/PP-1粉末を与えるように指示された。
2週:80%以上の試験粉末を摂取していれば試験を継続。
児にMP-2/PP-2粉末を投与し、主治医の監視下で30分間観察。
さらに2週間、家庭でMP-2/PP-2粉末を乳児に与えるよう保護者に指示。
4週:MP-3/PP-3粉末を投与し、主治医の監視下で30分間経過を観察。
 その後8週間、家庭でMP-3/PP-3粉末を乳児に与えるよう保護者に指示。

12週:保護者に離乳食の量を段階的に慎重に増やすよう指導し、離乳食の進め方に関するパンフレットを配布。

生後11-13 ヵ月:生後11-13か月に各クリニックに受診、臨床評価と2回目の血液検査。

■ 2週目、4週目と段階的にパウダーを増量し、12週目まで継続した。

■ パウダー介入後の食物アレルギーエピソードの発生を生後18ヶ月で評価した。

論文より引用。試験フローチャート。

Figure 2

■ 本試験は、University Hospital Medical Information Network Clinical Trials Registry(番号 UMIN000027837)に登録された。

 

結果

■ 計163名の参加者がMP群(n = 83)またはPP群(n = 80)のいずれかに無作為に割り付けられた。

■ 18ヵ月後までの食物アレルギーエピソードの発生率は、MP群とPP群で有意差があった(それぞれ7/83 vs 19/80;リスク比0.301[95%CI 0.116-0.784];P = 0.0066)。

論文から引用。
食物アレルギーの発症率。
(A) Intention-to-treat 解析 (B) per-protocol 解析。
左図はすべての食物アレルギー、中図は卵アレルギー、右図は卵以外のアレルギーのエピソードを示す。
MP:試験パウダー、PP、プラセボパウダー。

図3

管理人注
MP群で食物アレルギーを起こした食品は、卵5例、牛乳2例、ピーナッツと大豆が各1例。
PP群では、卵白13例、牛乳6例、小麦3例、ピーナッツ2例。
牛乳アレルギーを発症した乳児はすべて母乳育児だった。
ただし、入院を要するような重篤な症状を呈した症例はなかった。

■ MP群では卵アレルギーが減少した。

■ さらに、他の5つの食品による食物アレルギーのエピソードが有意に減少したが、個々の食品によるエピソードの減少は有意でなかった。

論文より引用。介入前後の卵白特異的IgE値。MP群とPP群における介入前後の卵白特異的IgE値の変化。MP群とPP群の介入後の卵特異的IgEの差について、Mann-Whitney U検定を用いてP値を算出した。MP、混合粉、PP、プラセボ粉。

 

結論

■ 乳幼児期に複数の食品の摂取量をごく少量ずつ徐々に増やしていくことで、卵アレルギーの発症を安全に抑えることができる。

管理人注

安全性に関して

MP群はPP群に比べ、MP-1/PP-1初回投与時の副作用発現率が有意に高かった(それぞれ10/83 [12%] vs 3/80 [3.75%], P = 0.046)。
ただし、主治医の監視下で顔や体の皮膚の軽い紅斑や直径数ミリの小さな膨疹程度だった。
また、自宅でも同様の症状が数回認められたが、それ以上の強い症状は認められなかった。
これらの症状は、家庭で数回繰り返し服用することにより消失した。

■ 他の食品も食物アレルギーを抑制する可能性があるが、決定的な結論には至らなかった。

 

クリニックの先生方が成し遂げた、実現可能性を示した素晴らしい研究と思います。

■ この研究では、生後3ヶ月~4ヶ月から卵、牛乳、小麦、大豆、そば、ピーナッツを含む粉末を摂取することで、すくなくとも卵アレルギーの発症予防につなげることができたという結果でした。

■ クリニックの先生方が中心になって実施された研究であり、すばらしい研究と感じました。

■ 英国で行われたEAT研究も、生後3ヶ月から開始した群と生後6ヶ月にはじめた群の比較でしたが、生後3ヶ月から離乳食を開始できた人数が少なく、十分な結果と言えませんでした。

■ その実行可能性に切り込んだ研究計画と思います。

■ PETIT試験では生後6ヶ月から9ヶ月までは加熱した卵パウダー(卵タンパク質25mg含有)を1日50mg、その後12ヶ月までは1日250mg経口摂取しています。

■ そして、EAT試験では、生後 5 ヵ月から 1 歳まで、各アレルゲン食品たんぱく質を週に 4g ずつ摂取させました。

■ この研究では,卵蛋白は 2.2~17.6 mg,牛乳は 0.3~2.4 mg,ピーナッツは 0.6~4.8 mg の量で 12 週間摂取となっていますので、より少なく期間も短いと論じられています。

■ この研究どおりにするべきかどうかは、まだ更に検討を要する可能性はありますが、実施可能性のある方向性とも感じます。

 

■ ここで想起されるのが『スプーンフルワン』という製品です。

■ スプーンフルワンは、16種類の食物(鶏卵、牛乳、小麦、ピーナッツ、くるみ、ピーカンナッツ、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、ゴマ、大豆、エビ、鱈、鮭、オーツ麦) のタンパク質30mgずつを含みます。

■ この製品に関しては、小児アレルギー学会から注意喚起が出されています。

乳幼児用のミックス離乳食(Spoonfulone スプーンフルワン®)に関する注意喚起

 

■ このスプーンフルワンの問題点は、食物アレルギーがある小児には使用できないと記載されているものの離乳食開始時期に16種類全てに対する食物アレルギーの有無を判定することは困難で、医師に相談するよう記載されていますが摂取の可否を医師が判断することは困難であると指摘されています。

■ そして、この研究では、試験パウダーを生後3~4ヶ月(生後99-132日)に開始しており、スプーンフルワンでは生後5~6ヶ月から始めるとしています。

■ この差を2ヶ月と思うかもしれませんが、されど2ヶ月であり、その間に食物アレルギーを発症している可能性もありますし、このスプーンフルワンの問題点は『十分な検討をするまえに』発売して医師に責任を投げてしまっていることにあります。

■ ですので、スプーンフルワンに関しては、さらに研究を要する方法です。

 

■ そして、この研究はある程度の根拠をもって実現可能性を示した研究としてすばらしいと感じました。

■ ただし、この方法を実施するためには製品の作成など、まだ考えなければならないハードルもいくつかあり、保護者の判断で始める内容ではまだないでしょう。

 

 

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