以下、論文紹介と解説です。

King B, et al. Two Phase 3 Trials of Baricitinib for Alopecia Areata. N Engl J Med. 2022 May 5;386(18):1687-1699. doi: 10.1056/NEJMoa2110343. Epub 2022 Mar 26. PMID: 35334197.

重症円形脱毛症の成人を対象としたランダム化プラセボ対照第3フェーズ試験(BRAVE-AA1試験・BRAVE-AA2試験)において、バリシチニブ4mg1日1回、バリシチニブ2mg1日1回、プラセボにランダム化し、36週間後の効果(SALTスコア20以下)を比較した。

背景

■ 円形脱毛症は、頭皮、眉毛、睫毛の急性脱毛を特徴とする自己免疫疾患で、その治療法は限られている。

■ バリシチニブは、ヤヌスキナーゼ1と2の経口選択的可逆的阻害剤であり、円形脱毛症の発症に関与するサイトカインシグナルを阻害する可能性がある。

 

方法

■ SALT(Severity of Alopecia Tool)スコア50以上(範囲:0[頭皮の脱毛なし]から100[頭皮の完全脱毛])の重症円形脱毛症の成人を対象とした2つのランダム化プラセボ対照第3相試験(BRAVE-AA1およびBRAVE-AA2)を実施した。

■ 患者は3:2:2の割合で、1日1回投与のバリシチニブ4mg、バリシチニブ2mg、プラセボにランダム化された。

■ 主要評価項目は、36週目のSALTスコアが20以下だった。

 

結果

■ BRAVE-AA1試験には654人、BRAVE-AA2試験には546人の患者が登録された。

■ 36週目のSALTスコアが20以下となった患者の推定率は、BRAVE-AA1ではバリシチニブ4mgで38.8%、バリシチニブ2mgで22.8%、プラセボで6.2%、BRAVE-AA2ではそれぞれ、35.9%, 19.4%, 3.3%だった。

■ BRAVE-AA1では、バリシチニブ4mgとプラセボの差は32.6%ポイント(95%信頼区間[CI]25.6~39.5)、バリシチニブ2mgとプラセボの差は16.6%ポイント(95%CI 9.5~23.8)だった(各用量のプラセボに対するP<0.001)。

■ BRAVE-AA2 では、対応する値は 32.6 パーセントポイント(95% CI, 25.6~39.6) と 16.1 パーセントポイント(95% CI, 9.1~23.2) だった(各用量対プラセボ P<0.001)。

■ バリシチニブの4 mg投与時のセカンダリアウトカムは、2 mg投与時とは異なり、概してバリシチニブがプラセボに対して有利だった。

■ 痤瘡、クレアチンキナーゼ値上昇、LDL・HDLコレステロール値の上昇は、プラセボと比較してバリシチニブでより一般的だった。

 

結論

■ 重症円形脱毛症患者を対象とした2つの第3相試験において、経口バリシチニブは、36週間後の発毛に関してプラセボより優れていた。

■ 円形脱毛症に対するバリシチニブの有効性と安全性を評価するために、より長期の試験が必要である。

■ (Funded by Eli Lilly under license from Incyte; BRAVE-AA1 and BRAVE-AA2 ClinicalTrials.gov numbers, NCT03570749.

JAK阻害薬が円形脱毛症に有効という結果でしたが、懸念材料もあります。

■ 円形脱毛症に対するJAK阻害薬の有効性が示されたことになります。

■ 円形脱毛症とアトピー性皮膚炎は相互に関連することはすでに知られています。

■ そのため、JAK阻害薬が円形脱毛症に有効かというテーマは、アレルギー専門医にとっても関心があります。

■ IL-4/IL-13阻害薬であるデュピルマブの有効性が一部報告されていることもあり、JAK阻害薬の有効性も十分想定されます。

■ただし、小児円形脱毛症に対する第一選択薬は、最近のシステマティックレビューでもステロイド外用薬であり、次いで接触免疫療法であることは現状でもかわっていないといえます(Barton VR, Toussi A, Awasthi S, Kiuru M. Treatment of pediatric alopecia areata: A systematic review. Journal of the American Academy of Dermatology 2021.)。

■ そして、JAK阻害薬はきわめて高価であり、そのわりにはバリシチニブ4mgを36週間で38.8%にすぎないともいえます。

■ さらに、現状ではトファシチニブ(商品名ゼルヤンツ)はFDAより注意喚起がされているという状況です。

 

■ ですので、長期的な効果・副作用を確認するための長期試験が現在行われているようです。

■ なお、小児アトピー性皮膚炎には、現状で内服JAK阻害薬としてバリシチニブは使用されておらず、リンヴォック(ウパダシチニブ)、サイバインコ(アブロシチニブ)が使用されています。

 

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