以下、論文紹介と解説です。

Owora AH, Li R, Tepper RS, Ramsey CD, Chan-Yeung M, Watson WTA, et al. Impact of time-varying confounders on the association between early-life allergy sensitization and the risk of current asthma: A post hoc analysis of a birth cohort. Allergy; n/a.

カナダ喘息一次予防研究(CAPPS)における喘息発症リスクに対する早期アレルゲン感作やアレルゲン回避の平均因果効果を推定するために、MSMアプローチによるポストホック解析を実施した。

イントロダクション

■ 早期(生後1歳まで)のアレルゲン感作と小児喘息リスクとの関係に関する先行文献の結果は様々である。

■ これは、子どもの成長とともに将来の喘息リスクに影響を与える可能性のあるアレルゲン感作および喘息治療への曝露の両方の変化を無視した統計的分析方法を使用していることが一因である。

■ 最近の疾患推移モデルでは、小児期のアレルゲン感作と現在の喘息の状態(および関連治療)の両方が時間的に変化し、フィードバックループ(フィードバックを繰り返すことで、結果が増幅されていくこと)の可能性が否定できないことが示されている。

■ このことは、幼少期のアレルゲン感作がどの程度、小児喘息発症と因果関係があるかを評価することに関連する分析的課題を強調している。

■ さらに、早期のアレルゲン回避が、現在の喘息が、思春期または成人期への移行を防ぐのか、単に遅らせるのかは不明である。

■ 先行研究で用いられてきた従来の離散時間モデルや縦断モデル(例:一般化推定方程式-GEE)とは異なり、限界構造モデル(Marginal Structural Models; MSM)を用いて時間変動の交絡を調整し、一貫した平均因果効果推定量を生み出すことが可能である。

■ 本研究では、遺伝的に喘息の素因を持つ乳児において、幼少期のアレルゲン感作は現在の喘息のリスク上昇と関連するが、このリスクはアレルゲン回避により減衰させることができると仮定した。

 

方法

■ カナダ喘息一次予防研究(Canadian Asthma Primary Prevention Study; CAPPS)におけるアレルゲン感作-喘息発症の動的な(変化する)状況のもと、喘息発症リスクに対する早期アレルゲン感作やアレルゲン回避の平均因果効果を推定するためにMSMアプローチによるポストホック解析を実施した。

■ 現在の喘息およびアレルゲン感作は、1歳、2歳、7歳、15歳の時点において、小児アレルギー専門医による臨床判断、そして皮膚プリックテスト結果に基づいた。

■ まとめるならば、MSMは、早期感作とその後の現在の喘息のリスクにある経路における時間変動する交絡因子(すなわち、ベースライン後のアレルゲン感作や喘息治療状態)の影響を取り除くために、治療(または曝露)の逆確率加重アプローチを用いて推定されている。

 

結果

■ 現在の喘息とアレルゲン感作の有病率は、CAPPS曝露の有無にかかわらず、追跡調査中に変化していた(図1、S1、S2)。

論文より引用。
CAPPSコホートの小児を15年間追跡調査し、現在の喘息およびアレルゲン感作を図示。
(A)研究全体、(B)介入群、(C)対照群、(D)乳児期(1年目)のアレルゲン感作および現在の喘息。

Details are in the caption following the image

■ 現在の喘息の有病率は、最初の2年間に吸入アレルゲンに感作された児と食物アレルゲンに感作された児に差はなかった。

■ しかし、7歳時および15歳時には、食物アレルゲンに感作された児(感作されていない児と比較して)の現在の喘息のオッズは6倍および4倍高かった。

■ しかし、7歳時と15歳時には、食物アレルゲンと吸入アレルゲンにそれぞれ感作された(感作されていない児に比較し)児では、現在の喘息のオッズが6倍と4倍になった(図S2)。

■ これらの結果は、アレルゲン感作の異なるプロファイル(種類と年齢による定義)が、学童期の喘息発症の傾向に異なる影響または修正を与える可能性があることを示唆するものである。

■ MSMモデルの結果(表1)は、現在の喘息のオッズが、幼少期のアレルゲン感作を持つ児(アレルゲン感作のない児と比較して)は高いことを示していた。

■ しかし、15歳時ではその差は認められなかった(aOR:2.32、95%CI:0.78、6.85)。

■ 一方、GEEモデルの結果は、この関連の強さを7歳時に49%過大評価し(aOR: 4.50; 95% CI: 2.53, 8.00)、15歳時の精度を誤って推定した(aOR: 2.03; 95% CI: 1.02, 4.04 )。

■ 全体として、現在の喘息のオッズは、CAPPSにランダム化された小児で低かった(aOR: 0.69; 95% CI: 0.51, 0.93)。

■ 女児は、男児よりも現在の喘息のオッズが28%低かった(aOR:0.72;95%CI:0.53、0.98)。

 

考察

■ この結果は、感作のパターンが一過性か持続性かにかかわらず、アレルゲン感作が学童期の喘息発症に向けた病態を誘発する可能性のある幼少期は、病因論的に重要な時期であることを示唆している。

■ 逆に、この時期のアレルゲン回避は、現在の喘息のリスクを減少させる可能性がある

■ これらの現在の喘息に対する競合リスクや防御効果に関するGEEとMSMの結果の不一致は、時間的に変化するアレルゲン感作および喘息関連治療への曝露による交絡が、先行研究で報告された無効な関連性の一部を説明する可能性を示唆している。

■ これは、動的リスク状況下で現在の喘息と疑わしいリスクおよび防御因子との関連を調べる際に時間変化する交絡因子について調整する必要性を明確にするものである。

■ この知見(すなわち、アレルゲンの感作-現在の喘息誘発期および介入可能な重要な病因的ウインドウとしての生後早期の時期)は、先進国および後進国の両方に一般化できるかもしれない。

■ しかし、これらのさまざまな集団における同様の分析の解釈は、環境因子による効果の修飾/修正の可能性を調べることを排除してはいけない。

■ ランダム化されたベースラインの暴露(例えば、アレルゲン感作)がない場合、MSMは、予防的介入のタイミングおよび戦略を知らせるために必要な小児喘息の原因メカニズムの解明に有望である。

 

アレルゲン回避を乳幼児期にしておくことは、やはり重要かもしれない。

■ 従来の統計モデルである一般化推定方程式ではなく、限界構造モデル(Marginal Structural Models; MSM)という方法がとられていますが、私はこのあたりの統計の知識が不十分であり統計的な理解は及んでいません。

■ しかし、結論としての乳幼児期のアレルゲン回避は、現在の喘息のリスクを減少させる可能性があるという点に、重要性があると思っています。

 

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