以下、論文紹介と解説です。
Cowger TL, Murray EJ, Clarke J, et al. Lifting Universal Masking in Schools — Covid-19 Incidence among Students and Staff. New England Journal of Medicine. 2022.
2022年2月、マサチューセッツ州において、全州ユニバーサルマスキング策を中止した学区と中止しなかった学区における新型コロナの流行の差分を推計した。
背景
■ 2022年2月、マサチューセッツ州は公立学校における全州ユニバーサルマスキング政策を取り消し、マサチューセッツ州の多くの学区はその後数週間のうちにマスク装着の要求を解除した。
■ そしてボストン地区では、ボストン地区と近隣のチェルシー地区の 2 学区だけが、2022 年 6 月までマスキング要件を継続した。
■ ユニバーサルマスキング義務の解除の時差は、ユニバーサルマスキング政策が学校での新型コロナ(coronavirus disease 2019; Covid-19)の発生率に及ぼす影響を検証する機会を提供するものだった。
方法
■ 時差的なマスキング政策実施の差分分析を用いて、2021-2022の学年度中にマスキング要件を解除したGreater Boston地域の学区における生徒と職員のCovid-19の発生率と、マスキング要件を維持した学区における発生率を比較した。
■ また、学区の特徴も比較した。
結果
■ 州全体のマスキング政策が取り消される前の Covid-19 の発生率の傾向は、学区間で同様だった。
■ 州全体のマスキングポリシーが取り消された後の15週間で、マスキング要件の解除は、生徒や職員1000人あたり44.9件の追加例(95%信頼区間 32.6~57.1)と関連しており、これは推定11,901件、その間の全地区における症例の29.4%に相当した。
論文より引用。ユニバーサルマスキングの解除による感染数の追加効果。
■ マスキング義務の延長を選択した地区は、マスキング義務の早期解除を選択した地区に比べ、校舎が古く、状態が悪い傾向があり、1教室当たりの生徒数が多い傾向があった。
■ また、これらの地区では、低所得の生徒、障害のある生徒、英語学習者の割合が高く、黒人やラテン系の生徒や職員の割合も高かった。
■ この結果は、ユニバーサルマスキングが、学校におけるCovid-19の発症と対面授業日数の損失を減らすための重要な戦略であることを裏付けている。
■ このように、ユニバーサルマスキングは、教育上の不平等を深める可能性を含む、学校における構造的人種差別の影響を緩和するために特に有用であると考えられる。
結論
■ Greater Boston地域の学区では、マスキングの要求解除は、州全体のマスキングポリシーが取り消された後の15週間で、生徒や職員1000人あたり44.9件のCovid-19の追加発症と関連していた。
これからの感染の波を低くするために、ユニバーサルマスキングを含めた、標準的な予防策を講じていく必要があるでしょう。
■ 学校におけるユニバーサルマスキングに対し、教育や社会的発達を阻害する可能性という視点からの批判もあるでしょう。
■ しかし、論文内で論じられていますが、現在までのところ、マスクが学習や発達に害を及ぼすという明確なエビデンスはありません(Centers for Disease Control and Prevention. Science brief: community use of masks to control the spread of SARS-CoV-2. December 6, 2021 (American Academy of Pediatrics, American Speech-Language-Hearing Association. Do masks delay speech and language development? )。
■ もしこのような影響があったとしても、欠席や人員不足、生徒やその家族の新型コロナのリスク、子どもが病気になったり自分が病気になったりした場合に仕事を休む可能性のある保護者の経済的困難など、ユニバーサル・マスキングのさまざまなメリットと合わせて考える必要があるとも考察されています。
■ そして、子どもたちの重症Covid-19、Long-Covidもリスクといえます。職員の欠勤は教育支援やサービスを必要とする生徒にとっても、特に大きな影響を与える可能性があると論じられていました。
■ わたしは、年齢に比して、一般外来、救急外来、そしてある程度重篤化された患者さんの診療を日常的におこなっているほうだと思います。
■ そのため、肌感覚としても、『これから新型コロナだけでなく、大きな感染症の波がくるだろうな』と感じています。
■ しかし、残念ながら新型コロナやインフルエンザの予防接種は十分に進んでいるとはいえず、おそらく次の波はおおくの人たちを飲み込んでいくだろうと、明るいとは言えない予想をしています。
■ オミクロン株の感染性はきわめて高く、標準的な感染予防策のみで流行を抑えることは困難でしょう。
■ それでも、津波がきたときに何も堤防がないよりは被害を少なくすることを、この研究は示しているように思います。
■ 私の予想が外れることを願ってやみません。
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