BCG接種は、アレルギー疾患の予防に働くか?:MIS BAIR試験

アレルギー増加の原因として「古き友人仮説」が注目され、BCGのアレルギー予防効果が大規模研究で調査されている。

■ アレルギー疾患は世界的に増加しています。アレルギー疾患が増加している理由については、仮説はさまざま提唱されていますが、その一つが「古き友人仮説」です。

■ 「古き友人仮説」(Old Friends Hypothesis)は、日本では衛生仮説として知られている、アレルギー疾患の増加を説明する仮説の1つです。

■ すなわち人間は、様々な微生物と共存関係を築いており、免疫システムはこれらの「古き友人」である微生物と調和して機能するように発達していました。
■ そして衛生状態が改善して抗生物質の使用が増えると、これらを「敵」として認識してしまい、免疫が過剰に反応するようになったという仮説です。

■ この仮説は、なぜ先進国でアレルギー疾患が増加しているのか、また、なぜ農村部よりも都市部でアレルギーが多いのかを説明する一つの理論として注目されています。

■ もちろん、この衛生状態が改善した事自体は、乳児死亡率を大幅に下げたのですから、決して悪いことではないのですが、あくまで『メカニズムとして』考えられているということです。

■ さて、古い友人仮説の考え方から、BCG(Bacille Calmette–Guérin)に含まれるマイコバクテリアへ曝露することでアレルギー疾患を予防すアプローチになるかもという考え方が提示されるようになりました。

■ BCGは弱毒化されたMycobacterium bovis株(弱毒化されたウシ結核菌)であり、本来は結核予防のためのものです。
■ 一方、古い友人仮説から考えると新生児の免疫系をアレルギーを促進するT helper 2細胞依存性反応から、寛容を促進するTh1反応へと傾ける可能性が期待されています。

■ 実際、動物モデルでは、BCGワクチン接種が感作のリスクを低下させることが示されています。しかし、ヒトでの結果は一貫していません。

■ そこで、BCGワクチン接種が感作や食物アレルギー予防に関係するかを調査した大規模ランダム化比較試験が実施されました。

Messina NL, Gardiner K, Pittet LF, Forbes EK, Francis KL, Freyne B, et al. Neonatal BCG Vaccination for Prevention of Allergy in Infants: The MIS BAIR Randomised Controlled Trial. Clinical & Experimental Allergy 2024.

新生児1272人を、出生時にBCG-Denmarkワクチン(0.05 mL皮内投与)群または非BCG群にランダム化し、1年間観察した。

背景

■ Bacille Calmette–Guérin (BCG)ワクチン接種の非特異的効果には、アレルギーに対する予防的効果が含まれる可能性がある。

目的

■ MIS BAIR試験において、新生児BCGワクチン接種が乳児のアレルゲン感作および臨床的食物アレルギーを減少させるかどうかを判断することを目的とした。

方法

■ この無作為化比較試験では、1272人の新生児を出生時にBCG-Denmarkワクチン(0.05 mL皮内投与)群または非BCG群に割り付けられた。

■ 無作為化はリクルート場所、分娩方法、多胎出産によって層別化された。
■ 主要評価項目は、1歳時点での皮膚プリックテストによって判定されたアレルゲン感作の発生率であった。
■ 食物アレルギーは3ヶ月ごとのオンラインアンケートと経口食物負荷試験によって判定された。
■ データは二項回帰を用いてintention-to-treat 解析により分析された。
 Clinicaltrials.gov (NCT01906853)に登録された。

結果

■ 生後1年間のアレルゲン感作はBCG群で22.9%、対照群で18.9%だった(多重代入後の調整リスク差(aRD) 3.8% (95% CI -1.5 to 9.1))。
■ 臨床的食物アレルギーはBCG群と対照群で同程度だった(9.8% vs. 9.6%; aRD 0.2, 95% CI -3.4 to 3.8)。

■ 主要評価項目と母親のBCGワクチン接種歴に交互作用が観察された。

■ 事前に規定された他の潜在的効果修飾因子(性別、分娩方法、家族のアレルギー歴、出生季節、無作為化時の肝炎Bワクチン接種、BCG瘢痕、BCG投与年齢)については交互作用は観察されなかった。

結論

■ 新生児へのBCG-Denmarkワクチン接種は、生後1年間のアトピー性感作または臨床的食物アレルギーを予防しない。

 

 

※論文の背景や内容の深掘り、個人的な感想は、noteメンバーシップにまとめました。

※登録無料のニュースレター(メールマガジン)も始めています。さまざまなテーマを深堀り解説しています。ご興味がございましたらリンクからご登録ください。

 

このブログは、私の普段の勉強の備忘録やメモを記録しているものですので、細かい誤字脱字はご容赦ください。
基本的に医療者向けで、申し訳ありませんが、質問には基本的にお答えしておりません。

知識の共有を目的に公開しておりますが、追加して述べる管理人の意見はあくまでも個人としての私見です。
所属するいかなる団体の立場も代表するものではありませんし、すべての方に向いているという情報でもありません。予めご了承いただきたく存じます。

このブログの『リンク』は構いません。
しかし、文章やアイデアを盗用・剽窃・不適切な引用したり、許可なくメディア(動画を含む)に寄稿することはご遠慮ください。
クローズドな場での勉強会などに使用していただくことは構いません。
Instagram:2ヶ月で10000フォロワーを超えました!!!

Xでフォローしよう