コロナ感染後は、軽症であっても認知障害が起こっているかもしれない

コロナ感染後の認知機能障害が注目されているなか、英国の大規模研究でブレインフォグなどの症状と実行機能・記憶機能への影響が調査された。

■ 最近、コロナ感染後の後遺症について、特に認知機能への影響が話題になっています。
■ コロナ後の症候群として、記憶力低下や思考・集中力の困難、いわゆる「ブレインフォグ」がよく知られています。
■ これらの症状は、コロナが長期的に認知機能に影響を与える可能性を示唆しています。

■ ブレインフォグをどのように客観的に測定するかという問題はあります。

■ そして、ブレインフォグも関連したコロナ後の認知機能障害については、多くの研究者が注目しており、最近、NEJMに発表された論文が、さらに衆目を集めました。

■ このNEJMで発表された観察研究では主に2つの仮説を検証しようとしてました。
■ 1つ目は、コロナ感染後には測定可能な認知機能障害があり、その程度は病気の期間や重症度に関連するというもの。
■ そして2つ目は、長期症状(特に記憶力低下やブレインフォグ)があると、実行機能や記憶機能に客観的な障害が観察されるというものです。

■ 実行機能とは、計画立案、意思決定、問題解決などの、高度な認知機能のことです。
■ 日常生活を円滑に送るのに重要な機能といえます。

■ この検討は、英国で実施中のREACT(Real-Time Assessment of Community Transmission)コホートから得られた認知課題のパフォーマンスデータを分析され、相当大規模なものでした。

Hampshire A, Azor A, Atchison C, Trender W, Hellyer PJ, Giunchiglia V, et al. Cognition and Memory after Covid-19 in a Large Community Sample. New England Journal of Medicine 2024; 390:806-18.

英国の80万人の成人を対象に、2022年8月1日から12月30日にかけて、オンラインの認知機能評価を実施した。

背景

■ コロナウイルス感染症2019(COVID-19)後の認知症状はよく知られている。
■ しかし、客観的に測定可能な認知機能障害が存在するか、また、それがどの程度持続するかは不明である。

目的

■ 英国における研究により、80万人の成人を対象に、認知機能のオンライン評価の実施を依頼した。

■ 8つの課題にわたる全体的な認知スコアを推定した。
■ 感染発症後12週間以上持続する症状のある参加者が、客観的に測定可能な全体的な認知機能障害を有し、特に最近の記憶力低下や思考・集中力の困難("ブレインフォグ")を報告した参加者において、実行機能と記憶の障害が観察されるという仮説を立て、検討した。

結果

■ オンラインの認知評価を開始した141,583人の参加者のうち、112,964人が完了した。

■ 多重回帰分析において、症状が4週間未満または12週間以上で改善したCOVID-19回復者は、SARS-CoV-2に感染していないか未確認感染のno-COVID-19群と比較して、全体的な認知機能に同様の小さな欠損があった(それぞれ-0.23 SD [95%信頼区間{CI}, -0.33から-0.13]および-0.24 SD [95% CI, -0.36から-0.12])。
■ 改善していない持続的な症状のある参加者では、no-COVID-19群と比較してより大きな欠損が見られた(-0.42 SD; 95% CI, -0.53から-0.31)。
■ 元のウイルスまたはB.1.1.7変異株が優勢である期間にSARS-CoV-2感染した参加者は、後の変異株に感染した参加者よりも大きな欠損が見られた(例:B.1.1.7変異株対B.1.1.529変異株で-0.17 SD; 95% CI, -0.20から-0.13)。

■ また、入院した参加者は入院しなかった参加者よりも大きな欠損が見られた(例:集中治療室入院で-0.35 SD; 95% CI, -0.49から-0.20)。

■ 傾向スコアマッチング分析の結果も同様だった。
■ 改善していない持続的症状群とno-COVID-19群を比較すると、記憶、推論、実行機能課題が最大の欠損と関連していた(-0.33から-0.20 SD)。
■ これらの課題は、最近の症状(記憶力低下やブレインフォグを含む)と弱い相関を示した。
■ 有害事象は報告されなかった。

結論

■ COVID-19後に解決した持続症状のある参加者は、より短期間の症状の参加者と同様の客観的に測定された認知機能を示したが、短期間のCOVID-19でも回復後に小さな認知機能欠損と関連していた。
■ 認知機能欠損のより長期的な持続と臨床的意義は不明確であり、継続的な監視が必要である。

 

 

論文のまとめ

✅️ 改善していない持続的な症状のある参加者では、SARS-CoV-2に感染していないか未確認感染のno-COVID-19群と比較して、より大きな認知機能の欠損が見られた(-0.42 SD; 95% CI, -0.53から-0.31)。
長引く症状がある人は認知機能に影響がありました。
新型コロナウイルスに感染して、症状が長く続いている人たちは、感染していない人たちと比べて、認知機能(物事を覚えたり、考えたりする能力)が少し低下していました。これは、長引く症状が脳の働きに影響を与える可能性があることを示しています。

✅️ 初期のウイルスまたはB.1.1.7変異株が優勢である期間にSARS-CoV-2感染した参加者は、後の変異株に感染した参加者よりも大きな認知機能の欠損が見られた(例:B.1.1.7変異株対B.1.1.529変異株で-0.17 SD; 95% CI, -0.20から-0.13)。
初期のウイルス株に感染した人の方が影響が大きかったことがわかりました。パンデミックの初期の頃のウイルス(初期のウイルスやアルファ株)に感染した人は、後の変異株(オミクロン株など)に感染した人よりも、認知機能への影響が大きかったです。これは、ウイルスの種類によって体への影響が違う可能性があることを示しています。また、時間が経つにつれて医療の進歩があったことも関係しているかもしれません。

 

 

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