皮膚の状態が食物アレルゲンの吸収に影響し、全身症状の重症度に関わる可能性があります。
■ 皮膚に付着した食物アレルゲンで強い症状が起こり得るか?という質問があります。
■ なお、皮膚に付着してその部分が赤くなった、食物がついた手で目をこすって目が腫れた…などは重症とはとらえないこととします。
■ あくまで、皮膚に付着した食物が皮膚から一部吸収され、全身的な症状、アナフィラキシーなどを起こした…を想定しています。
■ このテーマに関して、『起こり得る』というお答えになるにはなるのですが、食物アレルギーの重症度には大きな振れ幅があることが関係します。
■ 驚くくらいの重症度の患者さんもいらっしゃるのも確かで、そのような方々の話と言えるでしょう。
■ 皮膚の障害は『感作』が進みやすくなるという問題点も大きく、基礎にアトピー性皮膚炎の問題があることも多いです。
■ その場合、タンパク質そのものが皮下まで吸収されるというだけでなく、ランゲルハンス細胞がタイトジャンクションを貫いて樹状突起という腕を、皮膚表面まで伸ばすことが大きな原因となります。すなわち、タンパク質が皮下まで吸収されることだけではないのです。
■ 一方で、皮膚に障害(ひっかきによる皮膚バリアの大きな破壊など)があると蛋白質が吸収されてしまう可能性が高まります。そのため、血中に一部のタンパク質が乗ってしまい、直接の症状が起こりうることが問題です。
■ では、皮膚からは、どれくらいタンパク質が吸収されうるのでしょうか?
■ ラテックスという天然ゴム蛋白をもちいて、無傷もしくは擦過皮膚へのラテックスタンパク質がどれくらい浸透するかを評価した報告があります。
Hayes BB, Afshari AA, Millecchia LL, Willard PA, Povoski SP, Meade BJ. Evaluation of percutaneous penetration of natural rubber latex proteins. Toxicological sciences : an official journal of the Society of Toxicology 2000; 56 2:262-70.
ヒトの手術標本および25匹の無毛モルモット(CrL: IAF/HA)の皮膚を用い、フローセル透過拡散装置によるin vitro浸透モデルと3ヶ月間の皮膚塗布によるin vivo試験を実施した。
背景・方法
■ ラテックスアレルギーは世界中で深刻な健康リスクとして認識されている。
■ これまで、ばく露評価と介入戦略は主に呼吸器保護に焦点を当ててきたが、本研究ではラテックスアレルギーの発症における経皮タンパク質浸透の潜在的役割を評価する。
結果
■ フローセル透過拡散装置と、ヒトの手術標本および無毛モルモット(CrL: IAF/HA)の皮膚を用いたin vitro浸透モデルにより、ヨウ素標識されたラテックスタンパク質(アンモニア処理および非処理)が正常および擦過皮膚の両方を通過して浸透することが示された。
■ 正常皮膚では1%未満の浸透しか観察されなかったが、擦過皮膚に塗布されたラテックスタンパク質の最大23%が塗布後24時間以内にレセプター液から回収された。
■ 濃縮された流出液のリン酸イメージングにより、3〜26 kDaのタンパク質が明らかになった。
■ 3H2O浸透アッセイを用いてバリア完全性を評価したところ、ラテックスタンパク質の浸透量は擦過の程度と正の相関があることがわかった。
■ 皮膚の免疫組織化学的検査により、ラテックスタンパク質がランゲルハンス細胞が豊富な表皮と真皮に局在していることが確認された。
■ in vitro浸透試験と免疫組織化学的検査の両方により、ラテックスタンパク質浸透の評価においてヒト皮膚の代替として無毛モルモットの皮膚を使用することが支持された。
■ in vivo試験では、3ヶ月間週5日、ラテックスタンパク質(100μg)を局所投与された無毛モルモットの35%でラテックス特異的IgG1の上昇が示された。
結論
■ これらのデータの意味するところは、皮膚がラテックス感作の妥当な経路であるだけでなく、皮膚バリアが損なわれている場合には主要なばく露経路となり得るということである。
論文のまとめ
✅️正常皮膚では1%未満の浸透しか観察されなかったが、擦過皮膚に塗布されたラテックスタンパク質の最大23%が塗布後24時間以内にレセプター液から回収された。
【簡単な解説】ラテックスタンパク質は、傷のない健康な皮膚ではほとんど通過しませんでしたが、傷ついた皮膚では多くのタンパク質が通過しました。これは、皮膚に傷があるとラテックスアレルギーを起こしうる可能性を示しています。
✅️3ヶ月間週5日、ラテックスタンパク質(100μg)を塗布された無毛モルモットの35%でラテックス特異的IgG1の上昇が示された。
【簡単な解説】モルモットの皮膚にラテックスタンパク質を3ヶ月間塗り続けたところ、3匹に1匹以上のモルモットで、ラテックスに対する抗体ができました。これは、皮膚を通してラテックスアレルギーが発生する可能性があることを示しています。
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