アトピー性皮膚炎の患者さんの睡眠障害に対して、ネモリズマブはどれくらい有効か?
■ 先週から今週まで、ニュースレターの更新やら論文の作成やらに力を割いていたら、ブログに手が回らなくなってしまって、しばらく更新に間が空いてしまいました。
■ とはいえ、読みたい論文もたくさん溜まってしまったので、年末までは更新を密にして行きたいと思っていますので、よろしくお願いいたします😌
■ さて、アトピー性皮膚炎は、皮膚が炎症を起こし、多くの人の生活の質を下げてしまいます。
■ この病気が原因で寝不足になる人が子どもで80%、大人で90%もいると報告されています。
■ 夜にかゆくて眠れないと、日中の活動や学校・仕事に集中できなくなるため、生活の質(QOL)が悪くなるのです。
■ このようなかゆみを引き起こす原因の一つが、体内の免疫細胞から出る「IL-31」という物質です。
■ そこで、IL-31をブロックする「ネモリズマブ」という薬が開発され、実際に患者さんに使ったところ、かゆみや皮膚の状態(EASI)の改善効果が高くなることがわかっています(かゆみの指標VASがネモリズマブ群で−42.8%、プラセボ群で−21.4%など)。
■ しかも、長期間使い続けても、この効果は持続します。
■ ただし、かゆみや皮膚症状がどれくらい良くなると、どの程度QOLが良くなるのかといった詳しいところは、十分わかっていません。
■ さて、そのような背景の中、日本で行われた臨床試験のデータを基に、ネモリズマブがかゆみや皮膚症状をどう改善し、さらにQOLにどう影響するかを調べた研究が報告されていました。
Kabashima K, Matsumura T, Komazaki H, Kawashima M, The Nemolizumab JPSG. Nemolizumab Improves Patient-Reported Symptoms of Atopic Dermatitis with Pruritus: Post Hoc Analysis of a Japanese Phase III Randomized Controlled Trial. Dermatology and Therapy 2023; 13:997-1011.
13歳以上の日本人アトピー性皮膚炎患者215名(ネモリズマブ群143名、プラセボ群72名)に対し、60mgネモリズマブまたはプラセボを4週間ごとに皮下投与し16週間観察した。
背景
■ アトピー性皮膚炎は、そう痒、乾燥、紅斑などの症状により、患者のQOLを著しく低下させる疾患である。
目的
■ 中等度から重度のそう痒を伴うアトピー性皮膚炎の日本人患者(13歳以上)において、ネモリズマブ60mgがQOLに与える影響を、患者報告アウトカム(PRO)指標を用いて調査した。
方法
■ PRO指標として、不眠重症度指数(ISI)、皮膚科QOL指標(DLQI)、患者志向湿疹指標(POEM)、およびアトピー性皮膚炎による仕事生産性・活動障害質問票(WPAI-AD)を用いた。
■ PROスコアとそう痒の視覚的アナログスケール(VAS)およびEASIスコアによって評価された症状重症度との相関を検討した。
結果
■ ベースラインから16週目におけるそう痒VASおよびEASIスコアの平均変化率(標準誤差)は、ネモリズマブ群でそれぞれ-45.6%(2.7)および-46.0%(3.2)、プラセボ群で-24.1%(3.7)および-33.2%(4.9)だった。
■ 16週目までに、入眠困難のISIスコアが0となった患者の割合は、ネモリズマブ群で41.6%、プラセボ群で13.1%(nominal p <0.01)、睡眠維持困難では45.4%対10.9%(nominal p <0.01)だった。
■ 同様に、買い物や家庭・庭仕事への支障に関するDLQIスコアが0となった患者の割合は、ネモリズマブ群で45.2%、プラセボ群で18.6%(nominal p <0.01)であった。
■ POEMで評価した夜間の睡眠障害が週0日となった患者は50.8%対16.9%(nominal p <0.01)、皮膚からの出血が週0日となった患者は43.4%対7.5%(nominal p <0.01)であった。
■ WPAI-ADスコアに基づき、ネモリズマブの長期投与により仕事活動能力も改善した。
結論
■ ネモリズマブの皮下投与は、そう痒および皮膚症状を改善し、それにより睡眠、対人関係、社会活動や仕事活動能力を含む複数のPRO指標において患者のQOLを改善した。
論文のまとめ
✅ネモリズマブ群では、16週目のかゆみ(VAS)が45.6%、湿疹の重症度(EASI)が46.0%改善したのに対し、プラセボ群ではそれぞれ24.1%、33.2%の改善に留まった。
【簡単な解説】新薬を使ったグループでは、かゆみと湿疹が半分近く良くなりましたが、偽薬のグループでは改善が3分の1程度でした。
✅16週目において、ネモリズマブ群では41.6%の患者で寝つきの問題が解消し、45.4%で睡眠維持の問題が改善したのに対し、プラセボ群ではそれぞれ13.1%、10.9%に留まった。
【簡単な解説】新薬を使ったグループでは、半分近くの患者さんで寝つきや睡眠の問題が良くなりましたが、偽薬のグループではわずか10人に1人程度しか改善しませんでした。
※論文の背景や内容の深掘り、個人的な感想は、noteメンバーシップにまとめました。
※登録無料のニュースレター(メールマガジン)は、一部有料会員向けも始めていますが、定期的に無料記事も公開予定です。さまざまなテーマを深堀り解説していきますので、ご興味がございましたらリンクからご登録ください。
基本的に医療者向けで、申し訳ありませんが、質問には基本的にお答えしておりません。
所属するいかなる団体の立場も代表するものではありませんし、すべての方に向いているという情報でもありません。予めご了承いただきたく存じます。
しかし、文章やアイデアを盗用・剽窃・不適切な引用したり、許可なくメディア(動画を含む)に寄稿することはご遠慮ください。
クローズドな場での勉強会などに使用していただくことは構いません。