乳児の食物アレルギー性直腸炎は、どれくらいの期間の除去が必要か?
■ 新生児乳児食物蛋白胃腸症は、最近増えている疾患ですが、さまざまなタイプがあります。
■ 最近多くなっているのは、FPIES(Food Protein-Induced Enterocolitis Syndrome:食物蛋白誘発腸炎症候群)と呼ばれるタイプで、繰り返す激しい嘔吐を中心としたもので、重篤な全身症状を伴うこともあります。
■ FPIESでは一部がIgE型アレルギーに移行する可能性もあり、さらに多い原因と卵黄に関しては、寛解まで時間がかかると考えられています。
■ 一方でFPIAP (Food protein-induced allergic proctocolitis) は、最も軽症のタイプと考えられており、血便以外の症状がほとんど見られない点で特徴的です。
■ FPIAPは、IgEという、一般的なアレルギー検査では見分けることが難しく、赤ちゃんの便に血が混じることで見つかることが多いです。
赤ちゃんの血便に血が混じった赤ちゃんのうち最大64%がFPIAPだと言われています(あくまで”最大”です)。もちろん、腸重積症、腸間膜リンパ節炎などは鑑別する必要性があります。
■ FPIAPについてはまだ研究が少なくて、どれくらいの期間、牛乳などをやめればいいのかなどがはっきりしていません。
■ さらに、最近は腸内細菌のバランス(腸内微生物叢)が、この病気のなりやすさや治りやすさに関係しているらしいことがわかってきています。
■ そこで、腸内細菌の変化や種類が、どのように病気の始まりや治り方に関わっているかも含め、いつ頃改善するかを調査した研究が実施されました。
Vallianatou GN, Douladiris N, Mageiros L, Manousakis E, Zisaki V, Galani M, Xepapadaki P, Taka S, Papadopoulos NG. Duration of food protein-induced allergic proctocolitis (FPIAP) and the role of intestinal microbiota. Pediatric Allergy and Immunology. 2024;35:e70008.
生後6か月以内にFPIAPと診断された61名の乳児を対象とし、3か月間の乳製品除去後に、ランダムに牛乳由来ミルクまたはヤギ乳由来ミルクによる負荷試験を実施した。
背景
■ Food protein-induced allergic proctocolitis (FPIAP)は、乳児における直腸出血の最も一般的な原因である。
■ 寛容は、1歳までに獲得されると推測されているが、自然経過に関する研究は乏しく、介入期間の理想的な長さを決定することは困難である。
■ 食物アレルギー発症には腸内細菌叢(IM)が重要な役割を果たすが、FPIAPに関するデータは限られている。
■ 本研究の目的は、ミルク除去を3か月間行った後のFPIAPの寛解率と、腸内細菌叢の経時的変化との関連を評価することである。
方法
■ 生後6か月以内にFPIAPと診断された乳児を対象に、前向き観察研究を実施した。
■ 臨床アルゴリズムに従い3か月間の管理を行った後、ランダムに牛乳由来ミルク(CM)またはヤギ由来ミルク(GM)のいずれかを用いたミルク負荷試験を行った。
■ 腸内細菌叢解析のため、糞便検体は経時的に採取された。
結果
■ 61人の乳児のうち57人がミルク負荷試験を受け(CM 29人、GM 28人)、そのうち55人(96.5%)が寛容を獲得した。
■ CM群(28/29人)とGM群(27/28人)の寛容獲得率に差は認められなかった。
■ 寛容を獲得した平均月齢は6.3か月であった。
■ 腸内細菌科(クレブシエラ属およびシゲラ属が優勢)のクラスターは、症状がある乳児の検体で最も多く認められた。
■ 一方で、バクテロイデス属およびビフィドバクテリア(ビフィズス菌)のクラスターは、症状のない健康と思われる乳児において後期に出現した。
結論
■ 3か月間の除去療法で、ほぼ全例で寛容獲得が可能であった。
■ GMはCMと同程度に寛容が得られた。
■ 症状のあるFPIAPは未熟な腸内細菌叢と関連しているが、病気の寛解は微生物叢の変化と時期的に一致している。
論文のまとめ
✅️ 負荷試験を受けた57名中55名(96.5%)が寛容を獲得し、牛乳由来ミルク群(28/29人)とヤギ乳由来ミルク群(27/28人)で寛容獲得率に差は認められなかった。
【簡単な解説】 3ヶ月後にミルクを試してみたところ、ほとんどの赤ちゃんが牛乳由来ミルクでもヤギ乳由来ミルク群でも問題なく飲めるようになりました。
✅️ 症状のある乳児では腸内細菌叢において腸内細菌科(クレブシエラ属およびシゲラ属)が優勢であったが、症状のない乳児では後期にバクテロイデス属およびビフィドバクテリアが優位となった。
【簡単な解説】 症状がある時は悪玉菌(クレブシエラやシゲラ)が多く、症状が良くなってくると善玉菌(バクテロイデスやビフィドバクテリア)が増えてくることがわかりました。
※ヤギミルクはあくまで乳児に向け加工されたミルクとして使用されており、乳児期にヤギ乳そのものを飲ませることは推奨されていません。
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