重症牛乳アレルギー治療、多い量を目標にする?少量を目標にする?

牛乳アレルギーの免疫療法、少ない量を目標にするか?多い量を目標にするか?

■ 牛乳アレルギーは、日本でも3位にあたる食物アレルギーの原因で、特に乳幼児期に発症します。
■ 小学校までに牛乳アレルギーを克服することが多いのですが、牛乳でアナフィラキシーを起こしたことがある児、もしくは特異的IgE抗体価が高く、下がる傾向に乏しい児はアレルギーが長く続きやすいことがわかっています。

■ アナフィラキシーとは、命に関わることもある強いアレルギー反応です。
■ 牛乳に対するアナフィラキシーは世界的に問題になっています。

■ 乳アレルギーを含む食物アレルギーの治療に、経口免疫療法(OIT)が使われることがあります。
■ しかし、OITでは長期にわたる副作用(有害事象)が多く、アナフィラキシーがおこったり、アドレナリン自己注射薬(エピペン)を使用することもしばしばとされます。
■ さらに、OITを長く続けられずに途中でやめる人も多く、長期的に牛乳を普通に飲める状態になるのは少数というデータもあります。

■ また、OITでどのくらいの牛乳を飲み続けるか(維持量)については、はっきりとした結論が出ていません。
■ ピーナッツアレルギーでは「少ない量を飲み続ける方が副作用が少ない」と言われています。
■ 牛乳アレルギーでも20 mLを目標にすると比較的安全性が高いとの報告がありますが、データの期間が短い上に、牛乳でアナフィラキシーを起こした患者に関する情報がはっきり示されていません。

■ そこで、維持量が多い「高用量経口免疫療法(HOIT: High-dose Oral Immunotherapy)」と、少ない「低用量経口免疫療法(LOIT: Low-dose Oral Immunotherapy)」のどちらが安全で続けやすいかを3年間かけて比較した研究が行われました。

※経口免疫療法は、自己判断で行うことはリスクがあります。必ず、経験豊富なアレルギー専門医にご相談ください。

Ito Y, Nagakura K-i, Sato S, Ebisawa M, Yanagida N. Long-term comparison of high- and low-dose oral immunotherapy in children with anaphylactic cow's milk allergy. Pediatric Allergy and Immunology 2025; 36:e70033.

アナフィラキシーの既往がある6~18歳の牛乳アレルギー患者177名を対象とし、維持量200mLの高用量経口免疫療法(HOIT群、n=78)と維持量3mLの低用量経口免疫療法(LOIT群、n=99)を3年間実施し比較検討を行った。

背景

■ アナフィラキシーを呈する牛乳アレルギーに対する経口免疫療法(OIT)の維持量に関する長期的なエビデンスは十分ではない。

方法

■ 2009年から2013年に行われた維持量200 mLの牛乳を用いたOIT(HOIT)と、2013年から2019年に行われた維持量3 mLの牛乳を用いたOIT(LOIT)における3年間の安全性、有効性、およびアドヒアランス(治療遵守度)を後ろ向きに比較した。
■ 食物経口負荷試験(OFC)で牛乳3 mL以下の摂取によりアナフィラキシーを起こした既往を有する6~18歳の患者を対象とした。

■ 有害症状、2週間の摂取回避後のOFC陰性率、脱落率、免疫学的変化について比較した。

結果

■ HOIT群(n=78)の中央値年齢は8.1歳、LOIT群(n=99)の中央値年齢は7.8歳であり、両群の牛乳特異的IgE値はそれぞれ56.5 kUA/Lおよび49.2 kUA/Lだった。

■ 症状を誘発した回の割合は、1年目・2年目・3年目においてHOIT群では20.88%、13.73%、7.31%、LOIT群では11.81%、8.15%、6.30%だった。
■ 3年後、HOIT群では29%の患者が200 mLの牛乳でOFCを合格し、LOIT群ではそれぞれ47%、18%、5%の患者が25 mL以上、50 mL以上、100 mLの牛乳でOFCをパスした。

■ 3年後の脱落率はHOIT群が24%、LOIT群が11%であり、牛乳特異的IgE抗体価はHOIT群で88%、LOIT群で78%減少した。

結論

■ HOITはより多量の牛乳摂取を可能にする。
■ LOITは安全性が高く、アナフィラキシーを呈する牛乳アレルギー患者の治療遵守度も高い可能性がある。

 

論文のまとめ

✅️症状を誘発した回の割合は、1年目・2年目・3年目においてHOIT群では20.88%、13.73%、7.31%、LOIT群では11.81%、8.15%、6.30%だった。
【簡単な解説】 たくさんの量を目指すグループ(HOIT)のほうが、症状が出る回数が多かったが、どちらのグループも年々症状が出にくくなっていった。

✅️3年後、HOIT群では29%の患者が200mLの牛乳で食物負荷試験をパスし、LOIT群ではそれぞれ47%、18%、5%の患者が25mL以上、50mL以上、100mLの牛乳で食物負荷試験をパスした。
【簡単な解説】 たくさんの量を目指すグループ(HOIT)では、3年後に約3割の子どもがコップ1杯分の牛乳を飲めるようになった一方、少ない量を目指すグループ(LOIT)では、半数近くの子どもが25mLは飲めるようになった。

 

 

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