1歳未満にRSウイルスに罹ると、将来の喘息発症リスクが上がるかもしれない:INSPIRE研究

赤ちゃんのときにRSウイルスに感染すると、その後、喘息になりやすくなる?

■ RSウイルス(RSV)は、赤ちゃんの呼吸器に感染して重い症状を引き起こすことが多く、世界中で赤ちゃんの死亡や病気の大きな原因になっています。
■ そもそも、「赤ちゃんのときにRSVによる細気管支炎を起こすと、のちの小児喘息と関係がありそうだ」と報告されてきました。

■ しかし、「RSV細気管支炎」は感染した赤ちゃんの一部が重症化しているだけで、本当にRSVに暴露(感染)したことを正確に捉えきれていない可能性があります。
■ さらに、もしかすると、生まれつきRSVにかかりやすい遺伝子をもっていたり、喘鳴を起こしやすい遺伝子をもっていることが原因で、RSV細気管支炎と小児喘息の関係が強く見えているだけかもしれないという研究結果もあります。
■ つまり、「RSV感染」が本当に喘息の原因となりうるのかどうかは、まだ十分わかっていなかったといえます。

■ 乳児期は肺や免疫が発達する大事な時期です。このときにRSVの感染を防ぐと将来の喘息リスクが減るかもしれない、という点です。
■ そこで、大きな集団(出生コホート)の赤ちゃんを対象に、重症かどうかにかかわらず「RSVに感染したかどうか」を見極める方法で、喘息の発症リスクをみる研究が行われました。

■ 結果はどうだったのでしょうか?

Rosas-Salazar C, Chirkova T, Gebretsadik T, Chappell JD, Peebles RS, Jr., Dupont WD, et al. Respiratory syncytial virus infection during infancy and asthma during childhood in the USA (INSPIRE): a population-based, prospective birth cohort study. Lancet 2023; 401:1669-80.

健康な正期産児1,946名を対象に、分子学的・血清学的手法による受動的・能動的な監視を組み合わせ、生後1年間のRSウイルス感染の有無を判定し5歳まで追跡調査を行った。

背景

■ 乳児期の重症呼吸器合胞体ウイルス(Respiratory syncytial virus; RSV)感染は、小児期における喘鳴を伴う疾患の発症と関連があると報告されている。
■ しかし、乳児期にRSVに感染しないことが小児期の喘息発症と関連するかどうかは不明である。

方法

■ 健康な正期産児1,946名を対象とした大規模な人口集団ベースの出生コホートにおいて、分子学的および血清学的手法を用いたウイルス同定による受動的・能動的な監視を組み合わせ、乳児期最初の1年間におけるRSV感染の有無(未感染 vs 感染)を判定した。

■ その後、主要アウトカムである5歳時の現在の喘息の有無を調べるために前向きに追跡した。
■ 統計モデルでは、子どもの性別、人種・民族性、母乳育児の有無、保育施設への通園の有無、胎児期または乳児期早期における受動喫煙への曝露、母親の喘息の有無を補正した。

結果

■ 登録された1,946名の適格な児のうち、1,741名(約89%)が乳児期最初の1年間のRSV感染状況を評価できるデータを有していた。

■ 乳児期にRSV感染を有した小児の割合は1,741人中944人(54%、95%信頼区間[CI]=52–57%)だった。
■ 5歳時点での現在の喘息の割合は、RSV未感染児では587人中91人(15.50%)であり、RSV感染児の670人中139人(20.75%)よりも低かった。
■ 乳児期にRSVに感染しなかった場合、5歳時の現在の喘息リスクは約25%低下し(調整RR=0.74、95%CI=0.58–0.94、p=0.01)、関連が示唆された。
■ 乳児期のRSV感染を予防することにより回避できる可能性がある5歳時の現在の喘息の割合は推定で約15%(95%CI=2.19–26.84)だった。

解釈

■ 健康な正期産児において、生後1年目にRSVに感染しないことは、小児喘息の発症リスクを大幅に低減することと関連していた。
■ これらの所見は、乳児期のRSV感染と小児の喘鳴を伴う表現型に、因果的かつ年齢依存的な関連があることを示唆する。
■ しかし因果関係を最終的に確立するには、初回RSV感染を予防または遅延させる、あるいは重症度を低減させる介入が小児喘息に与える影響を検討する必要がある。

 

論文のまとめ

✅️RSV感染児は944人(54%)で、5歳時の喘息発症率はRSV感染児で20.75%、未感染児で15.50%と有意な差を認めた。
【簡単な解説】RSウイルスに感染した子どもは、感染しなかった子どもと比べて、5歳になった時に喘息を持っている割合が約5%高くなった。

✅️乳児期のRSV感染を予防することで、5歳時における喘息発症の約15%を予防できる可能性が示唆された。
【簡単な解説】赤ちゃんの時期にRSウイルスへの感染を防ぐことができれば、5歳の時の喘息の発症を15%程度減らせる可能性があることがわかった。

 

 

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