アトピー性皮膚炎に対するウパダシチニブ増量とデュピルマブ。16週間比較して効果と副作用に違いはあるか?:Level Up試験

アトピー性皮膚炎の新薬の効果の差は?

■ アトピー性皮膚炎は、かゆみと湿疹をくり返す病気で、生活の質を下げてしまうことがあります。
■ すでに多くの治療法がありますが、それでも十分に治りきらない人がいるため、新しい治療の工夫が必要とされています。

■ ウパダシチニブ(リンヴォック)は、体の中の炎症を強める働きをする酵素(JAK)のうち、特にJAK1をおさえてかゆみや湿疹を改善させます。
■ 一方、デュピルマブは炎症に関わる物質(IL-4やIL-13)をブロックし、皮膚の炎症を改善させます。

■ どちらも中等症から重症のアトピー性皮膚炎に使われていますが、ウパダシチニブは15 mgと30 mg効果や副作用の頻度も違うため、その効果や安全性も比較する必要があります。

■ 先行研究では、ウパダシチニブ15mgより30mgのほうが皮膚症状の改善やかゆみの改善が早く、良い改善率が得られましたが、小児でメインの容量といえるウパダシチニブ15mgについては情報が少なかったといえます。

■ そこで、まずウパダシチニブ15mgで治療を始めて必要に応じて30 mgに増量する方法と、デュピルマブの効果や安全性を直接比べる試験(Level Up試験)が行われました。
■ さらに、湿疹の重症度を示すEASIが9割以上改善すること(EASI 90)、もしくはかゆみの評価がほぼなくなるレベル(WP-NRSが0または1)を同時に達成できる割合も主要な目標とて検討されました。

■ 今までに比較すると「かなり高い目標」を掲げた研究といえるでしょう。
■ 結果はどうだったでしょうか?

※この結果をもってウパダシチニブが優勢とは限らないことは、noteメンバーシップの後半で解説しました。もちろん、UPAが重要な薬剤であることも間違いないのですが。

Silverberg JI, Bunick CG, Hong HC-h, Mendes-Bastos P, Stein Gold L, Costanzo A, et al. Efficacy and safety of upadacitinib versus dupilumab in adults and adolescents with moderate-to-severe atopic dermatitis: week 16 results of an open-label randomized efficacy assessor-blinded head-to-head phase IIIb/IV study (Level Up). British Journal of Dermatology 2025; 192:36-45.

中等度から重度のアトピー性皮膚炎があり、既存の全身療法に対して不十分な反応を示した、または使用が望ましくなかった思春期および成人患者を対象に、ウパダシチニブ(15mgから開始し臨床反応に応じて30mgに増量)群とデュピルマブ(添付文書通り投与)群にランダム化し、16週間の治療を実施するLevelUp試験(第IIIb/IV相国際多施設ランダム化オープンラベル試験)が行われた。

背景

■ アトピー性皮膚炎(AD)は、強い痒みと湿疹性皮膚病変を特徴とする慢性皮膚疾患である。
■ 全身療法を継続していても、増悪や臨床的負担が大きい状態が続く患者がいる。

目的

■ 一日一回投与のウパダシチニブ(UPA)を、15 mgから開始し臨床反応に応じて30 mgに増量する方法と、添付文書通りに投与されるデュピルマブ(DUPI)とを比較し、その有効性と安全性を評価し、16週時点における主要解析結果を示す。

方法

■ 本「Level Up試験」は、第IIIb/IV相の国際多施設ランダム化オープンラベル(有効性評価者盲検)試験であり、中等度から重度のADを有し、既存の全身療法に対して十分な反応が得られなかった、または使用が望ましくなかった思春期および成人を対象とした。

■ 被験者はUPA群またはDUPI群にランダムに割り付けられ、16週間の治療(期間1)を受けた。
■ UPA群では、15 mgで治療を開始し、4週目以降にEczema Area and Severity Index(EASI)が50%以上改善(EASI 50)しない、または最悪痒み数値評価スケール(WP-NRS)が4ポイント以上改善しない場合、あるいは8週目以降にEASI 75を達成しない場合は、30 mgに増量された。

■ 主要評価項目は、16週時点でEASIが90%以上改善(EASI 90)すると同時にWP-NRSが0/1となる割合だった。
■ 優先度付けされた複数の副次評価項目として、さまざまな時点および反応レベルでの皮膚および痒みに対する効果が評価された。

■ 安全性に関する評価は、試験期間を通して実施された。

結果

■ 16週時点でEASI 90とWP-NRS 0/1の両方を同時に達成した割合は、UPA群(19.9%)がDUPI群(8.9%)に比べて有意に高かった(P<0.001)。

■ UPAは、優先度付けされたすべての副次評価項目においてDUPIに対して有意な優越性を示し、事後解析では痒み反応が治療2日目からより高率に改善することが示唆された。

■ 試験期間中、新たな安全性上の懸念は認められなかった。

結論

■ 中等度から重度のADに対して、UPAを15 mgから開始し臨床反応に応じて増量する治療法は、DUPI(添付文書通り)と比較して、16週時点で皮膚のほぼ完全な改善(EASI 90)と痒みがほとんどない状態(WP-NRS 0/1)を同時に達成する主要評価項目において優越性を示した。
■ さらに、すべての優先度付けされた副次評価項目においても、さまざまな皮膚および痒みの反応や時点で優位な結果を示した。
■ UPAおよびDUPIの既存の安全性プロファイルと比較して、新たな安全性上の懸念は認められなかった。

 

 

論文のまとめ

✅️ 16週時点でEASI 90とWP-NRS 0/1の両方を同時に達成した割合は、ウパダシチニブ群(19.9%)がデュピルマブ群(8.9%)に比べて有意に高かった(P<0.001)。
【簡単な解説】アトピー性皮膚炎の症状がほぼ完全に改善し(皮膚症状が90%以上改善)、同時にかゆみもほとんどなくなった患者の割合が、ウパダシチニブを服用した患者のほうが、デュピルマブを使用した患者よりも2倍以上多かったことを示している。

✅️ ウパダシチニブ群では治療開始から2日目という早期からかゆみの改善が認められ、すべての優先度付けされた副次評価項目においてもデュピルマブに対して有意な優越性を示した一方、新たな安全性上の懸念は認められなかった。
【簡単な解説】ウパダシチニブはとても早くからかゆみを改善させる効果があり、評価されたすべての項目でデュピルマブよりも優れた効果を示したが、副作用については既に知られている範囲内で、新たに心配すべき問題は見つからなかったことを意味している。

 

 

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