
電子タバコの受動喫煙ー健康リスクはどれくらい起こるか?
■ 電子タバコ(vapingとも呼ばれます)の使用は、米国の高校生の間で増えているそうです。
■ 2017年には12年生(高校3年生相当)の11%が使用していたのが、2019年には25.4%まで増加したのだそうです。
■ 日本でも、電子タバコ市場は大きくなり、2023年には約11億米ドル規模に達し、2033年までに約59億米ドルに成長すると予測されています。
■ 日本の喫煙者の中で加熱式タバコを利用している割合は約36.37%に達していて、特に若年層、特に20代女性では約61%と高いという問題があります。
■ そうなると、電子タバコを使用していない人々が、他者が使用する電子タバコから出る蒸気に曝露される機会も増えると考えられます。
■ 電子タバコ自体の健康への悪影響については研究が進んでいますが、二次的にニコチンの蒸気を吸い込むという受動喫煙の健康影響についてはあまり研究されていません。
■ この問題は重要です。
■ なぜなら、電子タバコを自分で使うかどうかは選択できますが、周囲の人が使用する電子タバコの蒸気を吸い込むのは選択できないからです。
■ 家庭内での電子タバコ使用に対する親の態度は、通常のタバコより寛容な傾向があります。
■ ある調査では、喫煙者がいる家庭の37.4%で室内喫煙が許され、電子タバコ使用者がいる家庭では60.4%で室内使用が許されていたそうです。
■ これは、多くの人が電子タバコのニコチンに、一般的なタバコ以上にされされているといえます。
■ しかし、電子タバコのエアロゾル(蒸気)には、肺に害を与える可能性のある成分が含まれています。
■ たしかに電子タバコからの粒子状物質への曝露は通常のタバコより少ないですが、「超微粒子」の濃度は逆に高い場合があり、これらの粒子は肺の奥深くまで到達する可能性があります。
■ そこで、2022年のThorax(英国胸部学会の公式ジャーナル)に、南カリフォルニア小児健康研究の大規模データを使用し、電子タバコや通常のタバコの使用状況、受動喫煙の状況などが報告されていましたので共有します。
Islam T, Braymiller J, Eckel SP, Liu F, Tackett AP, Rebuli ME, et al. Secondhand nicotine vaping at home and respiratory symptoms in young adults. Thorax 2022; 77:663-8.
南カリフォルニア小児健康研究コホートから集められた2,097人の若年成人(平均年齢17.3歳)を対象に、家庭内での二次的ニコチン蒸気曝露(電子タバコ)と呼吸器症状の関連を調査した。
背景
■ 電子タバコ使用(ベイピング)の高い普及率にもかかわらず、二次的ニコチン蒸気曝露の健康影響についてはほとんど知られていない。
目的
■ 二次的ニコチン蒸気曝露が若年成人の呼吸器系の健康症状と関連しているかどうかを調査すること。
方法
■ 南カリフォルニア小児健康研究コホートにおいて、毎年報告される喘鳴、気管支炎症状、息切れに対する二次的ニコチン蒸気曝露の影響を調査した。 ■ データは2014年(平均年齢:17.3歳)から2019年(平均年齢:21.9歳)まで、研究参加者(n=2097)から毎年の調査を通じて収集された。
■ 関連する交絡因子を制御した後、二次的ニコチン蒸気と呼吸器症状の関連を評価するために混合効果ロジスティック回帰を使用した。
結果
■ この集団における二次的ニコチン蒸気曝露の有病率は、研究期間中に11.7%から15.6%に増加した。
■ 喘鳴、気管支炎症状、息切れの有病率は、研究期間中にそれぞれ12.3%から14.9%、19.4%から26.0%、16.5%から18.1%の範囲であった。
■ 年齢、性別、人種/民族、親の教育レベルに加え、ベイピング、タバコまたは大麻への能動的・受動的曝露を制御した後、二次的ニコチン蒸気曝露と気管支炎症状(OR 1.40、95% CI 1.06〜1.84)および息切れ(OR 1.53、95%CI 1.06〜2.21)の関連が観察された。
■ 喫煙者もベイパーでもない参加者に分析を限定すると、より強い関連が観察された。
■ 交絡因子の調整後、喘鳴との関連は見られなかった。
結論
■ 二次的ニコチン蒸気曝露は、若年成人における気管支炎症状と息切れのリスク増加と関連していた。
論文のまとめ
✅️ 年齢、性別、人種/民族、親の教育レベル、能動的・受動的曝露を制御後、二次的ニコチン蒸気曝露と気管支炎症状(オッズ比1.40、95%信頼区間1.06〜1.84)および息切れ(オッズ比1.53、95%信頼区間1.06〜2.21)との間に有意な関連が観察された。
【簡単な解説】他の要因(年齢や性別など)を考慮に入れても、家の中で他の人が使う電子タバコの蒸気を吸い込んだ(受動喫煙した)若者は、そうでない若者と比べて、気管支炎の症状(咳や痰など)が約40%多く、息切れが約53%多く発生したことが示されました。つまり、電子タバコの受動喫煙は呼吸器の健康問題を増やす可能性があるということです。
✅️ 自身はタバコ製品を使用していない参加者のみを対象とした解析では、二次的ニコチン蒸気曝露と呼吸器症状の関連はさらに強くなり、気管支炎症状のオッズ比は3.10(210%増加)、息切れのオッズ比は2.05(105%増加)となった。
【簡単な解説】自分自身はタバコや電子タバコを全く使っていない若者だけを見ると、他人の電子タバコの蒸気を吸い込む影響がさらに大きくなり、気管支炎の症状が約3倍、息切れが約2倍に増えたことが示されました。これは、特に自分では喫煙しない人にとって、電子タバコの受動喫煙が呼吸器の健康に悪影響を与える可能性が高いことを強く示しています。
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