
小児のアトピー性皮膚炎に対する新規全身治療薬。有効、かつ安全か?
■ アトピー性皮膚炎は、小児期から始まって大人になっても続くことがある、長く付き合う必要のある皮膚の病気です。
■ 年齢が高くなるまで継続すると、なかなか自然に改善することが期待しづらくなってきます。
■ 特に症状が重いと、かゆくて眠れなかったり、勉強に集中できなかったり、生活の質(QOL)が下がってしまいます。
■ これまでも様々な抗炎症薬がありましたが、症状が重い小児アトピー性皮膚炎に対して、効果が不十分な場合がありました。
■ しかし最近、アトピー性皮膚炎の原因になる体の中の特定の物質(サイトカインなどといいます)をピンポイントで狙い撃ちする「標的療法」っていう新しいタイプの薬剤が増えてきました。
■ その代表が、注射薬「デュピルマブ」、もう一つが、「JAK阻害薬」っていう飲み薬です(他にもさまざま出てきていますが、今回ご紹介する論文では、これらのみの検討です)。
■ これらの新しい薬剤は、成人のアトピー性皮膚炎には効果があることがわかってきて、小児にも適応が広がってきています。
■ ただし、小児に対するこれらの薬剤の安全性や効果に関して、さらに検討を深めていく必要性があります。
■ 特に、小児の治療では「安全性」が大事です。
■ そこで最近、これまでに行われた小児のアトピー性皮膚炎に対する新しい「標的療法薬」の研究結果をまとめてメタアナリシスが実施されました。
Kawamoto N, Murai H, Nogami K, Yamamoto T, Kikkawa T, Yasutomi-Sakai M, et al. Efficacy and safety of systemic targeted therapies for atopic dermatitis in children: A systematic review and meta-analysis. Allergol Int 2025.
背景
■ 近年、小児のアトピー性皮膚炎管理のためにいくつかの標的治療選択肢が利用可能になった。
■ このシステマティックレビューとメタ分析では、小児のアトピー性皮膚炎に対する全身性標的治療の有効性と安全性を評価した。
方法
■ 2023年1月7日までのCENTRAL、MEDLINE、Embase、およびICHUSHIデータベースで入手可能な文献の体系的レビューを実施した。
■ アトピー性皮膚炎を持つ18歳以下の小児を対象とした全身性標的治療(生物学的製剤および小分子)のランダム化比較試験が含まれた。
■ 主要アウトカムはEASI(Eczema Area and Severity Index)と有害事象だった。
■ その他の有効性および安全性アウトカムもメタ分析とバイアスリスク分析に使用された。
結果
■ 3つの薬剤(デュピルマブ、アブロシチニブ、ウパダシチニブ)と1760人の小児を含む11論文に報告された10研究を対象とした。
■ 全身性標的治療はEASI-75反応で湿疹の重症度を有意に改善した(リスク比2.99;95%信頼区間[CI]、2.66-3.37)。
■ しかし、全身性標的治療は治療下発現有害事象と関連していた(リスク差0.05;95%CI、0.01-0.09)。
■ 特にサブグループ分析では小分子でその傾向が見られたが、生物学的製剤ではそのような傾向は観察されなかった。
■ 全身性標的治療は他の有効性アウトカムも有意に改善し、他の安全性アウトカムに有意な関連性は認められなかった。
■ いずれのアウトカムにもバイアスのリスクはなかった。
結論
■ 今回の結果から、全身性標的治療は小児のアトピー性皮膚炎の治療に有効であり、比較的安全であることが示されたが、低分子は有害事象のリスクがやや高い可能性がある。
論文のまとめ
アトピー性皮膚炎を持つ18歳以下の小児1760人を対象に、デュピルマブ、アブロシチニブ、ウパダシチニブの3種類の全身性標的治療(生物学的製剤および小分子)の有効性と安全性を評価した10件のランダム化比較試験を、システマティックレビューとメタアナリシスで分析した。
✅ 全身性標的治療はEASI-75で評価した湿疹の重症度を有意に改善し(リスク比2.99;95%信頼区間[CI]、2.66-3.37)、生物学的製剤(デュピルマブ)は3.16倍、小分子薬(アブロシチニブ、ウパダシチニブ)は2.89倍の効果があった。
【簡単な解説】新しい標的治療薬を使った子どもは、使わなかった子どもと比べて、皮膚の症状が75%以上改善する確率が約3倍高かったことがわかりました。特に「デュピルマブ」という薬は3.16倍、「アブロシチニブ」と「ウパダシチニブ」という薬は2.89倍の効果がありました。
✅ 全身性標的治療は治療下発現有害事象と関連し(リスク差0.05;95%CI、0.01-0.09)、特に小分子薬では副作用の発生率が14%高かったが(リスク差0.14;95%CI、0.08-0.20)、生物学的製剤ではそのような傾向は観察されなかった(リスク差-0.06;95%CI、-0.12-0.00)。
【簡単な解説】これらの新しい標的治療薬の安全性について、全体として、新しい薬を使った場合、副作用が起きる確率は使わなかった場合より5%高くなりました。しかし、薬の種類によって大きく違いがあり、「デュピルマブ」は副作用がむしろ少ない傾向があった一方で、「アブロシチニブ」と「ウパダシチニブ」は副作用が14%多く発生しました。
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