
赤ちゃんの腸内環境とアトピー性皮膚炎の関係とは?
■ アトピー性皮膚炎(アトピー)は、今や5人に1人の子どもがかかる一般的な皮膚の病気です。
■ 私たちの体と環境の接点には、細菌や真菌、ウイルスなどの微生物が住んでいます。これを「微生物叢」と呼びます。
■ 特に赤ちゃんの時期に形成される微生物叢は、免疫システムの発達に大きな影響を与えることがわかってきています。
■ この時期の微生物叢のバランスが崩れると、後にアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患を発症するリスクが高まることが示されています。
■ その流れで、抗生物質が腸内微生物のバランスを崩し、それがアトピー性皮膚炎の発症につながっている可能性が示唆されています。
■ 最近、カナダで行われている大規模な子どもの健康調査(CHILDコホート研究)のデータを使って、この考えを改めて確認されました。
■ さらに、約1,450人の赤ちゃんの便サンプルを分析して、腸内の細菌のタイプと量を調べました。
■ 結果はどうだったのでしょうか。
※必要な場合の抗菌薬を使ってはいけないと言っているわけではありません。
Hoskinson C, Medeleanu MV, Reyna ME, Dai DLY, Chowdhury B, Moraes TJ, et al. Antibiotics taken within the first year of life are linked to infant gut microbiome disruption and elevated atopic dermatitis risk. J Allergy Clin Immunol 2024; 154:131-42.
カナダ健康乳児縦断的発達コホート研究(CHILD Cohort Study)に参加した乳児を対象とし、生後1年以内の全身性抗生物質の使用状況と5歳時のアトピー性皮膚炎診断との関連、1歳時点での約1,179人の乳児の便サンプルを用いた腸内細菌叢のメタゲノム解析を行い、5歳まで追跡調査した。
背景
■ アトピー性皮膚炎(AD)は小児および成人集団の両方において最も一般的な慢性炎症性皮膚疾患である。
■ ADの発症は抗生物質の使用と関連しており、抗生物質使用は微生物叢の攪乱を引き起こし、免疫系機能の異常と関連している。
■ しかしながら、抗生物質使用に関連する腸内微生物叢の不均衡とADとの関連性は一貫して証明されていない。
目的
■ 本研究は全身性(経口または静脈内)抗生物質使用とADの関係を媒介する時期と特定の因子を解明することを目的とした。
方法
■ CHILD(Canadian Healthy Infant Longitudinal Development)コホート研究参加者の抗生物質使用歴と生後早期の腸内微生物叢の変化をADと関連付けるために、統計モデリングと差分解析を用いた。
結果
■ 生後1年間に全身性抗生物質を投与された場合、それ以降と比較してADのリスクが上昇すること(調整オッズ比[aOR] = 1.81; 95%信頼区間[CI]: 1.28-2.57; P < .001)、および抗生物質コース数の増加がADリスクの用量依存的な上昇と相関していた(1コース: aOR: 1.67; 95% CI: 1.17-2.38; 2コース以上: aOR: 2.16; 95% CI: 1.30-3.59)。
■ さらに、ADと全身性抗生物質使用の両方に関連する微生物叢の変化が、抗生物質使用のAD発症への影響を完全に媒介することを実証した(間接効果β = 0.072; P < .001)。
■ 後にADを発症する参加者の1歳時の腸内微生物叢の変化には、Tyzzerella nexilisの増加、単糖利用の増加、それに並行してBifidobacteriumおよびEubacterium種と発酵経路の減少が含まれていた。
論文のまとめ
✅️ 生後1年以内に全身性抗生物質を投与された乳児は、5歳時点でのアトピー性皮膚炎の発症リスクが約1.81倍に上昇し、抗生物質の使用回数が多いほどリスクはさらに高まった(1回使用で約1.67倍、2回以上使用で約2.16倍)。
【簡単な解説】生まれてから1歳になるまでの間に抗生物質を使った赤ちゃんは、使わなかった赤ちゃんに比べて、5歳になったときにアトピー性皮膚炎になる可能性が約1.8倍高くなることがわかりました。さらに、抗生物質を使った回数が1回だと約1.7倍、2回以上だと約2.2倍と、使う回数が増えるほど、その可能性も高くなりました。
✅️ 抗生物質の使用によるアトピー性皮膚炎発症への影響の約39%は、腸内細菌叢の変化(特に Tyzzerella nexilis の増加、ビフィドバクテリウム属やユーバクテリウム属の減少、単糖利用の増加、発酵経路の減少など)を介した間接的なものであることが統計的に示された。
【簡単な解説】抗生物質を使うとなぜアトピー性皮膚炎になりやすくなるのかを詳しく調べたところ、抗生物質が腸内細菌のバランスを変化させることが、大きな原因の一つであることがわかりました。具体的には、ある種の悪玉菌が増えたり、善玉菌が減ったり、細菌たちの働き方が変わってしまったりすることが、アトピー性皮膚炎の発症に影響しているようでした。その影響は、全体の約39%にもなると計算されました。
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