
アトピー性皮膚炎と内服JAK阻害薬。これらの違いを検討すると?
■ アトピー性皮膚炎は世界規模の問題です。
■ この病気は単に皮膚の問題だけでなく、患者さんの心理状態や日常生活、仕事にも大きな影響を与えます。また、医療費もかさむため、社会全体の問題でもあります。
■ 最近、体内の「JAK-STAT」という仕組みがアトピー性皮膚炎に大きく関わっていることがわかっています。これは細胞同士の情報伝達に関わる重要な仕組みで、この仕組みを邪魔する「JAK阻害薬」という薬剤が開発されました。
■ これまでの研究で、JAK阻害薬は従来の治療法では効果が不十分だった患者さんにも効果があることがわかっています。しかし、どのJAK阻害薬が一番効果的で安全なのかを直接比較した研究はありませんでした。
■ 現状のメタアナリシスなどでは、ウパダシチニブの有効性が高いことが知られています。
■ しかし実際の臨床現場では、研究結果とは異なる現象も観察されています。例えば、一般的に効果が劣ると考えられがちなアブロシチニブが、実際の患者さんでは高い完全寛解率を示すという報告もあります。
Ibba, L., et al (2025). Real-World Effectiveness and Safety of Upadacitinib and Abrocitinib in Moderate-to-Severe Atopic Dermatitis: A 52-Week Retrospective Study. Journal of Clinical Medicine, 14(9), 2953.
■ また、薬の用量によって効果の順位が変わることも明らかになっており、単純に「どの薬が一番良い」とは言えない複雑さがあります。さらに、薬の安全性についても、単に副作用の数だけでなく、その「質」に違いがあることがわかってきました。
Silverberg, J. I., et al (2023). Comparative Efficacy of Targeted Systemic Therapies without Topical Corticosteroids: Updated NMA. Dermatology and Therapy, 12(10), 2297-2327.
Li, J., et al (2024). Janus Kinase Inhibitors in Atopic Dermatitis: Umbrella Review of 24 Meta-analyses. Frontiers in Immunology, 15, 1342810.
■ そこで、2022年とすこし前ですが、この3つの代表的なJAK阻害薬を比較することで、これらの複雑な問題に答えを出そうとした研究が実施されました。
Wan H, Jia H, Xia T, Zhang D. Comparative efficacy and safety of abrocitinib, baricitinib, and upadacitinib for moderate-to-severe atopic dermatitis: A network meta-analysis. Dermatol Ther 2022; 35:e15636.
中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者を対象に、3つの主要な経口JAK阻害薬(abrocitinib、baricitinib、upadacitinib)の効果と安全性をネットワークメタ解析により比較検討し、10の適格研究を最終解析に含めて評価した。
背景
■ ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬はアトピー性皮膚炎(AD)の有望な治療選択肢となっているが、JAK阻害薬を相互に直接比較した研究は報告されていない。
■ そこで、中等症から重症のADに対する3つの主要な経口JAK阻害薬(abrocitinib、baricitinib、upadacitinib)の比較効果と安全性を検討するためにこのネットワークメタ解析を実施した。
方法
■ まず、公表されたメタ解析から適格な研究を特定し、次に2021年2月から7月の間に公表された追加研究を得るためにPubMedを検索した。
■ 臨床効果と安全性をそれぞれ主要および副次アウトカムとして評価した。
■ データ抽出と方法論的質の評価後、ADDIS 1.4ソフトウェアを用いてペアワイズおよびネットワークメタ解析を実施した。
結果
■ 10の適格研究が最終解析に含まれた。
■ 統合結果では、abrocitinib、baricitinib、upadacitinibは、プラセボと比較してより高い医師による全般的評価(IGA)、湿疹面積・重症度指数(EASI)反応を得たが、abrocitinibとupadacitinibは用量に関係なく、より多くの治療関連有害事象(TEAEs)を引き起こした。
■ ネットワークメタ解析により、upadacitinib 30mgは全ての治療法に優り、upadacitinib 15mgはabrocitinib 200mgを除く残りの治療法よりもIGAとEASI反応において優れていたことが明らかになった。
■ さらに、abrocitinib 200mgは臨床効果において、abrocitinib 100mg、baricitinib 1mg、2mg、4mgより優れていた。
■ しかし、upadacitinib 30mgはより多くのTEAEsを引き起こした。
結論
■ Abrocitinib、baricitinib、upadacitinibは、成人および青年のAD患者において一貫して有効な治療法であったが、upadacitinib 30mgは短期研究において最適な選択肢である可能性がある。
■ Upadacitinib 30mgによるTEAEsのリスクを軽減するために、より多くの努力がなされるべきである。
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